「ダダイスムとシュルレアリズム」
20世紀初頭、第一次世界大戦の混乱と社会的混乱の中で、ダダとシュルレアリズムという二つの芸術運動が登場した。これらの運動は、伝統的な価値観や美的基準に挑戦し、新たな表現方法と思想を提案した。ダダは、第一次世界大戦中の1916年にスイスのチューリッヒで始まった。彼らは、戦争の無意味さとその背後にある理性的な社会構造に対する反発から、既成概念を覆す表現を求め、反芸術的であり、偶然性や無意味さを重視した。
ダダの特徴的な技法には、レディメイドやコラージュがある。マルセル・デュシャンの「泉」(1917年)は、日用品である小便器をアートとして提示することで、芸術の概念を挑発的に問いかけた。また、コラージュ技法は、写真や新聞の切り抜きを組み合わせて新たな意味を生み出す方法として、ジョルジュ・ブラックやパブロ・ピカソなどに影響を与えた。
彼らは、ランダムさ、ユーモラスさ、そして非合理性を通じて、既存の芸術と文化の規範を打破し、詩の朗読、パフォーマンス、奇抜なコラージュ作品を通じて、観客に衝撃を与え、既存の秩序に疑問を投げかけた。
一方、シュルレアリズムは、1920年代のパリでアンドレ・ブルトンが「シュルレアリズム」を提唱したことで始まった。この運動は、ダダの精神を引き継ぎつつ、より体系的で哲学的なアプローチを取る。シュルレアリズムの目標は、無意識の探求を通じて現実の新たな次元を発見することだった。
シュルレアリズムの特徴的な技法には、自動記述や夢の描写がある。これらは、理性を超えた無意識の領域から直接インスピレーションを得る方法だ。サルバドール・ダリの「記憶の固執」(1931年)は、溶ける時計のイメージを通じて時間と現実の不確かさを視覚化した。また、ルネ・マグリットの作品「これはパイプではない」(1929年)は、言葉と物体の関係性を問いかけることで、認識のプロセスそのものを批判した。
彼らは、夢や幻想を通じて無意識を探求し、現実と非現実の境界を曖昧にした。彼らは、自由連想、夢のイメージ、そして非合理的な表現を用いて、新たな芸術的表現を追求した。
両者ともに伝統的な芸術と社会規範に対する反発から生まれたが、その方法と目的には違いがある。ダダは無秩序と無意味さを強調し、偶然性や非理性的な表現を重視した。一方、シュルレアリズムは無意識の探求を通じて新たな現実を見つけることを目指し、夢や幻覚のイメージを積極的に取り入れた。
ダダの代表的の作品は、現代アートにおけるコンセプチュアル・アートやパフォーマンス・アートに大きな影響を与えた。特にデュシャンのレディメイドは、物の価値や芸術の定義を根本から問い直すきっかけとなった。
シュルレアリズムの代表的の作品は、現代の視覚文化や広告デザインにまで影響を与え、夢や無意識の世界を探求することで新たな表現の可能性を広げた。
ダダとシュルレアリズムは、20世紀の芸術において革新的な役割を果たした。戦争の混乱と不条理に対する反発から生まれたこれらの運動は、伝統的な価値観を覆した。ダダは偶然性と無意味さを重視し、シュルレアリズムは無意識の探求を通じて現実を再定義したことに意義があると考察する。
参考文献
・水野千依.西洋の芸術史 造形篇Ⅱ 盛期ルネサンスから十九世紀末まで.藝術学舎,2013,250p.芸術教養シリーズ,6.
・林洋子.近現代の芸術史 造形篇Ⅰ 欧米のモダニズムとその後の運動.藝術学舎,2013,209p.芸術教養シリーズ,7.
・森山直人.近現代の芸術史 文学上演篇Ⅰ 20世紀の文学・舞台芸術.藝術学舎,2014,217p.芸術教養シリーズ,15.