表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女の心に深めの傷を残して死にそうな低身長童顔ロリお姉さん  作者: 椿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/24

もう終わったはなし 3


 いつはきっと、こんな日が来るのだと分かっていた。それは多分、意識する間も無く、不意を突かれるようにやってくる。だから、私はいつもその時が来ても良いようにしていた。最後くらいは、この恐怖に抗いたかったから。


 「がっ……! ごほっごほっ……!」


 あぁ、でもやっぱり……その時が来ると、怖くて堪らない。今まで感じていた絶望なんて、大したことなかったと思えるくらいには、死というのは薄ら寒いものだった。


 血が至るところから流れて、息がしづらい。目の前が霞んで、立っているのも辛くて仕方が無い。もう、限界だった。


 「師匠! 一旦下がりましょうよ! これ以上は本当に死んじゃうよ!!!」


 「いい、え……平気、よ……まだ、戦える」


 私は死ぬつもりだった。アカネはともかく、小日向を含めた後輩達は私を見捨てることなんて出来ないから。私のせいで誰かが死ぬなんて、それだけは嫌だった。だから、ここで死ぬべきだった。


 「片桐。鷹司を神社へ連れて行け。橘、日野。お前らも下がって、アタシが撃ち漏らしたのを片付けろ。市街地は任せた」


 「……! いくらアカネでも、一人で戦うなんて無茶よ……!?」


 「アタシは一人の方が力を出しやすい。多少は手傷を負うだろうが、今はこれが一番だ」


 「駄目よ……! 私も残って戦う! 小日向! 離して!」


 「──分かり、ました。どうか、ご無事で」


 なのに、私は死ねなかった。もう戦えないお荷物に成り下がって、アカネを死地に置いていった。私には、死んで役に立つことすら出来ない。


 「霞! 桜! 私達だけでやるよ! まずは天川神社まで戻──」


 ひたすらな無気力感に沈んでいく。血を流しすぎたせいだろうか、瞼が重い。私は意識を落とした。


 眼が覚めた時には、雨が降っていた。一体、どれくらいの時間が経ったのだろうか。反射的に起きようとして、鈍い痛みで動きが止まった。


 「痛……でも、血は止まってる」


 応急処置だったが、治癒の護符まで使われていて傷は塞がっていた。しかし、私が居たのは崩れた倉庫の中だった。近くには小日向達も居ない。


 「一体、何……が」


 その時、私は気付いた。私のすぐ傍に、小日向の『空空』があることを。それが結界となって、私の存在を守っていたことを。


 「っ……! 小日向!!!」


 身体が痛んだけれど、私は『空空』を持って走り出した。そのまま、巫女の気配を必死になって探す。見つからないのは、既に撤退しただけだと言い聞かせながら。頭の悪い考えを振り払いたくて、私は必死に探した。


 「こひ、なた……?」


 「……師匠? そこに、居るの……?」


 そして、見つけた。微力な気配がたった一つだけ。辺りには赤黒い血が飛び散っていて、そんな場所に小日向は居た。後輩たちの得物を、握りしめて。


 「良かったぁ……遠距離で使うの、初めてだったからさ。途中で『空空』の結界が破れちゃうんじゃないかって、心配だったんだ……」


 「な、んで……どうして……?」


 「当たり前、じゃん……師匠を見殺しになんて、出来ないよ……」


 小日向の姿は酷いものだった。眼はもう見えていないようで、息をしているのが不思議なくらいだ。そんな状態だというのに、彼女は戦ったのだろう。恐らくは、私を守るために。


