夜空を見上げて願いを、なんて、物語の世界の話だと思っていました。~婚約破棄されても幸せな未来は掴めます~
今朝婚約破棄された。
私にはラウンスという婚約者がいたのだが、他の女性に惚れた彼に一方的に関係を終わらされてしまった。
もやもやが止まらない私は、今、自室の窓から星々が輝く夜空を見上げている。
婚約破棄されたことは事実だ。それはもう仕方のないこと、どうしようもないことだ。自分一人がいかに抗おうとも運命からは逃れられない。そこは分かっているので、そうなってしまった以上それを受け入れようとは思っていて。ただ、人には心というものがあり、それゆえどうしても色々考えてしまうもので。仕方がないから気にしないでおこう、というのも、簡単なことではない。
『お前は可愛くない。彼女と違って。だからお前と一緒に生きていくなんて嫌なんだ。俺は可愛らしい女性が好きだ、それはお前だって知っているだろう? 可愛らしい女性というのはな、お前みたいな女とは違うんだよ』
彼は婚約者に対してであっても平然とそんなことを言う。
『分かったか? お前は普通の女、可愛らしい女性というのはお前みたいな女ではない。お前と婚約していたのは、相手がいなかった場合に困るから、それだけだ。ゆえに、彼女に出会った以上お前は要らなくなった……そういうことだ』
私の心がどんな状態になっているかなんて欠片ほども想像しないのだろう。
「ああ……あんな人、宇宙にでも飛んでいっちゃえばいいのに……」
星空を見上げながら呟く。
他者の不幸を願うなんてこと、したくはない。
否、本来そんなことは絶対にしない。
けれども今は我慢できなかった。
嫌みの一つでも言ってやらなければ涙が出てしまいそうで。
なぜ私がこんな目に遭わなければならなかったの――。
そんな思いが胸の内を巡る。
◆
「ねえ、聞いた!?」
「どうしたの」
翌朝、まだ早い時間に、近所の同性の友人が駆けてきた。
「聞いてないの!? 昨日まで婚約者だったのに!?」
「ええ……あれから連絡取ってないのよ」
「ラウンスさんが宇宙人に誘拐されたって……!」
口からは「ええっ」とこぼれる。
しかし頭の中は若干違って。
脳内にはほんの少しの焦り。
まさか……、と。
『ああ……あんな人、宇宙にでも飛んでいっちゃえばいいのに……』
昨夜の自分の呟きを思い出し。
もしかしてこれは、願いが叶った、ということ……?
そんな風に思う。
後に聞いた話によれば。
夜彼の家に誰も見たことがないような乗り物が現れたそうで。
少しするとそれは飛び立っていったそうなのだが、それと同時にラウンスは消えていたそうで、同じ屋根の下で暮らしていた両親でさえ彼がどこへ消えたのかは分からないままなのだそうだ。
彼はどこへ消えたのか?
……その答えを知る者はどこにもいない。
◆
ラウンスは結局帰ってこなかった。
愛しい人のもとへ行ったというわけでもなかったようだ。
彼と親しくしていた女性でさえ「彼は突然いなくなった、どこへ行ったのかは分からない」と話しているそう。
あの夜以降ラウンスを目撃した人物は一人も存在していないようである。
ちなみに私はというと、婚約破棄されてから二年半ほど経った頃に出会った男性と結ばれた。
彼との日々は楽しさに満ちている。
時には趣味を共有したり。
時には各々やりたいことをする時間を大切にしたり。
そうやってほどよい距離感で過ごせるからこそ、彼と過ごす日々の中では楽しさがどこまでも広がっていくのだ。
私は彼を愛している。
彼も私を愛してくれている。
とても良い関係だと思う。
◆終わり◆




