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少女の心に深めの傷を残して死にそうな低身長童顔ロリお姉さん  作者: 椿


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4/11

弟子系快活長身少女(病み気味)

 

 「はっきり言って、野乃花の巫女としての実力は下の下の下よ」


 「うっ……そんなにはっきり言わなくても……」


 「事実だもの。大きく分けて、貴女には三つ足りないものがある」


 セーフティハウスを出た私達は、とある場所に向かっていた。野乃花を仲間とする以上、彼女には自分の身くらいは守れるようにする必要がある。その点、あそこは今の彼女にうってつけだろう。


 「武器、技術、経験よ。まず一つ目の武器はそのまま、野乃花の武装のことよ。最低でも二種類は欲しいわね」


 「弓だけでは駄目なのですか?」


 「駄目。仮に弓のみで変異種と交戦すれば、普通型はともかく特殊型にはまず勝てない。それに、もし弓が壊された時、何も出来なくなってしまうでしょう?」


 「それは……そうですね」


 私も槍と刀の他、投げナイフや加護の護符、普段は持ち運ばない大型武装などと幅広く扱っている。手札は多ければ多いほど、それだけで生存率に直結するのだ。


 「次に技術。例えば、私が良く使う槍だけど、いつでも携帯出来るように普段はボールペンほどの大きさに縮小させているの。野乃花の矢を精製するのも、巫女の技能の一つね」


 「へぇ……でも、神力で一から作った方が便利なのでは……」


 「貴女みたいな神力オバケと一緒にしないで。そんなことをしていたら、すぐにガス欠になってしまうでしょう」


 巫女の戦闘は近距離戦が基本だ。その理由は、遠距離武器というものは総じて火力と燃費に難があるからだ。


 もし、野乃花と同じ弓を主戦力とする場合、あらかじめ何十本も矢を用意しておき、それを持ち運ぶ必要性が生じてしまう。一度の戦闘のためにかける準備も手間となるし、その分神力も大きく消費するだろう。


 結局、サブウェポンとして手札の一枚とするぐらいしか現実的な運用は不可能だ。


 「最後に経験。こればっかりは先に挙げた二つを仕上げて、ひたすら変異種と戦うしかないわ。だから、今の野乃花がすべきことは──」


 「新しい武器を手に入れることと、役立つ技能を習得すること、ですね」


 「そう。そのために、ここへ来たのよ」


 「神社……ですか?」


 伏見天川神社。この辺だと少し大きめなのと、神社へと続く階段が数百段あること以外、それといって特徴の無い神社だ。しかし、ここは巫女にとって重要な拠点の一つであり、避難先でもあるのだ。


 「あぁそれと……巫女としての仕事着も調達した方が良いわね。今着ている学校の制服じゃ、耐久性に難があるし」


 「天さんのそれ、ちゃんと意味があったのですね」


 「当たり前でしょ。コスプレか何かと思ってたの?」


 「巫女服、似合ってて可愛いな―……って、思っていました」


 人が少し気にしていることを……というか、その満面の笑みは何だ。私だって好きでこんな服装をしてる訳じゃ無い。これは、この神社の神主の趣味が原因なのだ。


 「まぁ良いわ。野乃花にはしばらくの間、ここで修行してもらうから。そうね……期間は二週間とするわ」


 「が、頑張ります!」


 「気を張りなさい。恐らく近い内、変異種が増えるわ。貴女を守り切れるかどうか、分からないほどにね」


 「……心配しなくても、私は死にませんよ」


 「えぇ。信じてる」


 階段を昇った先には、少し古びた神社があった。ここだけは、いつも変わらない。


 そこに一人、箒を曲芸のようにクルクルと回す見覚えのある少女が鼻歌を歌っていた。その元気そうな姿に、少し安心した。


 「ふーんふんふん♪ 今日のおやつは杏仁どー──の


 「小日向こひなた! サボらないの!」


 「うぇ!? ごごご、ごめんなさい師匠ー! って、え? 何で師匠の幻聴が……」


 「幻聴じゃないわ。本物の私よ」


 白いワイシャツとチェックのスカートの上から、青色の羽織を纏った茶髪の少女。彼女は、私の後輩巫女で一応は弟子……という扱いになっている。


 「久しぶりね。小日向」


 「し、師匠がここに来るってことは……! また大怪我したんですか!? も、もしかしてアレの副作用とか!? それに、その腕は一体どうし──あたっ!?」


 「落ち着きなさい。私は何とも無いし、これはもう殆ど治ってるわ」


 「あ……ほ、ほんとだ」


 ヒートアップし始めた少女の額を、軽く小突いて止める。相変わらず、落ち着きの無い子だ。


 「全く……心配してくれてありがとう。今日ここに来たのは、この子を鍛えるためよ」


 「ど、どうもこんにちは。私、巫女見習いの九重野乃花と申します」


 「へ? あ、これはどうもご丁寧に。私は片桐小日向かたぎりこひなたと言います。どうぞよろしく……じゃなくて! どどど、どういうことですか!? 新しい巫女って、つまり……」


