空に舞い、海に躍る
志田少尉は塩臭い塹壕で、海上に浮かび上がる炎を見ていた。
(本隊は後退したはず…アマガエル隊?)
海上突貫部隊が攻撃したとすれば、それは文字通り自殺行為である。ただでさえ生還の見込みは無いのに、昼間にボートで艦隊に肉薄するなど、死にに行くのではなく、死なされに行くということだ。
「志田さん!」
考えを途切れさせたのは、前田学徒兵の声だった。土まみれの服を迷彩代わりに、申し訳程度の鉄帽を被っている。
「アメリカ兵が上がって来ます!大層な数です!」
前田が指差す海岸では、揚陸艦が波を割って前進する姿が見えた。更に後方では駆逐艦が小型艇を降ろし、大挙して上陸を狙う様子が分かる。
「全員に通達!命令尊守・絶対服従!言う事聞かん奴は死んじまうぞ!ここを俺達だけで守り通す!良いな!」
前田は気合良く返事をして塹壕を走り抜けていった。直後、砲弾の飛来するひゅるひゅるという音が耳に付く。この音がもたらす破壊を、彼は知っている。塹壕は口を出切る限り狭くし、穴を斜めに掘ることによって着弾時の被害を最小限にする工夫をしていた。奥行きのある小部屋を中に設置して、兵をやり過ごす事も主眼に置き、塹壕というより地下通路とでも言うべき巨大な塹壕がこの場所に構成されている。これは南方作戦で防御作戦を経験した少尉が、学徒兵を良く訓練して計画的に動員した結果であった。
「艦砲だ!入れ!」
志田の一喝に、子供達は素早く塹壕の部屋に飛び込む。鼓膜を揺さぶり、背後の家屋を吹き飛ばす様子が着弾音だけで把握できた。
「導火線用意!」
雑な出来の藍腕章をくくりつけた少女達が、塹壕の表面から垂れる紐に手を掛けた。訓練拠点として使用した学校の理科室に、運良く取り残された化学薬品をかき集めて作った即席爆弾だ。正規の爆弾に比べれば子供だましの威力であったものの、銃もまともに配備されていない学徒兵にとっては貴重な武器でもある。
「できたぞおっさん!」
上官に対し舐めた口を利く生意気な少女は、城崎だ。教官が志田でなかったら処罰モノの態度だったが、戦闘中に説教をくれるほど志田は阿呆でもない。
「ようし、それぞれが判断して点火しろ!できるな?」
「任せろよ!オキナワ魂なめんなって!特大めんそーれをプレゼントだ!」
お前は本州出身だろうが、との志田の言葉を聞き流し、城崎は導火線係の少女達に伝令に回っていく。態度こそ女子らしくもないものの、彼女は学徒兵のなかでも行動力のある奴だ。導火線を握る女子を優しく励まして、男子の背中に日に焼けた手で活を入れてやる。その様に安心し、志田は小銃を持ち直した。弾薬自体は本隊を離れる際に幾らか失敬し、銃さえあれば男子に行き渡る分がある。しかし銃なんて高級な武器はほぼなかった。しかも戦車なんて本隊ですら不足しており、米戦車に対して全くと言っていいほど無力だ。
「来たぞ!迎撃用意!」
200名程度の学徒兵がこの海岸線に配置され、米軍を迎撃するよう厳命されていた。沖縄守備隊司令部第32軍司令、牛島中将の命だった。もちろん勝てるはずも無く、また彼等は司令部が防御姿勢か反撃姿勢かで揉めている事など知る由も無い。志田もここで自分等が無駄死にするわけにはいかず、いずれ米軍を追い払う腹積もりだった。
(無理は承知。サイパンとガ島、硫黄島の悲劇は繰り返させん!)
