3.VS影(3)
一週間後の11月11日。
藤崎守は二人を追跡していた。
その内の一人は本多青葉だ。
学生データの顔写真と自宅カメラに写っていた顔とを照合した結果、侵入者の一人は本多青葉だと分かったのだ。
だがもう一人の女は大学の生徒ではないのか、分からなかった。
だが本多青葉を監視していたこの一週間弱の間に、本多青葉はその女と何度も会っている。
恐らくだが、二人は大学内にいる指輪を持った者たちを狙っていると藤崎守は考えていた。
それはこの一週間の内にはっきりした。
二人は藤崎守が自分たちに気付いたと分かると、標的を変えた。
その人物は七瀬一颯、大学3年、法学部。
藤崎守の一年上だ。
さらに七瀬一颯には神座大輔という指輪を持つ友人がいる。
藤崎守は本多組と七瀬組が相討ちになれば、計4つ、自分のも合わせれば5つの指輪が自分のものになると考えていた。
自分は“脚”だが、七瀬組の二人はどうやら“眼”に関する能力の様で、それは二人を尾行した時に得た情報であった。
そして現在、天候は雨、影の少ない天候を憂えたが、藤崎守はうまく二人を尾行していた。
二人は大学と駅の間にある喫茶店で待ち合わせをしてそれからどこかへ向かっている様だ。
会話は雨の音が混じって、近付いていても聞こえるか分からなかったので藤崎はそれなりに距離を取って尾行していた。
二人は大通から路地に入って商店街へ入っていく。
商店街の上をアーチ状の屋根が続いてアーケードとなっていて雨を防ぎ、影を落としている。
身を隠す場所は増えたが、二人の影がアーケードの影と融け合ってしまっていた。
二人は商店街を進んで、また路地に入って行った。
そこは店の裏側で隣同士の店が共有で使っているのか、段ボールが積み重ねてあり、トイレもある。
こんなところに来て一体何をしようと言うのか、しかし藤崎はこの場所を知っていた。
そして、二人が何故ここを訪れたのか、だいたいの見当がついていた。
「ここは、──」
ここは昨日、神座大輔と七瀬一颯が居た場所だ。
二人は昨日ここで何かあったのか、それを調べに来たに違いない。
二人は入って左側の店舗のドアを開けて入って行った。
その店は今は使われていない、表はシャッターが閉まっているが裏のドアには鍵が掛かっていないのだ。
二人が入るのに合わせて、藤崎も入っていく。
店は表側の店舗スペースと裏側の倉庫とに別れていて、ドアをまた一つ開けるとシャッターの閉じた表側に出る。
店内は予想通り埃まみれで散らかっていて、電球が1つ、2つ天井にぶら下がっている。
「彼の指輪なら、簡単に済むのにね」
「恐らく、その指輪も犯人が持っているよ」
二人が会話を始めて、店内を散策し出す。
藤崎は裏側に潜んで話を聞いていた。
「今日、神座大輔は大学に来てたの?」
「見ていないな、七瀬の方は見かけたけど」
「そう、ならここで殺された後かもしれないって訳ね」
「だとすれば、七瀬が犯人ってことになるね……」
──藤崎は今までの情報から、二人は誰か特定の人物を探していて、しかもその人物は自分ではないことを理解していた。
だから、大学内の指輪を持つ者を手当たり次第につけ回っているのだということも。
そして今の二人の標的は七瀬一颯と自分になっている、自分ではないとするなら──。
「──こいつらの言う犯人は、七瀬一颯だ」
藤崎は暫くして、二人より先に商店街から出て家に戻ることにした。
雨に降られながら、世界には知られずに。
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