第三話
今回もすごく短い。
次からはもっと長くしたいな。
太い枝に腰を落ち着け、“力”で視力を一時的に底上げした目で神社の様子をうかがう。
「まだいるよ……もう二時間たつのに」
私の視線の先には、神社に入るための石段に腰かけるアホ毛こと、磯部鱗人が居る。私が一時間前に確認した時からまったく動いていない。
「ほんとめんどい奴ね。本当にあのアホ毛、むしりとってやろうか」
そろそろ太陽も沈み始める頃で、太陽の反対側の空は赤みを帯びている。私なら眠気が出てくる頃合いだ。というか、既に眠いのだけど。
「もういい。寝てやる」
またも早々に考えるのをやめた私は枝の上に転がり、睡魔を受け入れようと目を閉じる。
本来なら枕を頭のしたに敷いて、布団を被るのだが贅沢いってられない。もう限界に近いのだ、てか限界だ。
数秒後、私は勢いよく上半身を起こした。やっぱ無理だわ。こんなとこで寝たら死んでしまう。既に一回死んでるけど、それとは違う意味で死んでしまう。布団のない睡眠なんて認めない。ジャパニーズ・FUTONこそ至高の寝具だ。あ、寝袋でも可。意外と暖かいんだよ、寝袋って。一回試してみなよ、家の中でも使うようになるから。イモムシスタイルで。
閑話休題。
とにかく、布団のためにもさっさとアホ毛を追い払わなければならない。
「……無駄に力を消費するから嫌だけど、アレ使うかな」
さっさと神社に帰って布団に入るべく、私はアホ毛に立ち向かう決心をした。
*****
「あのー、さっきからそこで何をされてるのですか?」
「ん?」
石像の様に居座るアホ毛に、後ろから声を掛ける。何かするんじゃないのかって? まあまあ、見てなよ。
首だけ私の方に振り向くアホ毛。私を見て一瞬、怪訝な表情を浮かべたが、直ぐに屋根の上で声をかけてきたとき様なアホ面に戻った。
「んと、この神社に中学生くらいの幽霊が居たから、成仏させてやろうと思ったんだけど……ちょうど君ぐらいの女の子なんだけど」
なんのためらいもなく幽霊など、一般人が聞けばオカルト野郎と勘違いされるであろう言葉を並べるアホ毛。どうやら見た目通りのアホらしい。
「そういえば、君は誰だ? ずっとここに座ってたけど、人が通ったことは無かったんだが」
私が哀れみの目で見ているのに気づいていないらしいアホ毛が、今気づいたという様子で尋ねてくる。
お気づきいただけただろうか。なんとこのアホ毛、私が『霊体の私』であることに気づいていないのである。何故かって? 簡単。今の私は、見た目の違う肉体を持っているからだ。
というわけで、アレとは実体化のことだったのである。実体化は、文字通り実体を持つことだ。そこら辺の物質を素粒子まで分解して再構築し、人間と全く同じ肉の器を作るのだ。後はその器に入り込めば、普通の人間とはまったく区別がつかない。このアホ毛なら気づくことはまず無いのだ。しかしその分、結構な量のエネルギーを持っていかれるのがネックだけど。
実体化の説明はここまでにして、アホ毛の誰だという問いに答えることにする。
「私はこの神社の巫女です。それと、この神社には幽霊なんていませんよ。神様なら居られますが」
ついでに幽霊は居ないと言っておく。実際いないのだから、何も気負うことはない。
「そうなのか? ということは、あの子は本当に神様なのか?」
あっさりと信じるアホ毛。あまりに単純すぎて心配になってきた。まあなんにせよ、私が神様だと信じてもらえたようだ。
「じゃあ、俺は帰るかな。神社の巫女さんってことは、君はここに住んでるのか?」
立ち上がってズボンに着いた砂を払い落としながら、アホ毛がそんなことを聞いてきた。
なんだかんだで図々しい奴だな。私はもう慣れつつあるけど。
「はい」
答え渋る必要を感じないので、適当に返事しておく。
私の返事を聞いたアホ毛は少しの間を置いて「またな」と言って石段を下りて行った。別れ際の一言になにか引っ掛かりを感じたが、眠気が臨界点を迎えたため思考を放棄。私は本殿に戻り布団を敷いて床に就いた。
そして、実体化に始まりこの問答に終わった行動に、翌日の私は心底後悔するのでしたとさ。
2014.2/1 実体化部分の表現を修正