第二話 「採集専門の探索者(シーカー)」─下─
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場面展開の記号。
この世界的には日本語の部分がルイドールの母国語。外来語の部分がルイドールからみた外来語。
ギルドから飛び出して、ルイドールは、ダンジョン入口広場に来ていた。
おーい、そっち運んでくれぇ
馬鹿野郎、それはそっちだ
花祭りの準備で〈ジェライル花見会〉が祭り屋台の設営をしている。開花は、もう少し先だが、前夜祭は、目前だ。
「今年も凄い活気だなぁ」
彼は、風物詩に和みつつ、ダンジョンを眺める。
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ダンジョンの入口は、根である。が、根が剥き出しではない。
世界樹の根のほとんどは、土が永い時間をかけて堆積し、山脈と化している。直に根は見えないことが多い。
〈ジェライルダンジョン〉の異界門は、切り立った断崖絶壁にある。その断崖絶壁にある、巨人が抉ったかのような大穴。これが異界門だ。
その少し上には、大樹が壁面を突き破り、大きく前に飛びだしている。毎年この時期に、綺麗なピンク色の花弁をつけるこの大樹が花祭りの主役だ。
この大樹は、世界樹の根から生えた芽だ。少し成長し、苗と呼べるほどだ。世界樹の大きさは、見当もつかない。
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ルイドールは、大きく息を吸う。もうここから気を抜くことは出来ない。
「よし、行くか」
ルイドールは、歩き出す。
異界門に入る。
一歩、
二歩、
三歩、
四歩、
五歩、
六歩、と同時に自分の体が捩じ曲がるような感覚と共に視界が暗転する。
「き、た、頭ねじれる、ぅぐ」
少したって、感覚は正常に戻った。辺りからは、水滴の落ちる音と遠くで聞こえる魔物の呻き声。
「ふぅ、なんとか無事だな。これで、死んだって話も聞くし、どうにか対策できないかなぁ、マジきついって」
ルイドールは、手を開く動作を繰り返しながら、自分の体に不調がないことを確認する。
「バックパック無事、手足も、あるな。さて、さっさと行くか」
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彼がいるのは、異界門に入れば必ず最初に飛ばされる異界。探索者達は、「始めの異界」と読んでいる。だが、始めの異界のどこに飛ばされるかのかは、分からない。始めの異界は、広大だ。未だに、全体が分からないほどだ。
「始めの異界」内に、ダンジョンの出口はない。だが進む道は、無数にあると言われている。
異界どうしを繋ぐ異界門もまた一方通行。ただ、進んだ異界の先も枝分かれを繰り返して、ダンジョンから脱出するルートに辿り着ける。直線的には帰れない、回り道が探索の基本だ。
異界内の異界門は、一見して分かる空間のひずみのようなもので、特に装飾が無いものも、人工的に思える装飾の異界門もある。
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さてと、今日も見慣れたレンガで舗装された道に壁。さすがに飽きてくるよな。変わらなすぎて気狂い起こすやつもいるらしいし。
他の奴らの声は、しないな。やっぱ早朝は、人気ないかぁ。
とか言ってる内に、次の異界門前だぜ。あーあ、脳内ひとりごとが増えてかなわん。やっかいな職業病だな。
「うし、せーの」
う、また、あたま、が……
「ハッ、あーっと、無事だな。」
よっと、周りは…何も居ないな。
やっぱ、見事なもんだなぁ。魔力を帯びた鉱物がキラキラ光る坑道。センス良いな、この異界作った奴。あ、アルボレラか。さすが世界樹。さすせか。
「お、マナタイト。こっちは、封魔石、魔水晶に、あそこのは、封魔石…いや、光かたが違う…あ、く、空無石」
高額買い取りの鉱石ばかり、金の山じゃ。金の山ァ!冷蔵庫がもう一つ買えるぞぉ!要らねぇけどぉ!