 「ねぇ、師匠……私、頑張ったよ? 凄いでしょ……?」


 「馬鹿……! 貴女は大馬鹿よ!!! なんで逃げてくれなかったの!?」


 「ここで逃げたら、私は私を……許せない。師匠を見捨てて、友達を死なせて、私だけ逃げるなんて、嫌だ……」


 あぁ、そうだ。私もそうだった。だから、生き残った人達に全て押し付けて、私は死ぬつもりだった。私はそんな重荷を、この子に背負わせようとしていた。


 「ごめんね、師匠……結局、私は……師匠に、めい、わく、かけてばっかり……だったね」


 「っ……! 駄目よ……そんなの、許さない……!」


 「ごめんね……」


 「辞めて! 謝らないでよ……!!!」


 だから、罰が当たった。全て私の責任だ。何故、最後の最後まで足掻かなかった? そうすれば、小日向達はこうならずに済んだかもしれないのに。全部全部、私の、せい。


 「ごめ、んね……だいす、きだよ、し、しょう」


 「ぅぁ……だ、だめ……置いていかないで……!」


 「────」


 「こひなた……? ねぇ……!? 小日向!!!」


 私の手に握られた蒼い槍が、強い力を放ち始めたのが分かった。『空空』は小日向から離れ、神力装備へと昇華された。それは、巫女の死を何よりも語っていた。


 「ぁあぁあああ……!!!!」


 ただ、叫んだ。意味なんて無い。溢れ出たのは、言葉では無くただの慟哭だった。胸の内が燃え尽きて、全てが失せていく。


 「##########……!?!?」


 「…………変異種」


 私は小日向の『空空』を握り締め、ゆっくりと立ち上がった。もう、私には生きたいだなんて思う気持ちは微塵も無い。けれど、死にたいと思う気持ちは、小日向が全て持っていってしまった。


 「死ね」


 一気に神力を爆発させ、変異種に突貫する。自傷も厭わない、捨て身の一撃。しかし、私にはもう何も無い。痛いと思う気持ちも、死の恐怖も、生への渇望も存在しないのだ。故に、その一撃に揺らぎが起こるはずもない。


 「死ね死ね死ね」


 まるで綿を千切るみたいに、変異種が撃ち抜かれていく。もう、全てが遅いというのに。


 「死ね! 死ね! 死ねよ! 死んでよ!」


 穿ち、切り、引き千切る。そうやって、変異種の多い方へと足を進める。どれほど殺しただろうか。私は、アカネを置いていった場所へと戻ってきていた。


 そこは地獄だった。雨が降っているというのに、青い炎が未だ燃え盛っている。地面はいくつものクレーターが作られ、何百という変異種の残骸が散らばっていた。


 「──あぁ。やっぱり、貴女もなのね」


 その中心に、彼女は居た。いや、居たのだろう。悉くが炭化したそこには、彼女の『流星』だけが突き刺さっていた。いつか、聞いたことがある。アカネは、巫女になってから一度たりとも本気で『流星』を使ったことが無いと。使えば、こうなるから。


 「もう、私は……一人、なんだ」


 『そうだ。すべてお前のせいだ』


 「私だけが、生きてしまった」


 『何もお前は守れない』


 「私は……どうすれば……?」


 『全てを沈めろ。もう眼を開けるな。何もするな。生きたまま、死に続けろ』


 「そう……そうよね。それが、私に相応しい末路」


 辺りに黒い影が充満する。風景が歪んで、ただ真っ黒に染まっていく。もう、何も見えない。何も、分からない。ひたすらに、絶望だけが蔓延っている。


 「────っ」


 あぁ、けれど……遠くから、声が聞こえる。何と言っているのかは分からないけれど、懐かしい声が聞こえた。


 「────!」


 もう良いの。私にはもう、何も無い。生きる気力も、死ぬ理由も、守りたかったものも。もう、全て手遅れだ。だから、もう……


 「お姉ちゃん!!! 眼を覚まして!」


 「ほし、な……?」


 声が、聞こえた。その声を聞くだけで、どうしてか諦めてはいけないような気がした。誰の声なのか分からないのに、何故か一人の名前が零れ落ちた。


 「お姉ちゃ──ぐっ!?」


 『余計なことをするな。どうせこの女はもう立てん。心も折れ、残してやったのは絶望の光景ばかり。死ぬまで養分となる定めよ』


 「ふざ、けるなっ……! お前なんて、私が!」


 『無駄だ。この精神世界において、今の主は我だ。無理矢理侵入した小娘なぞ、赤子の手を捻るようなもの。このまま、お主も我が養分にして──』


 黒い影が、少女に殺到する。まもなく、彼女の精神は破壊されて現実でも死に至るだろう。星奈は……私の妹は、そうやって殺される。


 わたしの、いもうとが、ころ、される……?


