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夢想の悪魔  作者: 虎娘
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2.指輪(3)


11月2日、大学のゼミ室で集まり、それから二人は大学から一駅の場所に居た。

雲の無い青空だったが、風が冷たくて出掛けるのは皆億劫になる天気だった。

二人、とは大学生の男と高校生の女の子だ。

端から見ればカップルか仲の良い兄弟だろう。

だが二人の関係はそんな風なものではなかった。

彼らは今は亡き命の復讐という共通の感情を持ち合わせて集まったのだ。

男の方の名前は大学4年の本多青葉、女の子の方は高校3年の綾羅木理彩である。

「兄さんの大学で確認できた指輪使いは、七瀬一颯、藤崎守、神座大輔、蒲生慎太郎の4人よ」

「理彩の話を信じるなら、神座大輔と僕を除いて──」

「そう、つまり容疑者は3人」

「同じ法学部は避けて、最初は情報学部3回の藤崎守からだね? 大学のデータが正しいなら、今見えるあの家が藤崎守の家だと思う」

二人の視線の先には、大通りから曲がった先にある住宅地があった。

「父親はいない、母親は単身赴任中、弟がいるけれど今は部活で高校のはずよ」

「問題は藤崎守本人だ。 恐らく家に居る……、彼の事はプロファイリング済みだが、秘密や未知部分が多ければ理彩の能力は使えない」

「強力な能力には不便さが付き物よ、どっちにしても藤崎の指輪の能力を知るまでは拘束できない。 最悪、一瞬でこの世界から消されることになるわ」

「────っ」

彼らは理解していた。

指輪に宿る能力の恐ろしさと、彼ら自身の“戦い方”を。

住宅地に入り、藤崎守の住む一軒家の前で足を止める。

周囲には数人、散歩中の近所の人か、それとも通りすがりの人か。

「ドアを開けるわ……」

青葉と理彩は藤崎家の敷地外から藤崎家の一つしかない出入口を凝視する。

青葉は頷いて、周囲の様子と藤崎家の様子を伺った。

家は三階建てで1階と3階には道路側に面した窓があり、2階には小さいベランダがある。

そして両隣にも同じ大きさの家が建っている。

「鍵が掛かってる……」

「誰も居ない、ということか? ──理彩のパワーで壊せる? 僕が元に戻すよ」

言って、本多青葉は玄関ドアへ歩き出す、そしてドアノブに触れる──。

その直後、ドアノブがドアから引き剥がされてドアが壊れた。

「開いたわ」

まだ敷地の外にいる理彩が言った。

その言葉通り、ひとりでに、ドアが開いた。

玄関の向こうには部屋があり、その左側に2階へと続く階段がある。

「速く入ろう、今なら大丈夫だ」

ひとりでに開いた玄関ドア、事実を知らない者が見れば住人が客を招き入れるためにドアを開けた様に見える。

──綾羅木理彩の右腕が伸びていた。

否、綾羅木理彩の右肩から青白いオーラの様なものがドアへと伸びていた。

これが彼女の指輪に宿る能力の一部だ。

彼女の肩から生えるもう一本の視認できないエネルギーとしての右腕。

この右腕は彼女自身にしか視認できない。

この右腕は本来の彼女の右腕のステータス(長さ、強度、握力など)の1.5倍以上であり、長さや大きさは調節できる。

この右腕と彼女本来の右腕とは別々に稼働させられる。

触覚、痛覚などは通常通り存在する。

今、彼女はこの“右腕”をドアまで伸ばし、ドアを破壊して開けたのだ。

ドアを離れた“右腕”が徐々に短くなっていき、彼女の右腕と同じ大きさになると、最後には彼女の右腕に入っていく様に重なり合って消えた。

理彩は玄関へ駆け寄る──。

そして、壊れたドアは“元に戻っていた”。

「靴が、無いわね……」

「靴箱に仕舞っているだけかもしれない、慎重に散策しよう」

声帯の振動を無くし、微かな声で二人は会話する。

「まずこの部屋からだ」

二人は靴を脱いで手に持ち、家に上がって目の前の部屋のドアを理彩の“右腕”で開けた。

和室、この家では物置部屋に位置付けられているのかビニールの被った衣類やマンガ雑誌、おもちゃなどなど人一人が寝転がれるスペースを残して後は物が置かれている。

整頓されている様な場所もあれば、適当に置かれて物が散乱しているところもある。

入ってすぐ左手に両開きのクローゼットがあり、青葉がそれを開けて中を覗く。

「ここは、あまり頻繁に使われている部屋じゃないようだね」

二人は部屋を出て引戸のドアを閉める。

玄関から向かって右側が和室、左側が2階への階段だが、その真ん中を廊下が通っていて奥には風呂場があった。

それを確認して二人は2階へ上がる。

「ここを見ててくれ、僕は先に3階を確認してくる」

そう言って青葉は3階へ上がっていった。

どうやら今、この家には誰も居ないらしかった。

2階は奥がキッチン、手前がリビングで、部屋の左側に1階と3階への階段がある。

