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少女の心に深めの傷を残して死にそうな低身長童顔ロリお姉さん  作者: 椿


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もう終わったはなし 6

 「ふざ、けるな……!」


 私は倒れ伏した野乃花の胸ぐらを掴んだ。防御すらしていなかった彼女はもう、生きているのさえ不思議なくらいだ。だというのに、野乃花は微笑みを浮かべていた。まるで、そうなることを望んでいたように。


 「なんでっ!? どうして手を抜いた! 答えろ野乃花っ!!!」


 「ふふっ……私は最後まで弱いままだった、ということですよ」


 「なにを、言って……」


 「──私には、大切な友達を切れませんでした」


 ……は? なにを、言っている? 今は命の駆け引きをしている状況だ。私も、野乃花を殺すつもりで戦っていた。それを今更、土壇場で刀が抜けなかった? ふざけるのも大概にしろ。


 「それに、約束してしまったんです。後は任せてくださいって。だったら、こうするのが一番正しいと思いました」


 「っ……!」


 本当に忌々しい。この女は、私の心を何度逆撫ですれば気が済むのだろう。約束も果たせず、自らの計画も崩され、今からその命も尽きようと言うのに。何故、そんな顔が出来る? どうして、そんな満足げに笑える……!


 「何が正しいだ……! 何が友達だ! 何が……何が約束だ! お前は結局、どうしたかったんだ! 答えろ、野乃花!!!」


 「はは……本当ですね。私はただ、あの人との約束を守りたかっただけなのに」


 笑みが消えた。野乃花は静かに、一滴の後悔を流した。


 「天さんに追い付いて、追い越して、その手を取ってあげたかった。ひとりぼっちなあの人の傍に居てあげたかった。ただ、あの人の守りたいものを、一緒に守ってあげたかった。たった、それだけのことだったのに」


 「────」


 呼吸が止まりそうだった。私はずっと近くで、お姉ちゃんのことを見てきたはずだった。なのに、野乃花は言った。お姉ちゃんはひとりぼっちだったと。その言葉を、私は否定出来なかった。


 ずっと気付いていた。お姉ちゃんは死ぬつもりなんだって。仲間を失ったあの日から、お姉ちゃんにとって私達は守るべき対象であって、背中を預け合う仲間では無いって。


 「私は結局、何も出来なかった。何も出来ないまま、天さんを終わらせてしまった。私がすべきことは……! そんなの知らないって、あの人の手を取ってあげることだったのに……!!!」


 どんな気持ちで、野乃花はお姉ちゃんを殺したのだろう。どんな思いで、奏さんを殺したのだろう。その苦悩を、不安を、後悔を……どうやって、今まで抱え続けて居たのだろう。それはきっと、並大抵の言葉では表せない絶望だったろうに。


 静かに涙を流す野乃花を見て、私は世界を呪った。


 どうして、こんな酷いことをするのだ。なんで、こんな結末になってしまったのだ。誰もが幸せを願っていたはずなのに、誰もが最善を尽くしたはずなのに、なんで……!


 「ねぇ、星奈。私は……間違ってたのかな」


 「……そんなの、分かんないよ」


 「そっか。そう、だよね」


 きっと、誰も間違ってなんかいない。ただ、結果としてこうなってしまった。それだけのことなのだろう。だから、これでこの話は終わりだ。


 「野乃花。最後に一つだけ、言っておくね」


 「なん、でしょう……?」


 神力でナイフを創り出す。野乃花は私が殺した。私の手で、殺した。それが彼女に対する報いになるとは全く思わないけれど、その罪は私が一生背負って生きてあげる。たとえ、全てが無かったことになったとしても、この咎は消えやしない。


 「じゃあね、野乃花。貴女は、最低の友達だった」


 「……えぇ、さようなら。地獄で、待ってるね」


 野乃花は最後の力を振り絞ると、私にキスをした。拒もうと思えば、拒めたのに。私はそれを、受け入れていた。


 最悪の気分だ。私は野乃花の身体にナイフを突き立てる感触を味わうと共に、その唇の感触を知っていた。冷たくて、弱々しくて、血の味がした。愛情なんて呼ぶには歪みすぎていて、けれど憎しみというには優しすぎた。


 雨が、降ってきた。相変わらず、空気を読まない世界だ。まるで、私が泣いているみたいじゃないか。私は顔を拭って、その場から立ち上がった。


 「行くよ、二人とも」


 「……星ちゃん、ごめんね」


 「ほし”な”ぁ……! ごめん……!」


 「良いの、これは私が背負うものだから。だから、二人が気に病む必要は無い」


 雨でも誤魔化せないほど、二人の顔はぐちゃぐちゃだった。私はそれを一瞥して、前に進んだ。もう、こんなことは終わらせないと。


 『森羅万象』。世界の摂理を塗り替え、改変する神力兵装。野乃花はこれを使って、変異種の居ない世界を作ろうとしていた。その権利が、今は私達の手の中にある。


 「すみれ、巴。私達の望む世界って、一体何?」


 「……そんなの、決まってる」


 「あぁ、当然、だ……! 私達にとって、一番大切だったのは──」


 お姉ちゃんが居た、お姉ちゃんが死なない、お姉ちゃんが生きていたあの日々だ。それ以外、何も要らなかった。


 「なら、願おう。過ぎ去ってしまったあの日々を取り戻すために。それを実現する力が、私達にはある」


 変異種が居たって良い。全ての悲劇を無くせなくたって構わない。ただ。お姉ちゃんが生きていれば、それだけで。それ以外は、何にも要らないのだから。


 「待っててね、お姉ちゃん」


 そのための力を、私達は手に入れた。今度こそ、間違えたりしない。こんな結末を、私達は認めない。


 全ては、私達が望む最良のエンディングのために。それ以外は不要だ。


 例えそれが……救える友の命だとしても。

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