第六話 「決意を固める第三王女」─下─
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場面転換の記号。
日本語が登場人物の母国語。外来語が登場人物の外来語。
レイラと言い争い、会話もなく、早々に布団に入ったミラ。
光が微睡み、いつの間にか見ていたのは、瞼の裏側だった。
ミラは、夢を見る。
それは、出発前夜、〈ジェライル〉に旅立つ直前のこと。
夢の中。
ミラとレイラは、王城内のミラの自室で話していた。ミラは、大きな天蓋付きのベッドを椅子にして、側には、レイラが立っていた。
「姫様、良いのですか?あるとは限らぬ霊薬を探すより、陛下、御父上のお側にいたほうが」
「いいのよ、レイラ。私は、お父様が弱っていくのを見ているだけは、嫌よ。だから、か細い糸でも、しがみついて、必ずお父様を助けてみせる」
「……それは、ご兄姉の為ですか」
「…そうね、お父様さえ元気になれば、と思っていることは、否定出来ないわ。幻滅したかしら?」
「私は、姫様が陛下の身を案じていることも分かっています。打算だけじゃないことを知っています。あまり、自身を卑下なさらなくても、」
「ふふ、レイラの前じゃ格好も付けられないわね。それでもね、私は、止めなきゃ行けなかった、エマ姉様が死んでしまうことも無かった。だから、」
その時、ミラの部屋の戸をノックする音。
入ってきたのは、第三王女つきの侍女。ミラに報告する。
「ミラ様、どうやら、気づかれたようです」
「もう、ですか……やはり、第二王子派閥ですか?」
「そのようです」
侍女の報告を聞き、レイラがミラに忠言する。
「もう、王城は王家内乱の渦中、姫様、彼らの兇刃が貴方にふるわれる前に出立すべきかと」
「そうね、手はず通りに、」
侍女にミラは、目配せをする。侍女が応える。
「はい、私は、陛下のお側に、」
「頼むわね、私が言えることではないけれど、無茶は禁物よ」
「分かっています、姫様のお戻りを生きてお待ちしなければいけないのですから。準備は、すんでおります。あとは、頼みます。レイラ」
「任された、姫様は、必ず。」
ミラとレイラは、王城を立つ。目的地は、〈ジェライル〉、「霊薬」が出土した探索者の街。
ミラは、決意を固める。旅の果てに死が待っていようとも、父を国を救うのだと。
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「姫様、起きてください」
「ん、んー、あさ?」
「買い出しに行かなくては、ダンジョン探索の決行日は、明日なんですよ」
ミラは背伸びをして、眠気を飛ばす。レイラは、もう支度が終わっていた。
彼女は目をこすりながら、ベッドから飛び降り、着替えを始める。
「んしょ、それで、どこに買い出しに行くのかしら?」
「一応、良い店は、ルイドールからの手紙、というより指示書ですね、それに書いてありました。まずは、朝市ですね」
「ふーん」
着替えを終え、手櫛で髪をとかしているミラは、気持ちを作り、いざ朝市へ。
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朝市、ダンジョン広場手前の屋台通り。
屋台の一部は、貸出ているもので、朝は雑貨屋で夜は飯屋と時間で、その様相を変える。
他にも、道に露店を開いている。
探索道具や保存食、行商の交易品から二束三文で売っている未鑑定の異界産素材まで、何でも揃う露店市。
しかし、その乱雑さは、異界と見紛うほど。
気分は、探索前の大冒険だ。
「凄いわね!突然、知ってはいたけれど実際に来ると感動するわ!」
「姫様、ここで買うのは、バックパック、楔付きのロープ、ナイフ、保存食、布袋やボロ布もあると良いとも書いてますね」
「結構、物入りね、それじゃ、早速探しましょう!」
少し経ち、ミラとレイラは、バックパックの露店で店主と口論になっていた。
「あのネ、これは、ケロッピってモンスターの素材だからネ、防水で高いンだヨ!」
「店主!流石に無いわ!似たようなの、あっちで500ルボルで売ってたわよ!」
「知らないヨ!文句アルならソッチ買えばいいネ!」