「おれ、再生成運良すぎ、明日死ぬのか……?」
まぁ、いっか。良くねぇけど。気にする暇はないぜ。つるはしつるはし、よっと、まぁ、つるはしとは、言うがハンディピッケルだしなぁ。風情がないよなっと、
ガキンッ
ガキンッ、ガキンッ
うーいー、疲れる。空無石は、少し上の方だしどうすっかな。ん、あそこ足場にするか。面倒だから後回しだな。
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「ふぅ、結構時間かかったな。いつもより戦果は多いか、ほんと、うまうま。うーん、腹減った。昼飯は、帰り道想定だったけど、食べてくかぁ?」
ガサッ
ルイドールは、瞬間振り返る。
荷物は、遠くに置いたまま、だが、手にはつるはし。仕方なしと彼は、つるはしを構える。
だが、何も居ない。地面から生えた鉱石だけが光を放っていた。
「いない、いや、そこか!」
ルイドールは、振りかぶってつるはしを投げる。
「いけ!マイピッケェルゥ!」
つるはしは、回転しながら鉱石にぶつかる。
プギィ
「馬鹿が!俺が全部鉱石採ったんだから、擬態になってねぇぞ!」
吹き飛ばされた魔物に言いながら、駆け出す。目的は、バックパックの中にある杖とナイフ。
「ハッ、しめた!ひっくり返ってやがる」
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ルイドールが相手取る魔物は、「イシネズミ」だ。文字通り、ネズミに近い外見で背中に鉱物が生えている。解剖した学者によると、「鉱物が生えているというよりも、鉱物にネズミが生えているのではないか」ということだ。
まだ、実証がないが、土人形の類いかもしれないという新説もある。
はっきり言って、雑魚。だが、油断ならない。素早く、鉱物の重さがのった、タックルをしてくる。隙を見せると、金属質な牙で喉元を食い千切って出血死させようとしてくる。しかし、本当に油断できないのは、
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「よしゃ、杖とった。これで、俺の勝、」
キィィィィ
ひっくり返ったままのイシネズミ、その背中の鉱石が強く光り輝く。瞬間、雷がルイドールに向かう。
直撃。
「っぱ、背中の鉱石は、封魔石か、んでもって雷の」
ルイドールは、とっさに杖を握って、魔法の壁を作っていた。水の壁だ。薄く円状に広がった水の盾が宙に浮いている。彼は、雷の魔法をこの水の盾で弾いたのだ。
「残念!相性最悪だ!死ねぇ!」
構えた杖の先端から水が生成されていく。空に留まり、球状に形成されている。
そして、イシネズミに勢いよく放たれた。イシネズミは、後方に弾き飛ばされる。
キィィィィ
ピッ、ピッギャィァァ
「阿呆が!びしょ濡れで使ったら自爆するだろうが!ハッハ!」
雷の魔法が放たれる前に濡れた体を伝って、自身を灼く。
強い雷光。一瞬でイシネズミの封魔石の中身は空になる。
すべての雷を浴び、イシネズミは、まともに動けない。例え、封魔石を背負い、魔法を使えても種族的に魔法に対する耐性はない。
黒焦げだ。
「まだ、生きてるのかよ、さすが魔物、じゃあな」
ルイドールは、バックパックからナイフを取り出し、イシネズミに近づいていく。
しゃがみ込み、ナイフの狙いを定めて、ネズミ部分に突き刺した。
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ふぅ、まじギリギリだった。荷物遠くにやってたのは、気を抜きすぎだな。金に目がくらんでしまった……まぁ、なんとか無事だな。よかったよかった。
しかし、戦利品が増えたな。イシネズミの体から生えた鉱石は、性質を変える。今回は、どうかなっと、うーん、封魔石では無くなってるか?光ってないし。お?光ってきた。は?中身空だろ?
「魔石じゃない、輝石?は?おーいおーい。死ぬのか俺。純度次第では家が建つぞ、いや、まぁ、そこまで純度高そうではないな。よかった、まだ死ななそう。」
しかし、こりゃ、贅沢三昧しても暫く、大丈夫だなぁ。うーむ、なんか災難の前触れか?
はぁーー、心臓に悪い。飯食って、帰ろ。
※花祭り
この世界の各地で世界樹の苗や芽が存在している。花の種類が違うがだいたい、同じ時期に花が咲く。ので、花が咲く時期に各地で祭りが行われる。
そもそも、花祭りとは、世界樹の花弁が薬の材料になるので、どうにか採れないものかと昔の人々が考えたすえに出来た神事だ。
作中でもでた、大樹の周辺は空間が歪んでいて、直接、花弁を採ることは出来ない。また、神に近づいてその身をどうこうするのも、あまり良いことではなかった。
そこで、昔の人々は、下で花弁が落ちてくるのを待つことにした。神が我らと同じ場所に来られるのを待つことにしたのだ。
空間が歪んでいるため、例え、散った花弁もいつ落ちてくるか分からない。時間差で落ちることも、過去に落ちることもある。
そのため、周期的に咲く時期に近づいたら、花が咲く前から待つことにした。これが前夜祭の起源である。
製薬技術の向上によって、昔ほど世界樹の花弁は必要なくなってしまったが、花の下で馬鹿騒ぎをする文化だけは残っている。
※魔物
モンスター。世界樹が作った、試練官。その身は、勝者の報酬となる。
※杖
魔法が使える。ダンジョンから採取された摩訶不思議な力を宿した素材を人が使えるように加工したもの。杖とは、言うが形は様々。1番、古い形は身の丈ほどある大きな杖。ルイドールが持っているのは小杖。
※空無石
封魔石は、魔法を秘めている。使うには加工する必要があるが人でも使える。空無石は、そんな封魔石が魔法を秘めずに生成されたエラー品。
ちなみに、封魔石の中身を使い切っても、光を失い石ころになるだけ。
※輝石
魔法が籠もっているだけの封魔石と違い、周囲から魔法の源となる魔力を吸収して、時間経過で再度込められた魔法が使える。
非情に貴重なもので、純度次第では家が建つ。
〈純度早見表〉
・ブルー ─ギリ輝石。そこそこの価値─
・レア ─まぁ輝石。加工するなら最低ライン─
・ミディアム ─良い値段。有用─
・ウェル ─見つけたら凄い。ちょうだい─
・オリジン ─世界樹の欠片といえる、神秘─
最高レベルとルイドールが言ってるのはミディアムとかウェルのこと。