リビングの道路側に面した場所が引戸のガラス窓になっていてその先にベランダがあった。

理彩は落ち着いた様子でゆっくりと部屋を歩き回りながら、“右腕”で時折物に触れて、探っている。

「理彩」

「、──」

名前を呼ばれて少し驚き、振り返って青葉だと確認すると、青葉の方へ向かった。

「ごめん、驚かせたね。 誰も居ないみたいだ、3階に個人用の部屋があるみたいだ、上を調べよう」

頷いて、二人は3階へ上がる。

「こっちの奥の部屋が藤崎守の部屋だと思う」

「あまり素手で触らない方がいいわよ」

「分かっているよ、でも、少しの痕跡くらいは残しておいた方が良いと思ってね」

部屋の家具はベッドと勉強机、それとタンスくらいで、あとは大きなパソコンが机の上にあり、そこら中に本が積まれている。

お世辞にも綺麗などとは呼べないが、本人は場所を把握していてこれで整頓されているのだと言うのだろう。

「パソコンはパスワードが掛かっていてログインできない」

「この部屋から何かしらの証拠を見つけないとダメね」

「そうだね、──ベッドに置いてある本は最近読んだ本なのか……」

「学術書、雑誌、マンガ、──ここに3冊だけ医学書があるわ」

「精神分裂病、幻覚幻聴について、妄想・虚言癖……」

「なるほど、指輪のことは夢だと信じたかったんだろう」

「私は新手の宗教勧誘かと思ったわ──」

理彩がそう言おうとした、その時だった。

「ただいまぁ!」

玄関ドアの開く音と同時に、3階まで声が響く。

「弟だ、まずいぞ」

心拍数が上がる。

部屋のドアを閉じて、その前でドアを見つめながら耳を澄ませる。

「誰も居ないのかー」

階段を駆け上がる音、2階のリビングから声が聞こえた。

「どうする、いざとなれば強行突破しよう」

「強行突破って?」

「一人の内なら、理彩が気絶させて僕が元に戻せばいい、一瞬の記憶の飛びがあるだけだ」

「わかった、──上がってきたわ」

3階への階段を上がる音が聞こえて、二人は散乱する本を退かしてベッドの下へ隠れる。

部屋に物を投げ込む音が聞こえる。

どうやら隣が自分の部屋のようだ。

「今出よう」

青葉が床を這ってベッドから出ようとした時、

「兄貴いねーのー?」

声がして、すぐにベッドの下へ体を戻す。

「────」

青葉の額から汗が流れて顔を伝う。

「いねーのな」

部屋のドアが開けられて、そしてすぐに閉じられた。

2階へ降りていく音が聞こえる。

「どうするの?」

「──とりあえず、出るしか」

二人はベッドの下から出ながら、会話を続ける。

この部屋にも窓はあるがすぐ隣の家の壁があって出られない。

出ていくには2階ベランダか、1階玄関、玄関横の窓のみ。

「3階にも確か窓はあったけど、高過ぎるし、道路側に面してる……」

「“右腕”を使えば出れないこともない」

「危険だよ──」

1階へ降りていく音が聞こえた。

「急ごう、今なら2階ベランダから出られるかも」

二人は急いで、慎重に音を立てずに、2階へ降りていく。

2階に人の気配は無い、やはり1階へ降りたのだ。

「よし、ベランダから出よう」

「待って」

ベランダへ向かう青葉を理彩が制止して、続ける。

「1階に部屋はあったけれどあそこは物置よ、シャワーを浴びに行ったか、家を出るんじゃないかしら」

「……様子を見──」

その時、勢い良く階段を駆け上がる音が聞こえた。

二人はリビングの方へ、キッチン側からは見えない様に壁に体をぴったりと着けて息を潜める。

「タオル忘れてた、」

男の子がリビングへ手を伸ばす──。

その首元へ向かう理彩の“右腕”。

男の子は椅子にかかっていたタオルを取り、また1階へ降りていった。

リビングへは手を伸ばしたのみに止まったために、気付かれなかったのだ。

「やっぱり、シャワーよ」

“右腕”は男の子には触れず、理彩の中へ戻る。

二人は急いで1階へ降りていく、理彩の予想通り藤崎の弟は風呂場に居た。

風呂場のドアの閉まる音、脱衣場から風呂場へ入ったのだ。

「よし、出よう」

ゆっくりと、周囲の様子を窓とドアスコープで確認し、二人は藤崎家から脱出した。

周囲に人は居たが、藤崎家から出ていくところは目撃されていない、足早に住宅地を離れ、二人は駅へ向かった。



綾羅木理彩と本多青葉が藤崎家を出た──。

藤崎家1階和室のクローゼットの扉がひとりでに開く。

「男と女、指輪を狙って来たのか?」

扉は、内側から開かれていた。

「ここを開けられた時は少々焦ったが、フッ……気付かなかった様だ」

クローゼットの中から男が一人出てくる。

「地下1階への床下階段の上にクローゼットを置く、なんてのは子供過ぎるかと思ったが……いやいや活躍の機会があるとはね」

男の右手には琥珀色の玉の付いた指輪があった。

「気付かなかったのは当然か、影に潜む男に気付ける訳は無いからな」



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