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東洋の変質者

別にうんちく垂れようって訳じゃありません。

「ヘンタイ」

「は? なんだよ」


 目の前の男を、ヘンタイ呼ばわりする女。ブロンドの髪に彫りの深い顔。つまり、外国人である。


「だから、ヘンタイだっていってるのヨ。このヘンシツシャ」


 しかし、言葉の壁は無い様子。少しばかり発音が妙だが、外国人にしては日本語が上手い。


「うっせーな、なにがだ」


 男は聞き返す。その男はどっからどうみても東洋人。黄色い肌と黒髪がまぶしい、チャキチャキの日本人である。


 さて、ヘンタイとは何のことか。どうにも色っぽい場面を想像したくなるところだが、残念ながら勘違いの場違いである。


 そこは食卓。ちゃぶ台を挟んで、男女二人が正座して向かい合う、和やかな夕餉ゆうげのひととき――。


「いったいなんなのかしら、このリョウリ。ニホンジンってホントにヘンタイのヘンシツシャなんだから……」


 さあ、そのちゃぶ台に乗った料理を見てみるとしよう。


 醤油のかかった冷や奴、湯葉の浮いた味噌汁に、厚揚げの味噌田楽。そして、コップに注がれたドリンクが豆乳と云えば、もうお判りであろう。


 大豆、大豆、大豆、大豆、どの皿を見ても大豆ばかり。


 男はキレる。とどめに、醤油のかかった納豆をかき混ぜながら、


「日本人ばっかりヘンタイ呼ばわりするな! 豆腐も味噌も醤油も日本が起源じゃねぇんだぞ!」

「ナニヨ! 中国ならマーボードーフとか、ちゃんと大豆以外の食材使ってるじゃないのヨ!」

「うっせーな。日本だって大豆以外の食材ぐらい使ってらぁッ! 人を変質者呼ばわりしやがって……」


 そこまで怒鳴り合い、なじり合ったその挙げ句、ようやく二人はクールダウン。


 男、納豆をすすりながら溜息をついた。

「これで白いご飯があればなぁ。俺だって大豆以外のものを食いたいよ……」


 さて、この世界の説明をしよう。


 ここは無人島。しかも取れる作物は大豆しかない。そんな状況はあり得ないかも知れないが、しかしまあ、そういう訳だ。


 味噌や醤油が完成するほどである。この生活はずいぶんと長いようだ。遭難してからこのかた、男は野生の大豆と、海から取れた塩だけで、女のためにせっせと食生活の充実を図り――。


 女、

「ここまで作れるなら、お米ぐらいなんとかならないの?」


 男、

「その前に、救助船探せよってツッコミはねぇのかよ」


 男は苦笑いで味噌汁をすすり、女は嬉々として滑らかな豆腐の舌触りを堪能した。


「ああン、このヘンタイ♪」

「うっせぇ、さっさと食え」


 ヘンタイ――変態、つまり態様(物事のありさま。状態。ようす)の変化とでも云うべきか。変質者も、物質を変化させる者と書く。様々な大豆の七変化しちへんげを編み出した東洋人のその力は、やはり文字通りの変態にして変質者と呼ぶべきである――なんていってたら、誰かに怒られそうなので、この辺で。


(完)


 


発想元:なんかの少女漫画で「日本人は豆しか食わないのか」って台詞があったような。それから、大豆とか語源とかそういうの適当なので、間違ってたら堪忍してください。

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