天の川
「神力、装備……? 私がそれを作ったのですか?」
「恐らく、ね。あそこまで強力な一撃、それしか考えられないと思うわ」
野乃花から解放された私は、気を取り直して情報の共有を行っていた。神力装備であるなら、あの一撃は再現可能だ。些か過剰な威力ではあるが、手札はあるだけ有利に働く。いざという時の切り札として使えるなら、とても心強いだろう。
「ん~……でも、なんか変な感じなんだよねぇ。それっぽい力は感じるけど、神力装備とはまた違うような……」
小日向は野乃花のコンパウンドボウを手に取って、軽く弦を引っ張った。しばらく弄くり回すと、微妙な顔をしながらそれを野乃花へと返した。
「う~ん……まぁ、定着してないだけかもね」
「手順を飛ばしすぎだもの。無理も無いわ」
神力装備は、その巫女が得意とした攻撃や技術が刻み込まれた武器だ。それには長い時間が必要とされる。不安定なのはそこが原因かもしれない。
「野乃花。さっきの戦闘の記憶が曖昧だと言っていたけれど、あの紅い神力を纏った一撃のことは覚えている?」
「……何となく感覚がある、としか言えませんね。もう一度再現出来るかと言われると、自信がありません」
「そう……とりあえず、神力装備だった場合の処置をしましょう。神力装備は巫女一人につき、一個しか精製出来ない代物よ。名前を付けて、神力と技術をより定着しやすくするのが一般的ね」
小日向は自らの蒼い槍に『空空』と名付け、巫術の中で唯一得意な防護壁の展開を刻み込んでいる。私の刀も、同様に名前を付けて神力武器としていた。これは、巫女なら誰しもが行っていることである。
「天さん。一つ、質問良いですか?」
「えぇ、構わないわ」
「神力武器は巫女一人につき、一つしか精製出来ない。でも、ここにはお二人を上回る数の神力武器がありますよね? それって、つまり……」
「……きっと、野乃花が想像している通りよ」
神力武器が一人一つしか作れない最大の理由。それは、神力武器が最も神力を吸い上げ、技術を刻み込む行程が一度しか訪れないからだ。
「神力武器が一番安定する瞬間はね、その持ち主が死ぬ時よ。巫女が最後に残す遺産。それこそが神力武器なの」
私の刀と『空空』。それ以外の残り四つは、全て過去に死亡した巫女の遺品だ。彼女らは皆、必死に生きて戦い、最後にこれらを残した。私が普段、自分の神力武器以外を持ち歩かないのは、そういった事情もある。
「分かりました。私も、名前を付けます」
「……ありがとう。他にも何か質問はあるかしら?」
「なら、あともう一つ……天さんの神力装備って、どんな名前なんですか? 参考にしたいので、ぜひ教えてください」
「別に構わないわ。私の神力装備はこの刀で、銘は『星天』よ。刻みつけているのは『瞬歩』だわ」
私の得意とする技といえば、『瞬歩』を使った抜刀や隙を突いた一撃だと自負している。この技術だけは、昔から誰よりも上手く使えていた。まぁ、使う度に怪我をしていたので、極力使用するなと良く怒られたものだが。
「ぶー……ほんと、シスコンなんだから……」
「? どういうことですか?」
「師匠の妹さん、星奈ちゃんって名前でしょ? 妹の星と自分の天で『星天』ってわけ。こんなに想われるなんて、少し羨ましいよねぇ」
「あぁ、なるほど……でも、それで言うと片桐さんの『空空』だってあからさまじゃないですか?」
「ふぇっ!? いや、別に全然師匠のこととか意識してないけどね!? 意味合いとかカッコ良くて防護壁の技にあってると思ったから決めただけだし! まぁ確かに!? 師匠の名前に似てはいるけど変な勘ぐりは辞めて欲しいかな!?」
「……図星ですか。なら、私も同じ方向性で行きましょう」
野乃花が名前を考え、その傍で何かを必死そうに弁明する小日向を見ながら、私は準備を進めた。少し落ち着いたとはいえ、今も星奈のことが心配で堪らないのだ。こうして手を動かしていないと、一人で飛び出しかねない。
おおよその準備が終わったところで、野乃花は武器の名前を決めたようだ。小日向はしきりに、「九重後輩も、師匠のことめっちゃ意識してるじゃん……」と言っていたが、私には何のことかよく分からなかった。
「コンパウンドボウを『彦星』、リカーブボウを『織姫』としました。どうでしょう?」
「えぇ、良いと思うわ。けれど、どうして七夕伝説なの?」
「…………何となく、です。他意はありません」
少し気になって名前の由来を聞いてみても、野乃花は顔を赤らめてそっぽを向くばかりで、その理由を教えてはくれなかった。
「九重後輩ぃ……私には、他意ありまくりに思えるんだけどぉ?」
「うるさいですよ。明け透けなラブコールよりマシです」
「なぁっ!? こ、この後輩、意外と辛辣なんだけど!?」
二人の仲が良さそうで何よりだ。私は言い争いを続ける二人の間に割って入り、荷物を手渡した。
「名前が決まったのなら、先を急ぎましょう。物資を纏めたから、二人とも確認して」
大抵は護符や予備の武器なので、何が入っているのかを理解していればそれで良い。しかし、コレだけは使い方を教えなければ使えないだろう。
「最後に『宝玉』ね。これは、簡単に言えば瞬間移動が出来る代物よ」
「す、凄いですね……どうやって使えば良いのですか?」
「行きたい場所を思い浮かべて、これを砕けば発動するわ。でも、発動するまで少しラグがあるからそこは気をつけなさい。数の少ない貴重な物だけど、必要な時は惜しみなく使って頂戴」
「少ないって……幾つあるの?」
「三つしか無いわ。私達の分で全部ね」
私には『宝玉』を精製することが出来ない。これは、私の先輩が遺してくれた貴重な物で、野乃花と小日向には緊急脱出用で渡した。
しかし……仕方の無い事とは言え、少し後ろ暗い気持ちになる。先ほど、私は『宝玉』が三つあると言った。しかし、それは事実では無い。
『宝玉』は二つしか無いのだ。それを教えれば、二人がどういった反応をするかは、流石に私でも予想が出来る。だから、私は嘘を吐いた。
「それじゃあ、変異種の殲滅と星奈達の捜索を始めるわ。まずは、天川神社へ行って奏と合流よ」
「電話、繋がらないのですよね? 私達も慌てて神社を飛び出してきたせいで、天川さんとはお会いしていないのです」
「まっ、奏さんなら大丈夫でしょ。あの人、普段はめっちゃだらしないのに、よく見ると隙とか全然無いから結構強いだろうし」
方針は決まった。後は行動あるのみだ。どうか、『宝玉』を使うような状況になど、陥らないことを願うばかりである。
紅い空の上では、黒い雲が辺りを覆って太陽を隠していた。あと数時間もすれば、雨が降り始めることだろう。
一度降ってしまえば、星奈の痕跡も消えてしまうかもしれない。私は少しの焦りを感じながら、街を駆けていった。その先に、何が待っているのかも知らずに。




