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捧げられしハルモニアと無口な王様  ~この国を救うため、私、正妃になりますっ~  作者: 菱沼あゆ
捧げられし王様

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三つの願い

 


「と、ともかく、ザラス様の軍とジャスランの軍を止めましょう」


 ハルモニアはジェラルドにそう言った。


「私が知らせてこよう」

とドラゴンが言う。


「ただ、それで、三つ目の願いになるが」


 ドラゴンは金色の大きな目でハルモニアを見下ろしている。


「……仕方ないです。

 よろしくお願いいたします」

とハルモニアは頭を下げた。


「なんだ、三つ目の願いって」

と問うジェラルドをハルモニアは、


「ともかく、今は、それぞれの進軍を止めるのが先です」

と遮る。


 そこにドリシアがやってきた。


「あっ、いいところに、ドリシア様っ。

 女神像の呪いで、兵をなぎ倒してくださいっ」


「いやそれ、私が言った呪いじゃないからなっ。

 あと、呪いじゃなくて、予言だぞっ」

とドリシアは反論してくる。


「そもそも、このドラゴンに炎を吐かせれば、何処の兵たちも驚愕し、止まるのではないか?」


 そうドリシアは言う。


「でも私、今、三つの願い、使い切ってしまいましたが……」


「なにっ?

 三つしか叶えられないとかセコイこと言ったのか、このドラゴンッ」


 セコイとはなんだ、という目でドラゴンはドリシアを見下ろしていたが、ひとひねりにしたりはしなかった。


 ハルモニアは、はた、と気づいたように言う。


「……そういえば、三つドラゴンの力を使ったら、という約束はしましたが。

 三つ以上使ってはいけないとは言われなかったですね。


 こうなったら、三つも四つも一緒ですよねっ」


「ニンゲン、欲深いな……」

と頭の上でドラゴンは呟いている。


「まあいい。

 確かに、三つも四つも一緒だ」

とドラゴンは天高く飛び上がると、それぞれの軍を威嚇し――


 いや、メカリヤとルーガリアは威嚇しなくてよかったのだが、


 天に向かって、火山のように火を吹いた。


 驚き、おののいたサマーンの軍は無事去っていった。


 以後、カンターメンは神獣ドラゴンに守られた国だ、という評判が広まり、安易に攻め入ってくる国はなくなった。




「ドラゴンさえも言いくるめるとは――


 私を言いくるめるのなんてチョロいもんだろう、ハルモニア」


「なにいきなり嫌味を言ってくるんですか」


 それにドラゴン、言いくるめられてません、とハルモニアはジェラルドに言う。


 え? とジェラルドはハルモニアを見た。


「どういう意味だ?」


「実は、私、幼き折、ドラゴンの力を三つ使ったら、彼の妻となる約束をしていたらしいのです」


「らしいのですってなんだ。

 お前たち親子は似ておるな」


 安易な契約を結ぶなっ、とジェラルドに怒られる。


「案ずるな、ハルモニアよ」

と頭の上からドラゴンの声がする。


「お前のためなら、お前好みの美しい凛々しい男になってみせよう」


 ドラゴンは人間に変化(へんげ)した。


「……おやおや」

と自分で変化しておいて、ドラゴンは笑う。


「これはジェラルド王にそっくりではないかっ」


「何故なんでしょうね」

と二人のジェラルドを見ながら、ハルモニアは言う。


「何故ってな……」

と横でデュモンが苦笑いしていた。


「……私は、ほんとうに王様を愛しているのでしょうかね?」


 もう女神像はないし、正妃にはならなくてもいいのですが、と思わず言って、


 おい、とジェラルドに睨まれる。


「ハルモニアよ。

 お前は王とともに、ここにいたいのだな。


 まあ、無理強いはすまい」

とあっさりドラゴンは言う。


「人の心は移りゆくもの。

 お前がジェラルド王に飽きたら、お前を貰い受けに来よう。


 三ヶ月後くらいだろうかな」


 早すぎです。


「では、三年後だろうか」


「このドラゴン、なかなか人の心を熟知しているな」

とジャスランが呟いていた。


 三ヶ月とか、三年で、恋人同士の間に亀裂が入りやすいようだった。


「いいだろう、ドラゴンよっ」

と言ったのは、ジェラルドではなく、ザラスだった。


「次にお前がここに来るとき、お前はジェラルドではなく、私に変化(へんげ)することとなるだろうっ」


「なんだとっ!?

 いやいや、私に変化することとなるだろうっ」

とスタンが割って入り、言いかえた。


「ハルモニア」


 ザラスたちが揉めている中、ジェラルドがハルモニアに歩み寄る。


「お前の国のドラゴンに助けられた。

 今度は、こちらが借りができてしまったな」


「いえ、そんな……」


「お前は国の建て直しと引き換えに、私に捧げられてきたが。

 借りができたので、お前を返さねばならないだろうか?」


「えっ?」


 私に帰れと言うのですかっ。


 ちょっぴり、王様のこと好きかもと自覚したところでしたのにっ、と思うハルモニアに笑って、ジェラルドは言う。


「では、今度は私がお前に捧げられよう。


 一生、お前を大切にする――。


 お前が、なに不自由なく、愛ある人生を送れるよう。


 私の一生をお前に捧げよう」


 カンターメンからの贈り物だ、とジェラルドはハルモニアの頬に口づけた。


 離れたあと、

「いらないとか言うでないぞ」

と照れながら、軽く睨んで見せるジェラルドにハルモニアは笑う。




 三ヶ月後、ドラゴンはやってきて。


 三年後にもやってきた。


 それに合わせ、女神像の代わりに、クレインが作ったドラゴン像の除幕式が行われることになっていた。


 女神像とは違い、実際のドラゴンの大きさに即した、常識的な大きさの像だ。


 街の中心にある広場では屋台が出たり、大きな火が焚かれたりしていた。


 ドラゴンが広場に舞い降りる。


 像にかけられた白い巨大な布を左右からつかんで、剥がすのだ。


 片側を王、ジェラルドが持っている。


 ドラゴンはハルモニアに(うなが)され、変化した。


 民たちがどよめく。


 ドラゴンはジェラルドと反対側に人の姿で立ち、布をつかんだ。


 二人のジェラルドが同時に布を外す。


 街を守った猛々しいドラゴンの像に人々は歓喜する。


 みなが酒を手にし、祭りがはじまった。


 ドラゴンの方のジェラルドがハルモニアに言う。


「なんだ、まだお前はこの男が好きなのか」


 ハルモニアは苦笑いし、ジェラルドは青ざめた顔のまま呟く。


「……よかった」


 その側でザラスたちは、

「次こそはっ」

と決意を新たにしながら、呑んでいた。




 夜明けが近くなり、


「楽しい祭りであった。

 また来ようっ」

と大きな翼で飛び立つドラゴンに向かい、ジェラルドが叫んでいた。


「次はもう変化はしてみなくていいからなーっ」


 みなが笑う。


 子どもたちが眠い目をこすり、人々が帰路につく中。


 彼らの足元を温かく照らすのは、街中に立ち並ぶ像だった。


 それは、ランプを掲げ持つ、正妃、ハルモニアの像――。




                                   完



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