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第二話

連続投下ー

「――――! ――!」



 足下から聞こえてくる騒がしい声に目を覚ます。屋根のように絡み合った木の枝から差し込む日光の角度を見るに、寝始めた時からたいして時間が経っていないらしい。


 ぼーっと周りの様子を確認していた私に、足元から声がかかる。



「あ、やっと起きたか。こんなところで寝てたら風邪ひくぞ」



 顎を引いて声の元に目を向ける。アホ毛が立っている男と目があった。

一旦視線を外して上体を起こし、ぼやける目をさする。ふと男を見れば、また目が合った。



「ぅ……だれ?」



 数秒見つめあった後、私は寝ぼけ声で尋ねる。



「俺は磯部ものべ鱗人りんと。鱗人って呼んでくれていい。お前は?」

「……灯」



 流れで自己紹介が終わった。こちらは下の名前しか教えてないけど、気にしない。

 半分寝ていた意識が、少しずつ起き始める。そして完全に目が覚めたころ、ふと小さな違和感が生まれた。



「ねぇ、私のこと見えてるの?」



 考えるのもだるかったので、直接この男――鱗人だっけ。めんどいしアホ毛でいいか――に尋ねてみた。

 何を電波なこと言ってんだ、と思うかもしれないが、私は霊感のない普通の人間には見えない、霊体という存在なのだ。さっきの参拝者が拝殿の屋根に座っていた私に気付かなかったのも、あの男に霊感がなかったからである。アホ毛はどこからどう見ても肉体のある人間だ。私が見えるということは、そういうことだろう。



「お前、幽霊だったのか」



 細かく言えば幽霊と違った存在なのだが、説明が面倒だったので頷くことにした。どうやらアホ毛は霊体と遭遇するのに慣れているらしい。特に疑うこともなく信じてしまった。かなり霊感が強いようだ。


 私が頷くのを見たアホ毛の表情がほんわかしたものから真剣なものに変わる。いきなりどうした。今の話のどこに真面目になる要素があったのだろうか。



「どうしたの?」

「心残りはなんだ? 俺にできることがあれば教えてほしい」



 アホ毛の言葉に一瞬呆ける。

 さっきの質問に頷いたのがまずかったらしい。アホ毛が今まで出会った霊体は、この世に未練があり成仏できない者だったのだろう。アホ毛の中で幽霊=未練があり成仏できない者という等式が出来上がっているらしく、私もその者達と同じ存在だと勘違いされてしまったようだ。面倒なことになった。



「未練なんてないよ。ここに存在しているのは、私がこの神社の神様だから」



 別に嘘ではない。ここの神社の担当になるということは、ここの神となることと同じなのだ。



「神様って言えば、髭でモッサモサのおっさんって決まってるだろ。誤魔化さずに教えてくれ」



 妙な先入観を持っているらしいアホ毛は、私が神様とは信じられないようだ。確かに普通はもっと高位の存在が神様になるものだけど、見た目はバラバラなんだけどな。

 うーん、実にめんどくさい。



「嘘じゃないよ。力が弱いから願いをかなえたりできないけど、本当に私がここの神様なんだよ」



 めげずに私がそう言うと、アホ毛の表情に落胆が加わった。何かしただろうか。



「そんなに俺が信用ならないのか? 灯と似たような幽霊の成仏を手伝ったこともあるから、少しくらい力になれるぞ」



 どうしても信じないらしい。まあ、十代の女が、私は神様ですって言ったところで信じてくれないんだろうな。


 どうやって信じさせようか。


 方法を思考しながら、アホ毛の方に向けていた視線を上に向ける。



「めんどくさ」



 一分も経たないうちに考えるのを放棄した。

 もういい、めんどくさいわ。



「ちょっ」



 制止するアホ毛の声を無視して素早く立ち上がり、拝殿の屋根から飛び上がる。そして空を覆う枝に掴まり、雲梯うんていの要領で枝から枝に移動を繰り返す。



「じゃあねー」



 片手で枝にぶら下がりながら、呆然と私を見上げるアホ毛に手を振り別れの挨拶を言う。



「次話しかけたら、そのアホ毛むしりとるからなー」



 最後の捨て台詞で警告をして、私は鎮守の森に入っていった。


感想待ってます。

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