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アルボレラ~探索者達の夢物語~  作者: 山暑雨
探索者の朝は早い
1/6

第一話 「採集専門の探索者(シーカー)」─上─

─△─△

場面展開の記号。


 世界樹と呼ばれる巨木がある。


 神話の時代、世界を閉ざした闇を取り除くために神が植えた苗木は、吸収した闇を糧に成長し、神格を得るまでに到った。苗木は、大地から見上げても限りなく、天を突き抜ける巨木となったのだ。


 しかし、巨木は、神格を持て余し、内から湧き上がる衝動のままに、星を壊さん勢いであった。

 神は憐れんだ。護るべき物を自ら壊してしまいかねない巨木を救うことにした。


 神はその衝動に意義を与えた。生命への試練という役目を与えた。

 そして、巨木は、世界樹となった。




─△─△




「ふわぁあ」



 欠伸。

 目を擦りながら体を起こす。

 男は、ベッドの上で今日の予定を思い出す。



「んーー、はぁ、とりあえず朝飯かな」



 男の名は、ルイドール。今年で18歳になる探索者だ。


 ルイドールは、屋根裏の寝室から梯子を降りて居間に立ち、台所に向かう。



「喉渇いたな、みずみず」



 鼻歌交じりに、台所で蛇口を捻る。手を受け皿にして水を溜め、顔を洗う。また、水を溜め、次は口をすすぐ。そして、やっと、水を飲む。



「ぁぁあ、水うめぇ」



 ルイドールは、一息ついて、台所の戸棚からパンを、冷蔵庫から牛乳を一瓶取り出す。



「冷蔵庫、高かったなぁ……それでも、冷たい牛乳が飲みたかったんだ……」



 昨日買ったばかりの高級魔導具の前で言い訳をするルイドール。彼は、手に持ったパンを囓り、牛乳で呑み込む。



「うめぇ、泣きそう」



 朝食が終わったルイドールは、探索道具(しごとどうぐ)を準備し始める。



「ロープ、昼飯、水筒、つるはし、杖、ナイフ…うし、あるな」



 ルイドールは、バックパックに道具を詰め込む。


 そして、家の戸に手をかける。



「いってきます」



─△─△



 外に出ると、朝焼け空。


 少し涼しい。


 ルイドールは、新鮮な空気を吸い込み、背筋を伸ばす。



「んーー、さて、今日もお仕事頑張るかぁぁ」



 目的地に向かって歩いて行く道程、周りには、レンガや木造の家々が立ち並ぶ。少しすると、屋台通りが見えてきた。


 この街、〈ジェライル〉は、左右を山脈に挟まれている。また、とある場所を始点に、放射状に広がった扇形の街だ。

 始点に近づくほど活気が満ち溢れていて、飲み屋や食事処、屋台が増えていく。


 ルイドールは、走りだす。

 早朝の冷たい空気をかきわけて、眠気を置き去りに、駆けていく。



「おーい!ルイ坊ー!」



 聞き覚えのある声に足を止め、声の主に近づいていく。



「ジグさん、早いですね」


「いや、仕込みがさっき終わったとこだ、もう帰る」


「夜遅くまで……お疲れ様です」


「飲み屋の宿命だな、ルイ坊は、今からダンジョンか?」


「ええ、探索者の朝は早い、てなわけで、今日も眠いですよ」


「はは!頑張れよ!探索者!」



 ジグは朗らかに笑いながら、ルイドールの背中を叩く。



「今夜も行きますから、しっかり屋台出しててくださいね!」



 言い放つと同時にルイドールは、ダンジョンへと駆け出す。

 ジグは彼の背中に大きく手を振って、帰路へとついた。



─△─△



 街の始点となっている、とある場所、それは、ダンジョンと呼ばれる神の試練だ。そう、世界樹〈アルボレラ〉の行う、あらゆる生命への試練。


 ダンジョンは、アルボレラの根である。

 アルボレラは、自身の内に異界を持っており、その異界をダンジョンと言い、アルボレラの根がその異界の出入り口なのだ。


 当然、樹木の根は一つではない。各地に存在し、それを囲むように街が国が栄えている。付け加えると、全ての根が出入り口として使えるわけではない。

 ゆえに、ダンジョンを有している国と有していない国がある。


 ダンジョンは、試練を越えた褒美として、試練を受ける価値として多くの資源を生み出す。食肉、鉱物、薬草、アイテム、資源は多種多様だ。


 探索者の基本業務は、ダンジョンより資源を持ち帰り、ギルドに納品することだ。



─△─△



 ルイドールは、ギルドの扉の前で、立ち止まっている。いつも通りのルーティン、あるいは、儀式。

 大きく息を吸い込み、意を決して1歩を踏み出す。



「よぉーす」



 くだけた挨拶。ギルドロビーには、ほとんど人がいない。すると、カウンターから反応する声が一人。



「今日も早いわね、ルイドール?」


「いやいや、他の連中が怠けてるだけでしょー」


「今は、稼ぎのいい時期でもないし、もうすぐ、アレでしょ?専属依頼組くらいしか早朝からギルドに来ないわよ」



 ルイドールに受付カウンター越しに話しかけた女性は、リンダという受付嬢だ。

 絵に描いたような美人。気高さを感じるような凜とした目元、身長も女性にしては高めなので、近寄りがたい印象もある。



「ああ、花祭りかぁ、1年が早いなぁ」


「若い内から、そんなこと言うもんじゃないわよ、老けるわよ」


「言葉に重みを感じる……」


「おい」


「ゴメンナサイ、いや、けどさ、まだ20代後半でしょ?」


「10歳差のガキに言われても励ましにならないわよ…」


「いい人いないの?」


「あれよ、私、高嶺の花だから」


「花祭り一緒に行く?」


「何が悲しくて、あんたと出店を回るのよ…」



 荒くれ者も多い探索者ギルドの受付嬢、言葉を選べば、肝が据わっている性格のようだ。



「それで、ルイドール?今日も依頼を受けるの?」


「もちろん。今日は、鉱物系の納品をしようかなって」


「そうねー、依頼は出てないわね、常設だけね。買い取りもいつも通りよ」


「そっかぁ、じゃあ行ってくる」



 リンダは、入出記録にルイドールの名前を書く。姿勢を正して、仕事モードに移る。



「はい、じゃあ探索者ルイドールさん。入場申請を受理しました。十分に気をつけて探索を行ってクダサイ。お戻りをお待ちシテイマス。」


「ねぇ、定型文棒読みで感情入ってないよ?」


「うるさいわよ、さっさと行きなさいよ」


「ごめんて、まだ怒ってる?」


「うざい。行け」


「うぅ、悪かったよ!行ってきます!」


「怪我するなよぉー!」



 泣きべそをかきながら、ギルドから飛び出していくルイドールの背中に、リンダは、激励を送るのだった。

※探索者

 ダンジョン探索を生業にする者たちの総称。別名、シーカー。その仕事は、探索であって、「冒険」ではない。

 先人達が切り拓いた道で変わらぬ日常を過ごす。素晴らしき停滞である。しかし、審判たる世界樹は、彼らを赦すのだろうか。


※ギルド

 ダンジョン管理機関。どの国にも属さない中立である。その存在は、多くの国の間で結ばれた、ダンジョン管理条約によって保障されている。

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