第五話 「決意を固める第三王女」─上─
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場面転換の記号。
日本語が登場人物の母国語。外来語が登場人物の外来語。
私は、バードリア王国第三王女、果たさなければならない義務がある。
民を守ること、絶対に疎かにしてはいけない王族の使命。
始まりは、お父様が倒れられたことだった。病、それも取り返しのつかない重い病。
私は泣き腫らして、悲しんだのだ。お姉様やお兄様、弟妹達も悲しんでいた。
けど、国王不在では、バードリアは、滅んでしまう。
最初は、一番上のお兄様、お姉様から後継者を決めようという話だった。争うこともなく、適任だろうと、私達、王位継承権を持つ他の兄弟姉妹は、納得した。
でも、争ったのは、指名された兄と姉だった。
話し合いで決めようと、国の政策や民への配慮など色々な議論をして、互いにどちらがより良い国づくりが出来るのか、当事者間で適任を選ぼうとしていた。
次第に白熱し、弁論よりも罵倒が、罵倒よりも侮辱が少しずつ増えていった。
そのうちに、憎しみが高まり、暗殺者を互いに送り込むまでになった。
お父様が病床に伏してから、一月も立っていないのに。皆、おかしくなっていたのか。
今にして思えば、絶対的な正解がないような議論では、こうなるのは、必然だった。
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ジグの屋台で、ルイドールと別れ、ミラとレイラは、宿泊している「満開亭」の自室に帰ってきた。
ミラは、部屋に入るなりベッドに飛び込んだ。後に入って、戸を閉めるレイラに言う。
「レイラ、先にお風呂に入りましょ」
「そうですね、しかし、姫様、大丈夫ですか。慣れないお酒も飲んでいましたし、酔っているときの風呂は、危険だと聞いた事がありますが」
「大丈夫よ、そこまで飲んでいないわ、それにレイラもいるんだから」
「ですが、姫様、」
「姫様姫様うるさいわよぉ、あのね、言っているでしょう?姫様って言ってたら身元がバレてしまうって、名前で呼びなさい」
「い、いや、その私には、」
「はっきりしないわね、」
「姫様!?」
ベッドから飛び起きたミラは、素早くレイラの背後をとり、レイラをベッドに押し倒す。
主人に手を出せないレイラは、為す術がない。
ミラは、レイラに顔を近づける。鼻が触れあう距離。
レイラは、思わず目を逸らす。赤面しミラを直視出来ない。
「ふふ、可愛いわ、そんなに恥ずかしいのかしら?顔まで赤くして」
「ひ、姫様、お戯れが過ぎます!そ、それに女です!私は!」
「ふーーん、嫌いなの?私のこと、名前でも呼んでくれないし」
「へ、いや、そんな事は」
ミラの手がレイラの腰の線をなぞる。
甘い吐息がレイラの耳をくすぐり、その声が脳を揺さぶる。
一秒が遅い、淫靡な空間。
手指が絡み、唇が触れそうになる。
レイラの頭の中を淫らに染められそうになった、
その瞬間。
「はっ、ひ、姫様!使われましたね!魅了を!」
「フフフ、あーあ、バレちゃった、もう少しだったのになぁ」
ミラの表情が崩れ、子供のような笑顔を浮かべる。対して、レイラは、険しい顔で叱りつける。
「姫様!ダメです!安易に使われるべきではないですと常々、」
「えーー?さっきまで「ひ、姫様、お戯れが過ぎます」って、凄くしおらしかったにぃ、あー可愛かったなぁ!」
「そ、それは、もういいでしょう!風呂に行きますよ!」
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風呂上がり、宿の廊下をを寝間着で歩いているミラとレイラ。
話題は、この宿のこと。
「ふー、いい湯だったわね」
「やはり、ダンジョンのお陰なんでしょう、そこまでランクの高くない宿でも大浴場があるのですから、驚きました」
「そうね、ダンジョンから、水を引いてるらしいわね」
「そうなのですか、我が国にもダンジョンがあれば良かったのですが」
「仕方ないわ、ここで、〈ジェライル〉で見つけられれば良いのよ、お父様を助ける「霊薬」が」
話している内に、部屋に戻ってきた二人。戸を開けて中に入り、周囲を確認して戸を閉める。
「姫様」
「ええ、」
ミラは、ルイドールから渡された封筒の封を切る。そして、中から数枚の手紙を取り出した。
そして、ミラとレイラは、詰め寄り、内容を検める。
『さて、自己紹介をしておこうか、俺は、ルイドールだ。まぁ、先ほどまで一緒に居たはずだが。とにかく、本題に入ろう。』
と言った、書き出しで始まり、探索に必要なもの、決行日、待ち合わせ場所が書かれていた。
ミラは、読み進める。
『君達の目的は、「霊薬」だろう。たしかに、今、世界に3つしかない「霊薬」は、この街、〈ジェライル〉で作られた。そう、作られたんだ。どのような噂を辿ってきたかは、分からないが「霊薬」は、ダンジョンにも〈ジェライル〉にも現存しない』
「そ、そんな、」
「いえ、レイラもう1枚あるわ、こっちに書いてある」
『だけど、運が良いことに、この街に「霊薬」が作れる人間がいる。素材も俺は、どこで手に入るか知っている。ダンジョンで手に入れる素材、それは「仙桃」と呼ばれる果実。』
「姫様、これは、」
「ええ、「仙桃」を見つければ、お父様を助ける事が出来る」
「分かりました。姫様、待っていてください。必ず、私が「仙桃」を持ち帰って、」
「なに、言ってるの、私も行くわ」
「姫様、こればかりは、言うことを聞いてください。書かれている必要物資に、5日分の食料とあります。日を跨いだ探索が安全なはずは、ありません」
「それは!あなたもよ!」
「姫様!」
声を荒げるレイラ。肩をふるわせ、ミラは、泣き出してしまう。
レイラは、声を静め、慈愛を込めて言う。
「必ず、戻ってきますから」
しかし、ミラは、引かない。
後悔があった、彼女は、兄弟姉妹達を止められたのではないかと、ずっと考えていた。
彼女達がこの街に来たのは一週間前。王城に残った協力者が父の容態を魔導具で知らせてくる。容態は、芳しくない。
父のこと、後継者争いのこと、解決の希望が見えた。
ここまで、付き合わせたレイラだけに背負わせるなどミラは、第三王女は、許さない。
「私も行く、私は、あなただけに背負わせない。あなたを信頼している、けれど、これは、私の、第三王女としての決意!」
「……無礼を承知で言います。姫様、あなたは、足手まといだ。」
「切り捨てられる覚悟は、ある。」
レイラは、彼女の決意が尋常なものでないことを知った、否、分からされた。
騎士たる彼女は、その決意に覚えがある。
レイラは、ミラを自分と重ねてしまった。そして、何も言えなかった。
※仙桃
果実。神秘が籠もった、霊薬の材料。
※魅了
ミラの能力。詳細不明。
※霊薬
万能薬。病、身体欠損、あらゆる害を打ち払う。
世界樹が生み出したとされているが、どうやら、人工的に作られたらしい。
世界に、3つしかない。しかし、そのうち、2つは、行方知れず。
まさに、お伽噺の産物。霊薬など存在しないと、嘘であると言う者も多い。
〈ジェライル〉は、霊薬を発見したと言われるダンジョンがある。