九九式小銃を構え、志田は塹壕から身を乗り出した。揚陸艇の扉が開き、蜘蛛の子を散らすが如く、海兵隊が飛び出してきた…が。勢い良く先頭に立った一人の兵が、砂を巻き上げて身を浜に埋めてしまった。それに気付いた兵も立ち止まる前に穴に落ちる。学徒兵たちがこの砂浜一帯に落とし穴を仕掛けていることなど、誰が予想できただろうか。慌てて助けようとした兵が穴を覗き込んだ瞬間、白い砂浜に鮮血が散った。
「狙撃だ!」
前進しつつ叫んだ兵の口が永劫に開かなくなった時、戦車が揚陸に成功する。M4中戦車が無限軌道の頼もしい音を響かせ、歩兵の盾となって前進するように思えた。塹壕に篭っている城崎は、片方が欠けた双眼鏡を覗きながら声を張り上げる。
「吉田、点火して!島袋はもう少し待て…今!」
少女達の手に収まる小さな導火線は植物油付けにされ、驚異的な速度で引火した。砂浜にまで導かれた火は小さなモグラ穴を通って地下にある手製の爆弾を起爆する。本来なら戦車を破壊するなど夢のまた夢であったが、志田は破壊されずとも戦車が無力となることを知っていた。砲塔に覆帯を巻いたM4中戦車は、日本軍の速射砲を危惧しているようだが、それは灯台下暗しである事を志田は身をもって教える。米軍が誇る精鋭の海兵隊は戦車を盾に前進し、戦車は火炎放射器から火を涎のように垂らしていた。突如足元で起こった微弱な爆発に、海兵隊は身体を揺さぶられた。戦車が地雷にかかったのかと思ったが、なんの変化もなかったので、そのまま前進を続ける。結果、戦車はもれなくその足をすくわれた。先の落とし穴に加え、大量の海水が砂浜の中から現れたのである。木の板を繋ぎ合わせて作られた木箱に海水と泥が貯槽され、それが穴の中に埋められていた。砂に海水が染み渡り、すぐに足場はぬかるんだ。泥にキャタピラが滑り、志田の名付けた「蕎麦啜り作戦」は、見事に成功した。じゅるじゅると蕎麦をすする様に、戦車は足を止め、あっという間に立ち往生する。大きな穴は深さはそれほどではなく、1メートルもなかったが、高速で突っ込んだ戦車は砂に滑り、たちまち車体を転がした。運悪く火炎放射器の燃料が漏れでてしまい、周囲にいた兵を巻き込んで、M4は大爆発を巻き起こす。落とし穴にはまった仲間の救助にあたっていた医療兵が、飛び散った燃料を浴び、全身を消えることの無い業火に焼かれた。その医療兵が力尽き、浜に転がる焚き木となった時、やっと前進に成功した兵が地に伏せた。それも束の間、彼の足元で、紐の切れる音がする。それが罠である事を理解した時点で、彼は背後に転がる医療兵と同じ末路を辿っていた。
司令部には上陸の様子が逐一報告され、遅々として進まない前線をスプルーアンスは叱責した。
「何故4000名も居るのに陸一つ上がれんのだ!」
サウスダコタ級戦艦2隻と、乗艦アイオワ級戦艦の砲撃音に負けない声で彼は怒鳴る。すでに戦車8両喪失、兵の死傷者は100名を数えていた。周囲に展開する空母群からは、合計700機以上の戦爆連合編隊が敵陣地を目指して頭上を通過していく。
「出だしがこんな有り様じゃ、ハルゼーに笑われるぞ!」
参謀が必死に指示を繰り出していたが、上陸部隊は一人また一人と交信を絶っていった。そこへたたみ掛けるように悲惨な報告が舞い込んでくる。
「火力支援艦撃沈!上陸支援不可!」
