ひとつ、いいだろうかっ!?
「それで、その金塊を牢獄に入る前に知り合った宝石商に売り渡してですね」
今、牢獄挟んだか!?
さらっと!
とジェラルドは心の中で絶叫していた。
「そういえば、さっきの砂金の川の話も牢獄で聞いたんですけど」
そこで、ハルモニアはこちらの表情に気づいたのか、教えてくれる。
「あ、牢獄ですか?
いろいろ適当な予言してたら、民衆を惑わすものとして、牢屋にぶち込まれたんです」
お前だったのか、噂の怪しい予言者はっ。
あの女神像を作った一族の男とともに牢屋に放り込まれたとかいうっ。
そんな風に弾きつつ、語りつつ、周囲にまで気を配れるのはすごいと思うし。
上に立つ者の素質はあると思うが。
話の内容に問題がありすぎて、この娘を妃候補にしておいて大丈夫かと不安になる。
「そうだ。
この船は牢獄が縁でもらったようなものなんですよ」
待て。
その話も気になるが、何故、牢獄に入ったのか、そのくだりをもう少しっ、と言いたくなる気持ちをジェラルドは、ぐっと堪える。
口を開いてしまったら、その瞬間、この美しいがとんでもない娘が側室妃になってしまうからだ。
誰だ。
こんなロクでもない決まりを作ったのはっ、と思ったが。
宰相にそんな決まりを作らせてしまったのは、自分のせいだ。
「この帆船、昔、世界に名を馳せたという大海賊、ゼリウスが隠してたものらしいんですが」
そいつは、未だに世界中でお尋ね者になっている奴だが。
「牢名主さまに言われて行った、『大海賊』っていう居酒屋の店主がもういらないからとくれました」
私もよくお忍びで行ってる居酒屋っ。
気さくで気のいい、働き者の店主は女性の胴くらいありそうな太い腕をしているのだが。
その腕には大海賊、ゼリウスがしていると噂のイカリとドクロを組み合わせた刺青がある。
……ゼリウスの真似をしているのだといつも笑っていたが。
まさか、ホンモノだったのかっ!?
街の子どもたちもよく伝説の大海賊ゼリウスの真似をしているから、その延長くらいに考えていた。
娘は、ポロポロとハープを軽やかに奏でている。
目を閉じ、曲に入り込むように弾いているその姿は女神のように美しい。
だが、ひとついいだろうか、娘よ。
お前の話とこの儚げな曲がまったく合っていないのだがっ。
ああ、突っ込まずにいられないっ!
若いのに、常に落ち着いていて威厳がある、と侵略した土地の民からも崇拝される偉大なる王、ジェラルドは森のケモノのように、ウロウロ甲板を歩き回りはじめる。