表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

神秘なる天使よ

作者: イマノ

 天使とはどのような姿をしているのかを想像してみる。

 出鼻をくじくようだが、願わくば人の姿をしていてもらいたいと思う。天使とは人生の終わり際に出会うものであって、それが人生の中で最も美しい要望をしているに違いない。人の姿でなくともよいが、できれば人並みの脳みそでも処理できるような情報量であってほしいと思う。

 さあその人の姿の天使は男だろうか、女だろうか。いや、そこに性別の差異を考えるのは無粋極まりない。性別などどうでもよく、天使がただ美しいというその事実のみが重要なのである。天使のヘイローを見るのは私の人生の最大の夢である。だがヘイローなどというものは人間の後付けの設定にしかすぎず、エロスにすらついていない架空のパーツであるから望むべくもないだろう。ただ、物質的な体から分離して浮かぶ体の一部というのはとてもロマンがある。私はきっと手を伸ばしてみたくなるだろう。そして肝心なのはあの白い翼を備えているか否かである。天使の代名詞といえばその翼である。ここには人間の空を飛ぶ生物という概念への一般化が見て取れるが、どちらかといえば鳥類の翼の方が後付けであって、天使が翼をもつ存在の元祖であるべきだ。よって彼らが翼をもっていることに何ら疑問はないし、それが当然である。

 天使は死ぬ直前の私に対してどんな表情をしてその姿を現すのだろうか。愚かな人類への嫌悪感だろうか、それとも無関心であろうか。無関心ならば私は天使に表れてほしくないと願う。それはつらい。私の彼らへの感情は恋にも似たものだ。恋した相手から無視などされてみたら死んでも死にきれない。いや、それが己の愚かさの罰だというのならば受け入れなければならないのだろうか? いや、それでも私は無視されたくない。死に損ではないか。私はどんな感情であっても彼らから視線をもらいたい。たとえそれが強い嫌悪であっても、私が彼らに認知されたというその事実だけが私の心と存在を救ってくれるはずのなのだ。ああ想像するだけで感情が高ぶる! この世界で最も美しい存在の美しい瞳が私に向けられる瞬間はどれだけの快楽を伴うのだろうか! 私はその瞳が金色であるといいと思う。金は美の象徴だ。いや、碧眼でもいい。ともかく瞳の中に深さをたたえているならばなんでもいい。それか人間のように真っ黒な深淵をたたえているのもいい。だが天使に限ってそんな話はないだろう。真っ黒な深淵は人間のものだけで十分だ。天使が備えている必要はなく、その瞳にはただ美しさのみが存在すればいいのだ。そう、彼らは限りなく美しくなければならない。私が今想像しているよりもはるかに美しくなければならない。初めての絶頂を上回る快感を与えるほどの美しさを持ち合わせていないとならない。むしろそれ以外は必要がないのだ。私のような人間に語り掛けてくるなど論外だ。彼らが私に与えるのは視線のみでいい。ただその視線が向けられることでこそ人間と天使との絶対的格差が表現されるのだ。彼らの言葉を聞こうなどおこがましい。私に話しかけようとする天使など愚かな天使に違いない。私の最後の一瞬を飾るのに聴覚が働くのは邪魔でしかない。視覚だ。目から入ってくる情報のみが重要なのだ。そうして意識を失う中で天使の姿のみが脳裏に焼き付いて走馬灯がすべてその美しさで上書きされて、何も思いだせないことを幸せに感じながら死ぬのが本望だ。走馬灯などすべて後悔の集積だ。楽しかった思い出はその場で昇華されて残らないのだ。幸福は生きるために消耗される石炭だ。後悔は燃やされてもなお残って消えていかない燃えがらだ。そんな不純なもので構成された走馬灯などというものを見るぐらいだったら私はその天使の美しさだけを記憶して死んでいきたいと願う。

 天使よ! どうか一度だけ会いに来てくれ! それが私の人生最後の願いだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 『走馬灯などすべて後悔の集積だ。楽しかった思い出はその場で昇華されて残らないのだ。幸福は生きるために消耗される石炭だ。後悔は燃やされてもなお残って消えていかない燃えがらだ。そんな不純なもの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