ロケット弾による上陸部隊支援を行うはずであった、揚陸火力支援艦ハモンドが撃沈され、上陸は一層困難を極めた。部隊は砂浜に釘付けにされ、辺りは阿鼻叫喚の騒ぎであるという。戦車が進めば大穴が開き、歩兵が進めば火柱が上がる。そしてとうとう、被害の魔の手は艦隊にまで伸び始めた。戦艦インディアナは海岸線に対し5ノットで、平行に移動しつつ艦砲射撃を行っている。サイモンから橋頭堡確保の知らせが入るまで、相手の陣地を更地にしてやらねばならない。直に、その任務を果たす事は不可能になる。インディアナの誇る、40.6センチ主砲が轟音と共に必殺の一撃を繰り出した途端、艦橋は原形も残されず上半分が砕かれた。まるで巨人に踏み潰されたかのように粉砕し、インディアナは煙を上げて停止する。インディアナ司令部は壊滅、とどめをさすべく、両翼をもがれた戦闘機がきりもみしながら第1砲塔に墜落した。味方の戦闘機へ充分に積まれた燃料と弾薬が甲板を舐め回し、海の上で、火の海が広がる。
「艦砲射撃が止んでいるぞ!何をやっている!?」
スプルーアンスは艦砲射撃が一発たりとも撃たれていないことに気付くが、マサチューセッツが艦首と艦尾を削られているのを見て絶句した。
「マサチューセッツ、退艦発令しました!」
マサチューセッツからは水兵が次々と脱出し、それらが重油の火に飲み込まれる姿も1キロ先から双眼鏡ではっきりと確認できる。ミズーリの至近距離に、味方の爆撃機が3機ほど、連続して墜落していった。
迎撃は大成功を収めた。艦砲射撃は続いていたが、迅速な対処と強固な陣地、敵上陸の遅滞が生徒達を奮い立たせる。志田にとっては、これすらも迎撃戦の序章に過ぎなかった。生徒達が徹夜で用意した武器はもとより数も少なく、手作りの落とし穴と対戦車地雷ぐらいだ。よって例え堅牢な陣地があったとしても、男子生徒が火の壁を起こしたら後退せねばならない。彼等は身を危険に晒して側面の林に潜伏し、米兵が一定のラインを超えたら、油をまいた防風林にむけて火をつけた。それは文字通り壁となって敵の進撃を防ぎ、自分達の退避する時間を稼いでくれる。
「ようし、塹壕から出ろ!第2ラインに再集合だ!行け行け!」
志田は弾を再装填しながら、生徒達に手を振り上げて合図した。少女達は城崎を先頭にして塹壕を飛び出すと、全速力で後退する。
「前田ァ!やってきたか!?」
「はい!全部開け放ちました!」
前田は林から戻ってきた男子を塹壕の外へ送り出すと、自身も外によじ登った。志田も続き、弾の入った袋を下げなおして第2ライン目掛けて走る。海兵隊は火の壁を戦車で踏み越えたり消火したりして突破すると、残された陣地を制圧し、野戦司令部を置くことに決定した。それは、上陸部隊を更なる地獄に導く、巨大なブービートラップであった。
戦車17両、揚陸艦22隻、駆逐艦9隻、戦艦3隻、戦闘機90機、攻撃機48機、爆撃機185機、陸海空合わせて37000余人死傷の損害を出しながら、アメリカは沖縄に上陸した。艦載機は海上や上陸地点から立ち上る、沖縄の風に運ばれた黒煙に阻まれ、まともに支援を行う事はできなかった。落とされた対地爆弾は見当はずれな場所を爆撃して道路を破壊してしまい、むしろ車両部隊の進軍を遅らせることになってしまう。日本軍は海岸線から撤退したとして、サイモンは全ての部隊を上陸させ、物資補充の要請を出した。最初の目標を達成したアメリカ軍は次なる目標を中飛行場に定め、平原地帯を抜けるべく部隊を進撃させる。所々が断絶した道路が一本貫く、草の生い茂った平原だった。左右は沼と山林に囲われ、平原自体も腰丈の草が包んでいる。緩やかな速度で地面を踏み鳴らし、海兵隊師団は前進していた。
「帝国軍どもはどこにいったんだ?」
「俺達を恐れて、尻尾巻いて逃げ出しやがったのさ」
先導するM4中戦車の傍ら、兵の一人が笑い飛ばすと、戦車はいきなりその大きな図体を前のめりにつんのめらせて沈黙した。もちろん兵は驚いて身を伏せ、大声で叫ぶ。
「落とし穴だ!猿め、こんな所にまで掘ってやがった!」
ところがもう一人の兵は憤って、小銃を構えて勢い良く走り出した。
「クソ!俺がルートを確保する!戦車を待機させろ!」
