「エーゲ海、ギリシア文明美術誕生と黄金期における石像について」
後期スペドス型女性像は、紀元前3200年から紀元前2000年にかけての初期青銅器時代に、キュクラデス諸島で作られた大理石製の彫刻作品で、幾何学的で抽象的な美的感覚が特徴である。これらは女性像が多く、両腕を胸の前で組み、両足を揃えて立つ静止のポーズが特徴で、顔のディテールは簡略化され、U字型の頭部と幅広の頬、細めの鼻が特長的だ。身体全体は平坦で滑らかな表面を持ち、円い肩と膨らんだ胸、そして脚部はかなり細身と、象徴的な意味合いを持っている。主に大理石で作られ、シンボリックで象徴的な役割を果たしていたと考えられる。
対照的に、クリティオスの少年に代表される紀元前480年頃に古代ギリシアで制作された彫像はリアリズムと理想美を追求し、自然な人体の描写と動きの表現が特徴だ。特に「コントラポスト」のポーズが重要で、片足に体重をかけ、もう片方の足を軽く曲げたリラックスした自然主義的なポーズで、人体のバランスと自然な立ち方を強調している。筋肉や骨格のディテールは非常にリアルに描写され、筋肉と骨格の構造は肉体と骨の正確さで描かれ、胸郭は呼吸のように自然に拡張し、顔の表情も生き生きとしており、リラックスした姿勢と明らかに狭い腰を備えている。大理石で作られ、技術的には高度な彫刻技術が用いられており、リアリズムと理想美を追求している。
これらの彫刻を比較すると、まず表現手法と目的の違いが明確である。キュクラデス石像は抽象的で幾何学的な形状が強調され、シンプルさと象徴性が重視されている。対して、古代ギリシアの彫像はリアルな人体の描写と動きの表現に重点を置き、自然主義的で理想化された美を追求している。 また、技術的な違いも顕著である。キュクラデス石像は細部の彫り込みが少なく全体的にシンプルであるのに対し、古代ギリシアの彫像は高度な彫刻技術により細部まで精緻に表現されている。
これらが生じた背景には、文化的、宗教的、技術的、そして、より自然主義的で動的な表現が求められるようになったことに起因する。キュクラデス文明では、宗教的な信仰や儀式が重要であり、石像は墓に副葬されることが多かった。そのため、象徴的な意味合いが強く、抽象的な形状が選ばれ、その単純化された形態により、抽象的な美を追求していたと考えられる。また、キュクラデス諸島は地理的に孤立しており、外部との交流が限られていたため、独自のスタイルが発展した。
一方、古代ギリシアの彫刻は、ポリスの発展とともに公共の場や神殿を飾るために制作されたため、リアリズムと理想美が重視され、人間の解剖学的な正確さと動きを表現したと考えられる。また、ギリシア文化はエジプトや近東との交流が盛んであり、他文化の技術やアイデアを取り入れることで、彫刻技術が進化した。
このように、キュクラデス石像と古代ギリシアの彫像の造形的特徴の違いは、それぞれの文化的背景や技術的進歩、社会的役割の違いによって生じたものである
参考資料
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芸術教養シリーズ,5. 高階秀爾.カラー版 西洋美術史.美術出版社,1990,249p.
Googleアース.https://earth.google.com/web/.2024/05/19観覧.