第一話 消えた女
この物語は、すでに終わったはずの物語のその先にある。
最初に消えたのは最初から存在していないはずの人間だった。
不在連絡に返信が来た。
最初に消えたのは、何でもない女だった。
——そう思っていた。
あの夜。
隣で笑っていた。
ごく普通に。
何も変わらず。
それなのに。
次の日には、いなくなっていた。
痕跡は、何も残っていない。
警察も動いている。
だが、見つからない。
まるで——
“最初から存在しなかった”みたいに。
「……おかしいだろ」
小さく呟く。
誰に聞かせるでもなく。
スマホの画面を、見つめる。
最後のやり取り。
他愛もないメッセージ。
それが、最後。
既読はついている。
返信は、ない。
それだけだ。
それだけのはずなのに。
違和感だけが、消えない。
——もう一人、消えている。
同じだった。
笑い方も。
仕草も。
そして——
消え方も。
偶然じゃない。
そう思った瞬間。
背筋が、冷えた。
視線を感じる。
ゆっくりと、顔を上げる。
何もない。
だが。
“見られている”
そんな感覚だけが、残る。
スマホが、震えた。
通知。
見覚えのない表示。
【不在通知】
「……なんだよ、これ」
タップする。
開かない。
何度押しても、反応しない。
それでも——
消えない。
画面に、残り続けている。
嫌な予感がする。
本能が、警告している。
関わるな、と。
それなのに。
指が、止まらない。
もう一度、画面を見る。
最後のやり取り。
そこに——
“なかったはずの一文”が、増えていた。
『見てるよ』
息が、止まる。
その瞬間。
画面が、わずかに揺れた。
ノイズ。
そして。
自分の顔が映る。
その背後に——
何かが、立っていた。
振り返る。
誰もいない。
だが確かに、見た。
スマホがもう一度震える。
【既読】
——これは、始まりだ。