周囲の仲間の制止を振り切って、草の上に顔を出したがために、彼は力無く仰向けに倒れこんだ。ここもまた狙われている事を知った米兵は急いで周囲に散開し、手ごろな岩場に転がり込む。それに安心して一息ついた兵が、頭を殴られたように傾げると、こめかみから流すおびただしい量の血と共に意識も失った。
「ディックもやられちまった!狙撃に注意するんだ!」
部隊は匍匐で草の中を進み、時たま草の上に顔を出した兵がたちまち頭を撃ち抜かれる。茂る草のカーテンは視界と主導権を米兵から奪い、的確に飛んでくる弾は、彼等に日本軍の精鋭狙撃部隊が配置済みであると錯覚させた。ところが、既に日本軍には精鋭らしい精鋭はほぼ残っておらず、あるとすればせいぜい首里城に立てこもる空挺部隊や速射砲部隊くらいのものだった。戦車は落とし穴を恐れて牛歩に等しい速度で戦車砲をでまかせに撃ち荒らし、歩兵は匍匐で必死に前進を続け、ひたすら攻勢を保とうとする。そして今、3両目の戦車が落とし穴にかかり、穴の中へ逆さまに転げ落ちた。致命的に、M1ガーランドのカキン、という特徴的な音があちこちで鳴り響き、米兵は自分の位置を相手に知らせてしまっていた。そのことに彼等が気付くのは、草の中を掻き分ける日本の小銃弾に貫かれてからであった。
志田は射撃に関して特別、心得があったわけではない。ただ手にしていたのが九九式小銃で、ただ撃ったら敵に当たったというだけの話だ。間抜けにも戦場で戦車砲と発砲音の合間に聞こえてくる、カキンという音に向けて撃つたび、こちらに飛んでくる弾の数が減っていった。1キロ近い距離を移動し、平原のど真ん中に掘らせておいた塹壕に彼等は居る。こちらは浜のとは違って至って簡素な掘っただけの塹壕だ。だから爆撃なんぞされたら吹き飛ぶし、乗り込まれたらおしまいだ。そのため、出来る限り敵を引き付けてから、飛行場まで一気に撤退しなければならなかった。飛行場には迎撃用意を整えた守備隊が、万全の態勢で待機している。学徒隊が撤退した暁には、海兵隊は磨耗した戦力で飛行場を攻略する羽目になるのだ。学徒隊の任務は玉砕ではなく、敵の進軍を遅らせて正規軍が態勢を整える時間を稼ぎ、敵兵力を少しでも減衰させることにあると、志田は考えた。子供騙しな作戦の数々は見事に敵の戦闘力をすり減らし、本来より1時間近く、作戦に遅れを生じさせる事に成功している。それが米海軍にとってどれだけ不幸だったか、また日本軍にとってどれだけ僥倖だったか、のちになって知ることになった。
米艦隊は後方の予備艦隊と合流し、空母22隻を中心に艦載機1000機以上を以って沖縄の海を蹂躙する。10隻の駆逐艦と20隻の防空艦が周囲を固め、神風隊が出現しても1機残らず撃ち落とせるだけの火力が艦隊にはあった。戦艦は先の上陸時に旗艦を除いて全て沈んだが、増援の戦艦をハルゼー中将が運んできてくれる予定らしい。
「発艦用意が出来た機から順次発進せよ!マリーンが支援要請を送ってきている!」
「ディック、座標を報告しろ。おい、どうした!」
空母群からは白鳥のように編隊が飛び立ち、沖縄本島に消えていく。その内何割が生き残れるのか、スプルーアンスには予想もつかなかった。
「B25が出るぞ!」
通信の最中にそんな声が聞こえ、スプルーアンスもその方角へ目を向ける。そこには確かに空母から巨体を揺らして発進しようとするB25ミッチェルの機影があった。鈍重な挙動で回頭し、甲板を狭そうに後進する。カタパルトを装着してプロペラを力強く唸らせ、その機体が急速に前進を始める。ともすれば墜落しそうな速度で甲板を蹴らんとしていた刹那、機は甲板にめり込んだ。母艦の艦首をへし折ってミッチェルは爆発すると、格納庫を吹き飛ばす。搭載していた機体がたちまち鉄くずに変わり、艦は再起不能な勢いで炎上した。爆弾を満載していたB25の残骸がもう1回爆発し、甲板はめくれ上がり、消火作業を困難なものにする。そして作業が終わる前に、無事なはずの機関部も爆発して、空母エンタープライズは轟沈した。ドーリットル作戦を成功させた空母の同型艦として急遽上陸作戦に投入された艦であったが、
