表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第五話

私の超展開グセ、どうにかなりませんかねぇ…


ということで超展開です。途中から謎にシリアス展開になります。ご注意ください。

 私の朝は遅い。参拝客が来ないので、朝からスタンバる必要が無いためだ。悲しい。

 当然、参拝客が来ないのだからお賽銭が増えることもない。これは割と深刻な問題だ。

 神様に着任して、早々に実体化したツケが今になって襲ってきたのだ。


 くきゅるー、と腹の虫が飢えを訴えてくる。



「お腹空いた」



 ……肉体の維持にもエネルギーいるんだった!


 肉体に魂を入れたら、魂が私ってだけで普通の人間なんだよね。何故こんな簡単なことに気づかなかったんだろうね私。後悔先に立たず、ってこういう時に使うんだね、大変勉強になります。本当にありがとうございました。


 くぎゅぅ。腹の虫は、無慈悲なまでに現実を伝えてくる。ちくしょう。



「お賽銭……お賽銭があればコンビニに行ける……」



 幽鬼のようにフラフラと賽銭箱に歩み寄る。

 どうやったらお金を出せるんだろう。ここか? それともここか?


 お賽銭の取り出し口を探してガチャガチャすること五分。見つけた。



「この取ってか」



 取ってを握って、恐る恐る開ける。手が震えて、お賽銭の溜まる箱からカタカタという音が鳴る。

 箱の中には、鈍く光る硬貨が入っている。



「ひぃ、ふぅ、みぃ……嘘でしょ」



 総額、実に249円。殆どが一円玉や五円玉であった。

 くきゅるぅ〜。腹の虫が泣く(誤字ではない)。



「いやでも、おにぎりは二つ買えるよね」



 出来れば飲み物が欲しかったけど、仕方ない。ここの小屋で水道水を飲めばいいんだ。

 お賽銭箱を元に戻して立ち上がる。



「よし、行こう」



 空腹を出来るだけ意識しないようにしながら歩く。五歩歩くたびに腹の虫が空腹を訴えてくるが、無視する。

 鳥居をくぐって階段を降り、そこそこ広い道路に出た。何気に神社を出たのは初めてだったりする。



「さて、と」



 神社の前の道路は、左右に分かれている。


 右を見る。住宅が建ち並び、四棟ごとに十字路が有るのが見えた。

 左を見る。同上



「……コンビニって、ドッチデスカ?」



 私は二日前に神様になったばかり。当然、町の地理なんて知るはずもない。つまり、コンビニの場所が分からない。


 腹の虫が今日一番の音を捻り出した。その音をしっかりと認識してしまい、思わず崩れ落ちる。両手両膝を立てる、アルファベット三文字のあのポーズだ。



「空腹、恐ろしい」



 少し考えれば分かる初歩的なミスだ。あまりの空腹に考える余裕を奪われていたらしい。


 もう立ち上がる気力が出ない。本格的にエネルギーが枯渇しかかってるようだ。一見冷静に見えるだろうけど、めっちゃ焦ってます。



「もう、ダメ」



 体を支えられず、横向きに倒れる。


 うう、アスファルトが冷たい。このまま冷たい風に吹かれて、体がだんだん冷たくなっていくんだ……。



「ちょっと、どうしたの!?」



 諦め目を閉じようとしていた私に、何処からか声がかかる。直後、誰かが走る音が近寄ってくる。


 ああ、助かった……! 誰か知らないけどありがとう!


 背後から駆け寄ってくる誰かに感謝していると、走る音が私のすぐ後ろで止まった。間を開けずに仰向けにされて上半身を抱き起こされる。



「誰……?」

「そんなことより! どうしてこんなところで倒れてたの?」



 少女ーー恐らく、私と同年代ーーのすごい剣幕に一瞬たじろぐも、なんとか口を開く。



「お腹……」

「え?」

「お腹、空いた……」




***




 ぐぎゅぅ。ぐぅ。くぅん。


 目の前に広がる光景に、腹の虫が歓喜の声を上げる。唾液腺からよだれが分泌され、カラカラだった喉に潤いをもたらす。

 その光景に釘付けだった視線を上にズラし、対面に座る少女に目で訴える。


 まだか! まだなのか!



「ど、どうぞ」



 許しを得た。手短に食前の挨拶を終えると、素早くお箸をとり焼き魚を口に運ぶ。


 ホロホロとほどけていく魚の身、それに合わせて口いっぱいに広がるほのかな塩気。パリパリの皮も香ばしく美味。これは、おいしい!


 思えば、三日ぶりのまともな食事に顔の筋肉が緩む。口角が持ち上がり、目尻が下がった。

 お次はお味噌汁、次はお漬物と忙しなくお箸を動かす。



「……そんなにお腹空いてたの?」

「ひっはふぉ」

「飲み込んでから喋る!」



 ごくん。



「っふぅ……三日ぶりの食事ですから! とっても美味しいです!」

「三日ぶりって……まあ、それは後でいいか。貴女、その服からして巫女さんだよね?」



 机に頬杖を付いた少女が尋ねてくる。そういえば、今は巫女さんモードだったっけ。食事に夢中で忘れていた。



「ふぁい、ほぉえふ」

「だから、食べながら話さないの! まったく」

「っんく。はい、私は巫女さんです」



 私が答えると、少女はふぅんと言って何かを考え始めた。どうしたんだろう。



「そういえば、まだ自己紹介してなかったよね。私の名前は磯部春菜はるなってーー」

「もっ!?」

「ひゃっ!?」



 磯部ってあいつ、鱗人と同じ名字!?