「ひ、姫様、流石に…」
レイラの制止など聞こえないミラは口撃を続ける。
「あら、そう、所々痛んでいるし…800ルボル、これがね…大声だしてもいいのよ?」
「ハッ!素人は黙ってるネ!」
「あらあら、この縫い目…水が染みそうね、防水が売りなんでしょう?300ルボルでどうかしら?」
ミラは、商品を持ち上げて、縫い目を指さしながら、値下げ交渉に打って出た。
「そ、それくらい、大丈夫ネ、糸だって防水で問題ないネ!まけても、700ルボルが限界ヨ!」
「ふふ、店主さん知ってるかしら?ケロッピの革は、手触りで防水力が分かるのよ?向こうのお店とは……あらあら、もしかして、これを作ったのは新米職人さんかしら?」
「ヒュ、」
「450ルボルで適正ではなくて?」
冷ややかな目線が店主を貫く。
店主は、素人だと思っていた客に気圧され、そして……心が折れる。
「ま、まいど」
ミラは、450ルボルを手渡し、商品を受け取る。
店を去る背中に恨みがましい目線を向けるも、店主は、すぐに気持ちを改め、次の客を待つのだった。
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露店での買いだしを終えて、路地に入り、表とは違う様相の「道具屋通り」に訪れた二人。
レイラは、ミラに先ほどのことを問い詰めていた。
「姫様!わざわざ値切りをしたいために、諍いを起こさないでください!」
「人聞きが悪いわね」
「姫様の目利きの腕は知っております……面白そうと思ったのですよね?」
「……そんなことないわ、500ルボルのバックパックも大差なかったのだから、安く値切れる方を買ったのよ…………ぼろいわね」
「姫様、喋りすぎです、顔に出てますよ」
「む、それにしても、荒さもあるけど良いバックパックよ、将来有望ね」
二人は、歩きながら話していた。話題は、新進気鋭な新米職人のこと、バックパックから話が広がる。
辺りは、裏道通りで、人気も少ない。目的地の「道具屋」までもう少し。
ルイドールからの指示書に同封された地図を頼りに、道なりに進み、暗がりを渡り、角を曲がって、もうすぐ目の前、鼻の先、
「やぁ~うれしいなぁ、本人も喜ぶよー師匠の僕も鼻が高いなぁ」
意識の外、背後から声をかける腰まである長髪の美人が話かけてきた。
瞬く間、レイラは、懐に隠したナイフを握り、臨戦態勢。だが、敵意を感じない。拳を解いて、美人に尋ねる。
「貴方は…?」
「んー僕はね、そこの錬金術師だよ、やーやっぱり、王族は目の付け所が違うんだね!」
シュ、と風切り音。
美人の喉元に刃を立てるレイラ。
レイラが訊く。
「貴様、誰の手先だ」
「ま、まってまって、ルイドールから聞いてないの!?」
「レイラ、おそらく、目的の「道具屋」の方ではないかしら?非力そうな女性をわざわざ、差し向ける訳もないでしょうし」
突然の静寂。少し間が空いて、美人は言い放った。
「へ?僕、男だよ?」
「「は?」」
※屋台通り
屋台を購入して、店をひらいている者もいれば、屋台を借りて、店をひらいている者もいる。貸出ている屋台は、朝市では、大抵、雑貨屋になっている。
昼、夜は、飲み屋や飲食店。
※裏道通り
メインストリートがダンジョンに向かって真っ直ぐ街を貫いている〈ジェライル〉は、脇道にそれるとアングラな所や、風俗店、専門店がある。
※露店市
朝市のこと。ひたすら露店の数が多い。メインストリートが人混みと露店で通れなくなるほど。決して、メインストリートが細い訳ではない。なんなら、馬車が二台並んで通れる位ある。
乱雑した露店は、やはり、掘り出し物も多い。
※異界産素材
字面のまんま。異界産の摩訶不思議な力を秘めた素材。魔物から剥ぎ取った素材や鉱物、薬草、等々。異界で採れたら名乗れる。
※未鑑定
素材は、基本、鑑定して効果が判明している物がほとんどだ。
この「鑑定」というのは、確定の意味合いも持つ。未鑑定は、見た目で判断した素材とは、違うかもしれないリスクを持つ。
もう一つ、文字通りの未鑑定、全く新しい素材も指す。新素材の鑑定などもギルドがしてくれるが、お金がかかる。二束三文で売ってしまおうという算段。