 「ふざけるな」


 『ぐぎゃぁっ!? な、なんだ!? 何が起こって!?』


 「おねえ、ちゃん……?」


 「認めない。そんな結末は認めない」


 『な、何故動ける……!? もうとっくに、精神は崩壊しているはずなのに……!?』


 どうしてこんな大切なことを忘れていたのだろうか。まだ、私には守らなくてはならない子達が居たというのに。


 すみれ、巴、星奈。命を賭けてでも救いたかった、私の妹達。彼女たちを、守らないと。


 「退け、三下。私の妹に気安く触れないで」 


 『ま、まて……! たすけ──』


 黒い影を握り潰す。たったそれだけのことに、時間をかけ過ぎた。


 こちらを見上げる星奈に、手を差し出す。妹の存在を忘れてしまうなんて、姉失格だ。もう、絶望している暇なんて無い。悲しみも後悔も全て飲み込んで、その上で私は立ち続ける。


 「帰りましょう。星奈」


           1


 「おねえ、ちゃん……って、あれ……?」


 「星ちゃん……! 気がついて、良かった……!」


 「うぇえん……! ほしな”ぁ……!」


 「あぅ……ふ、二人とも、苦しいよ」


 眼が覚めると、そこはお姉ちゃんの病室だった。まるで白昼夢を見ていたかのような感覚。しかし、確かなことがあった。


 お姉ちゃんが、私を助けてくれた。私のために、立ち上がってくれた。それが、堪らなく嬉しかった。


 「ふぅ……戻ってこれたか。最悪の結果は、免れたようじゃな」


 「お姉ちゃんが、助けてくれました。そうじゃなかったら、今頃……」


 「それ、は、少し違う、わ」


 「え……? お姉ちゃん……?」


 握ったままの手から、脈動を感じた。そこには、先ほどまでの無気力な生を感じない冷たさはなく、私の知っている暖かさが確かにあった。


 「私は、変異種に負けた。さっきまでの私、は……ただ、死にゆく、定めだった。それを、貴女達が、救ってくれたのよ」


 「そんな……私なんて、何も出来なかったのに……!」


 「ありがとう。私を、助けてくれて」


 そういって、お姉ちゃんは笑みを浮かべた。こんな私が、お姉ちゃんを救えた。生きているだけでお姉ちゃんを苦しめる、私が。


 「お姉ちゃん……お姉ちゃんっ!」


 「お姉さん。私も」


 「ぐ”すっ……! 皆無事でよがっだ”よぉ!」


 堪らず、私達はお姉ちゃんに抱き着いた。そうして、三人でわんわん泣いた。でも、悲しいからでは無かった。嬉しかったのだ。お姉ちゃんを救えたことが、ただひたすらに。

 

 「ありがとう……三人共、大好きよ」


 だから、これが過ちの始まりだったのだろう。


 生きる意思を失い、そして私達の存在によって生きる意味を見いだしたお姉ちゃん。その歪な状態を、私はむしろ喜んですらいた。だって、お姉ちゃんが私達のためだけに生きてくれるなんて、そんなに幸せなことはないから。だからこそ、それに甘んじるべきではなかったのだ。


 後になっても、ならどうすれば良かったのかなんて分かりはしない。まるで、運命がそう決まっているかのように、歯車は回り始めた。お姉ちゃんの目覚めと同時に。


 「は、初めまして! 巫女見習いの、九重野乃花と申します!」


 あの忌々しい女……お姉ちゃんを殺すあいつが、現れたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