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夢想の悪魔  作者: 虎娘
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2.指輪(2)


11月1日。

信じられない話は、同じく信じられない現実によって信じられた。

この指輪が一体どんな未来を運んできてくれるのかなんて分かりようもないが、結局の所もう狙われない様に持っているしかない。

幸い、あれから指輪を狙ってくるやつはいない。

まあ、正直な話、全く生活は代わり映えない。

普段通りに大学とバイトをこなし、昼は卵かけご飯を、夜はカップ麺とマカロニサラダを食しながら淡々と過ごしていた。

21時半、俺は近くの公園でベンチに腰掛けて美早を待っている。

本日中にノートをやり取りしておきたかったから、お互いバイト終わりに落ち合うことにしたのだ。

「大輔ー!」

と、小走りで公園に入ってくる美早の声が聞こえた。

返事を返す代わりにノートを持った右手を挙げて答える。

「ふぅー、ごめんねー、ちょっと遅れたか」

言いながら美早はケータイで時間を確認し、リュックサックからノートを取り出した。

「いや、別に大丈夫だよ。 ノート悪いな」

「そっか、よかった。 ほい、これ」

ノートを受け取って、俺のノートを美早に渡す。

受け取ったノートは冷たかったが、美早は暑いのかコートのボタンを少し開けた。

「そんなに急がなくてもよかったのに」

「え、あぁ……、うん」

「はぁーー、ノートだけ見てもよくわかんねぇな」

「それは教科書と照らし合わせてなんとかして」

はにかみながらそう言うと、美早は停めてあった俺の自転車にまたがって腰掛けた。

サドルが高いから足をぶらぶらさせて、それからペダルに足を掛けて漕いだりしている。

「飯食ったの? まだならこれからどう?」

「大輔が奢ってくれるなら行くー」

予想外の返答に少し戸惑う。

「彼氏は……いいのか?」

「なにー? 呼んでほしいの?」

「違うよ、そうじゃなくて」

「大輔ってそういうの気にする人だったの?」

美早がペダルから足を離してこっちに体を向けた。

「いや、……お前高校の頃はそういうの興味無いって感じだったじゃん、なのに急にさ」

「んー、なんでだろうね。 大輔が言ってくんないから」

「え!?」

「嘘うそ、冗談、なにーその顔」

自転車から降りて、話を切り上げたいのか美早は早く行こうと俺を見る。

俺はそんなに変な顔してたんだろうか。



11月4日、美早とラーメンを食べて、それから土日はバイトが忙しかったがなんとかノートは写し終えた。

あれからあの常連客の坊主頭の奴は店には来ていない。

逆に思い返すとあれだけ来ていたのに来なくなったというのは少し心配にもなってきた。

ほんと、死んでない……よな?

どっちかと言うと現れて欲しいというのもあった。

指輪のことについて、もっと詳しく知りたいと最近思うようになったからだ。

それは当然と言えば当然なのだが、いかんせん知りようがないし、未だに現実味も薄い。

んー、どうしたものか。

講義中やバイト中もチラチラと指輪を見てはそんな風に考え込んでしまう。

大学の食堂で卵かけご飯大を食べている今も、だ。うまい。

「お、大輔ー、ラーメンありがとね。 て、今日は大盛り? 最近金に余裕でもあるの?」

「おはよう。 そうかもな、給料上がったし──!?」

ドキリと、心臓が跳ねてじわりと胸から熱さが広がった。

「こんにちわ、えっと神座君?」

美早の隣に彼氏が立っていた。

見かけたことは何度もある、きっと向こうもそうだろう。

けれど対面したのは始めてだ。

「──、神座大輔……です」

思わず立ち上がってしまったり……。

「はは、大輔キモ」

「笑ってんな美早!」

「まあまあ、友達にキモいとか言うのは良くないよ美早」

「そうだね、ごめん大輔」

半笑いでちっとも謝ってないのは見え見えだ。

「ま、まあ座れよ」

「うん」

「どうも、僕は3年の七瀬一颯、神座君の話はよく聞くよ」

「あぁ、どうも。 変な話してないだろうな?」

「んー、たぶん?」

「なんだよ、たぶんって」

「まあ、大輔自体変だから」

「また笑ってんな」

正直、カッコいいし優しそうな人だな、と思った。

伸長も俺よりあるし、あと名前もカッコいい。

横目で七瀬さんの方を見ながら二人と会話を続けたが、途中から七瀬さんからの視線が痛かった様な気がする。

なんか言ったか? それともあんまり自分の彼女とは仲良くしてほしくなかったとか。

悩みが増えた気がして、さらに午後の講義は集中できなかった。



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