今ここにその艦命を終えてしまう。そして艦隊の中心にいたために、その様子は艦隊全てが見て取れた。
最初は発艦の失敗かと思われたが次の瞬間、隣の空母で同じ光景が繰り広げられる。空母2隻が一瞬でスクラップになり、スプルーアンスはそれが敵襲であると判断した。
「索敵しろ!レーダー確認!潜水艦の可能性もあるぞ!」
旗艦ミズーリから指令を与えられた各艦は、相対距離を取るべくそそくさと舵を切る。最初に行動したのは駆逐艦ダルマシアだった。艦隊の先頭に位置するこの艦は、微速前進して対潜ソナーを起動する。故に犠牲になるのもこの艦である。機雷を装填した発射機を両舷から覗かせ、ダルマシアは恐れも知らず周りに目を凝らしたが、目ぼしい敵影は確認されなかった。もし人間一人においても軍艦にとって脅威であるとしていたら、あるいは生き残る事ができたかもしれない。
少女は主要空母2隻を沈めた後、上空を飛び回る直庵機を50機にわたって叩き落し、再び目下の艦隊に目標を定めた。島の遠浅な珊瑚礁を進む駆逐艦を一瞥して、彼女は空を切りつつ降下する。旋回する戦闘機を一機巻き添えにして撃墜、駆逐艦の煙突へ飛び込むように着地した。ダルマシアは面白いぐらいに傾き、復原性を超えてバランスを崩した艦体は瞬く間に転覆してしまう。倒れる直前に誤射した単装砲が近くの味方艦に直撃した挙句、装填されていた機雷が零れ落ち、続く艦隊はそれを知らずに前進していった。空母1隻と駆逐艦1隻、巡洋艦2隻が派手に火柱を上げ、ダルマシアから脱出した少女は満足である。
虚空を突き抜けて、彼女は戦闘機の飛び交う空域を舞った。
「よろしければぁ、私と踊りませんか?」
彼女が腕を振るえば艦橋がガラクタ置き場になり、足を投げ出せば主砲が鉄塊に変わる。彼女が子供のように飛び込めば、無事に受けとめることは不可能だ。ある巡洋艦が甲板を丸ごと破壊され、炎上している所に艦橋を根元から引き千切られてしまい、司令所が甲板上に転倒した。何とか這い出た人間は炎に焼かれ、悲鳴をあげながら海へ落ちていく。小型空母は舵を切り損なってしまい、撃沈されて間もない艦に激突し、艦首から浸水する。不運にも沈みかけの艦には大量の火薬が搭載されていたらしく、海中に没する直前、激突の衝撃と篭った空気に当てられて大爆発を巻き起こした。艦首を破損した小型空母は浸水が増大、爆発の余波が装甲を圧迫、艦載機が揺れに耐えられず格納庫を暴れまわり、艦の全容が真っ赤に染まった。
「空母はとりあえず、全部退場ですねぇ~」
しばらくして、推進軸を真っ二つに折られてエレベーターを抜き取られたカサブランカ級空母1隻が岩場に座礁した以外、22隻の空母は全滅。僅かな小型艦が重油の海を右往左往しているのみである。
「まぁ、これぐらいですかぁ」
めぼしい艦艇を沈め、概ね目的を達した彼女は、海兵隊の向かった飛行場へ視線を投げかけた。その先では、飛行場を占領せんと上陸した5000人の海兵隊が猛撃を仕掛けているだろう。少女は空中で軽やかに身を翻し、島の方角へ進路をとった。
途中、無傷な戦艦がいたので艦の中央線、艦橋を含む艦体全てを両断し、特に指揮所らしき部分を掴んで空高く放り投げる。まるで粉を払うように兵が散り、指揮所の残骸が戦闘機隊と衝突、火の粉と共に海面に降り注ぐ頃には、少女は飛行場へ向かっていた。