 えっと、ということは、この子は鱗人の、妹さんになるの? いや、でももしかしたら、偶然名字が同じだっただけとか……無いか。



「ちょっ、いきなり何よ!?」

「あ、すいません。ちょっとビックリしてしまっただけです」

「ビックリって、何に?」

「いえ、知り合いに磯部という方がいたものですから……」



 それを聞いた春菜さん(一応、聞き取れていた)は、一瞬きょとんとした後、すぐに納得顔で手を打った。



「その知り合いって、男の人じゃない?」

「そうですね。アホ毛の男性です」

「あ、アホ毛……それ多分私の兄貴だと思う」



 でしょうねー。どうやらあの男と私には、何か縁があるらしい。



「ま、それはいいわ。次は貴女が自己紹介する番ね」

「はい。私は樋野灯です」

「そう、なら灯って呼ぶね。だから貴女も私のことは下の名前で呼んで欲しいな」

「わかりました、春菜さん」



 名前を呼ぶと、春菜さんは小さく笑ってにこやかに頬を緩ませた。

 ちょっと押しの強い所もあるけど、とてもいい子だ。この子とは良いお友達になれそう……。



「そういえば灯って、小学生だよね?」

「えっ?!」

「え、違うの?」

「ち、違いますよ!」



 この肉体について補足すると、そこに入る霊体と違いすぎると、肉体が霊体を受け入れないという制約がある。

 なので、この巫女ボディも多少いじっているとはいえ、霊体の私にある程度似せて作ってある。そして、この肉体を作った目的は鱗人を神社から追い払うため。よって顔はあまり似せていないが、代わりに体型がそのままだったりする。


 そう、体型とか。体型、とか。



「そこまでペッタンコじゃないもん! ちゃんと膨らんでるんだから!」

「ちょ、私が悪かったから、落ち着いて。ドードー。てか敬語崩れてるし」



 立ち上がって叫ぶ私に、手をひらを向けて諭す春菜さん。私は馬ですか!



「これが落ち着けるか、春菜のバカ!」



 どうせスポブラで事足りる程度の胸だよ!

 ふんっと鼻をならしてソッポを向く。春菜さんは触れてはいけない部分に触れた。所謂、逆鱗ってやつ。



「……灯、今のもっかい言って」



 反応が無いので、腕を組んで横目で春菜さんを伺っていると、春菜さんが言った。え、もっかいってなんだろ。



「えっと、バカ?」

「違う。ちょっと足りない」



 足りない? んーと。



「春菜のバカ?」

「そう! 灯、私のこと呼び捨てで呼んだよね!」

「う、うん。そうだね」

「しかも敬語じゃなくなってるし!」

「えっと……ダメだった、ですか?」



 そういえば、春菜さんは私のこと年下だと思ってるんだっけ。やっぱり普通の子は怒るものなのかな。


 怒られるのかとビクビクしていると、春菜さんの顔がムッとした表情に変わる。う、やっぱり怒ってる?



「他人行儀なの、禁止だよ」

「……え?」



 つまり……どういうこと?



「だから、さん付けも敬語も禁止ね! 小学生じゃないんだったら、中学生だよね。だったら一歳しか違わないんだし、他人行儀なのは違うじゃん」

「そうなの?」

「そうなの!」



 満面の笑みで肯定する春菜さん、いや、春菜。



「ということは、友達ってこと?」

「そう、友達!」

「友達……」



 友達。私が、生きていた頃に一番欲しかったもの。



「な、なんで泣いてるの?」

「え……ぁ」

「嫌、だった?」

「ち、違うよ! ただ、嬉しかったから……」

「そっか。でも泣くほど嬉しかったの?」

「だって……初めてだもん、友達」



 サンタさんに頼んで貰った、クマのベーさんも、大切な友達だけど、人間の友達なんていなかったし。



「そうなんだ……」



 涙を手の甲で拭っていると、立ち上がった春菜が机を迂回して私に近づく。そして、隣に立つと私の背中をさすり始めた。



「なら私が初めてで、最高のお友達になってあげる」

「……ありがと」



 初対面の筈なのに、不思議だな。鱗人も、まあ、知り合いだけど、まだ友達ってほどじゃないし……春菜はすごいな。


 その後、しばらく春菜に背中をさすってもらい、五分ほどたった頃にやっと涙が止まった。



「なんかごめんね」

「ふふ、いいよ、私は先輩で、灯の最初で最高のお友達なんだから!」

「そうだね」



 なんだか思い返すと恥ずかしいけど、嬉しい。


 少しの間二人で笑いあって、ふと気付いた。そういえば年齢を聞いてないな、と。



「春菜って何歳なの? 私は十四歳だよ。一つ違いってことは、十五歳?」



 私が尋ねると、春菜の笑顔が引きつった。ん、何か様子がおかしい。



「え、灯、十四歳?」

「うん、そうだよ」

「そ、そうなんだ」

「春菜は?」



 尋ね返すと、途端に笑顔を引きつらせる春菜。さっきからどうしたのだろうか。

 少しして俯いた春菜が、ボソボソと何か言った。



「……じ……ん歳」

「え?」

「十四歳!」

「……え? ということは同い年?」

「そ、そうなるね」



 なるほど……春菜の笑顔が引きつる理由がわかった。


 これは……からかわざるを得ない!



「そっかー、十四歳だったんですね、春菜せ・ん・ぱ・い」

「う……」



 バツが悪そうに息を詰まらせる春菜。これは、私の胸を乏しめた報いだ。


 その後も、春菜が拗ねてそっぽを向くまでからかい続けた。恥ずかしがる春菜は、とっても可愛かった。

感想待ってます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