プロローグ
殺してやりたい。
そう初めて思ったのは中学2年生の春の季節だった。
僕の母はいわゆる"毒親"と言うやつだった。
毎日浴びせられる罵声。消えない痣。知らない男の人。
そんな母の暴君を止める人はいない。
父は僕が幼稚園辺りの時にどこかへと消えていった。
毎日が辛い。明日なんていらない。
今じゃそんな風に考えない日は無い。
小学生の頃、僕は母をら許してしまっていた。
周りの人間もきっと同じなのだと思っていたから。
これこそが世界の常識なんだと思ってしまっていたから。
しかし中学生にもなるとそれが当たり前じゃないことに気づいた。
自分は虐待を受けているのだと知った。
その頃僕は全てを諦めた。
きっとどうしようもない事だと思ったから。
僕は1度、母に殺されたのだ。
でも今、僕の目は輝いていた。
僕の黒い瞳には夜空に浮かぶ半月が反射していた。
その月は多くの人には半分欠けている寂しい月に見えるのかもしれない。
だけれど僕にはとても美しく、堂々とした月に見えた。
と言ってもその月は直接見えている訳では無い。
目の前に落ちる鉄に反射しているのだ。
その鉄は恐ろしいほど鋭く研がれていて男の硬い筋肉ですら切れるものだ。
そしてそれを拾い上げた僕は母に一言だけ伝える。
「とっととくたばりやがれ愚図が!」
そう言ってそれを母に向けて勢いよく振り下ろした。
血が飛散する。
その時思い出したのは母との幸せな頃の記憶などでは無かった。
脳を駆け巡ったのは自分が母に殴られて血を吐いている様子だった。
「あっ」
そして僕は気を失った。