3.VS影(1)
11月4日。月曜日。午後零時十分。
藤崎守は大学の食堂に居た。
食事をしていた訳でも、休憩していた訳でもない。
彼は人を待っていた。
白い丸いテーブルを囲む様に白いイスが並べられていて、また、壁際のテーブルだけは四角く、壁側の椅子はソファになっている。
テーブルの数など数えたこともなかったが、それなりにある。
しかし昼時は学生で溢れかえっていて、全学生をここに集めるにはテーブルとイスは少なすぎる。
大学内で食事をするならまずここだ。
ここから溢れた学生は室外のテーブル席、毎日誰かしらがライブ活動を行っているステージ周辺、などなど食事をする場所はいくらでもある。
人を待っていると言ったが、別段待ち合わせている訳ではない。
待っていると言うよりは、探している。
先日自宅に忍び込んだ輩を探しているのだ。
「俺の行動範囲を知っていて、普段は警戒していて近づく意思は無く、どちらかと言うと近づかない様にしているなら──普段俺が行かない場所に居るかもしれないと思ったが、検討違いか?」
藤崎守は自分の考えを整理したり纏めたり、また自分の中で論を交わしたりすることが時折あるが、そういった時には自分の考えを口に出したり文字に起こしたりするクセの様なものがあった。
周囲から見れば何を言っているのか、何が書いてあるのか全く分からないので、少々気味悪がられる時がある。
それを知ってからはそういうことをする時には一人の時を選ぶようになった。
今も彼は一人だ。
周りに人は大勢いるが、一人だ。
彼は今、彼の世界にいる──。
「顔はカメラで見ていたから覚えてはいるが、この大学のやつなら学生名簿でも漁る方が早かったか」
「うわッ──」
「ん? ──」
突然、彼の横にいた生徒が驚いて藤崎守を見た。
「しまった、影が移動したか」
藤崎守は柱にもたれ掛かっていたのだが、その横のテーブルで団欒していた学生が驚いたのだ。
「場所を移すか」
藤崎守は右手から指輪を外して、その場から離れる。
何故、学生が驚いたのか、藤崎守は理解していた。
────それからずっと昼休みの間、食堂にいたが、目的の人物は現れなかった。
「指輪を狙う者、いったい何者なのか、……やはり勝者となるためか」
それから1週間が過ぎた。
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