 小日向の反応は正しい。私は、二年前に言ったことを今更撤回したのだ。彼女から何を言われようと、私が反論出来ることは一つも無い。


 「言いたいことは分かるわ。でも、もう決めたことだから」


 「だって……! だって、じゃあなんで私じゃ……!」


 「……小日向。お願い、ちゃんと聞いて」


 「……っ! 師匠の馬鹿! もう師匠なんて、大っ嫌いなんだから!!!」


 「────ぁ」


 眼に涙を浮かべながら、小日向は境内の外へ走って行ってしまった。分かっていたことだったが、いざ面と向かって言われると、中々辛いものだ。何時までも、過去はついて回る。


 「そ、天さん? 大丈夫ですか?」


 「え、えぇ大丈夫……大丈夫よ、うん」


 「と、とにかく片桐さんを追いかけましょう。何があったのか私は知りませんが、今はそうすべきです」


 「そうね……分かっているわ」


 気が重い。また私は、小日向を傷つけてしまうのではないか。私のせいで、また大切な人を失ってしまうのではないか。そんなことを考えると、足が進まない。


 「……天さん」


 「の、野乃花……? ちょっと、恥ずかしいのだけど」


 私がそんな風にしていると、野乃花は私を後ろから抱きしめてきた。先ほども思ったが、彼女はスキンシップが少々過剰だ。それとも、私の背が小さいせいか? これでも一応、成人しているのだが。


 「大丈夫です。私はまだ、天さんのこと全然知りませんけど、一つだけ分かっていることはあります。それは、天さんは困難にちゃんと立ち向かえる人だってことです」


 「……そんなこと、無いわ」


 「じゃあ、立ち向かってください。必要なら、私を理由にしても良いですから」


 「何よ、それ……貴女ってば、本当に自分勝手ね」


 「そうなのです。私、案外ワガママだったみたいですね。自分でも知りませんでした」


 こちらの事情も知らずに、ずけずけと懐に入ってきて、私が長年悩み続けてきたことをいとも容易く穿ってきた野乃花。そんな彼女に、私は応えたいと思ってしまう。ハリボテであろうと、彼女の前でくらい、強い先輩で居たいと、そう願ってしまう。


 ズルいなぁ……本当に、とてもズルい。それでいて、貴女はとても強い。私とは、全くもって大違いだった。


 けれど、後輩にここまで言われて引き下がれるほど、臆病になったつもりは無い。私は野乃花の方を向いて、その瞳を見つめた。私が少し背伸びすれば顔がくっついてしまうほど、近距離のままで。


 「この先の建物に、狐面を着けた変な女性が居るわ。その人が、ここの神主の天川奏あまかわかなでよ。私の紹介で来たって言えば、話は通るはずだわ」


 「分かりました。私はそちらに行けば良いのですね?」


 「そうよ。私は少し、野暮用を片づけてからそっちに行くから、少し待っていて」


 「もちろんです。ずっとずっと、お待ちしていますから」


 私は少しの名残惜しさを感じながら、彼女の腕から走り出していった。雑木林の先、恐らくはいつもの場所に行ったのだろう。小日向は、昔からあの場所が好きだったから。


 全速力で林を駆け抜ける。見慣れた風景を抜け、開けた場所に出た。そこは大きな広場になっていて、辺りには一面、青色の花が咲き誇っていた。


 「師匠……来るのが少し遅いよ。でも、来てくれてちょっと安心した」


 「……馬鹿弟子に言われっぱなしじゃあ、あの子達に顔向け出来ないもの。それに、貴女にも不義理を働いてしまう。きちんと、お話しないとね」


 「そっか……じゃあやっぱり、師匠はあの子とチームを組むんだね」


 「そうよ。今の野乃花には、傍で導いてあげる存在が必要だから」


 「…………」


 小日向は手に蒼い槍を手にしていた。私も槍を取り出して構える。小日向は頑固で要領が悪いから、こんな方法でしか思いを伝えられない。変なところまで、私に似てしまった。


 「私ね? いつかまた師匠と一緒に戦えるようにって……沢山修行したんだ。毎日槍を握って、苦手な巫術ふじゅつとか護符の勉強もして、あの時よりも強くなったんだ」


 「そう、みたいね」


 「それも全部……! 師匠の隣に立つためだったのにっ!!! どうして……どうして私を選んでくれなかったのっ!?」


 「それは違うわ。小日向にも、きちんと説明をしようと思っていたわ」


 「嘘嘘嘘ッ! そうやって師匠は私を除け者にするんだ! そうやって、私を一人にするんだっ!!! また私を……私をっ……! 置いていくんだ!!!」


 「……これ以上の問答は不要よ。全力で受け止めてあげるから、来なさい」


 本当に気が重い。けれど、私は過去の清算をしなければならない。今まで目を背け、見ないようにしてきた現実に向き合わなければならないのだ。


 「もう、私は逃げない」


 一歩、私は踏み込んだ。

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