嵐を呼ぶ姫
「王様っ、ドラゴンが女神像を襲っていますっ」
「なにっ?」
会議中入った知らせに、ジェラルドは慌てて立ち上がったが。
「……いや、よく考えたら、まあいいか」
と呟く。
まあよくないっ、とドリシアが同席していたら、叫んでいただろうが。
薔薇園でお茶をしていたのでいなかった。
「……待てよ、ドラゴン?」
「はい。
ドラゴンには最初、ハルモニア様が乗っていらしたのですが。
『私が乗ったまま女神像を破壊したら、私のせいになるではないですかっ』
と騒いで降ろしてもらっていました」
「そうか……。
まあ、無事に帰ってきてなにより」
ハルモニアやドラゴンが思っているより、ジェラルドたちはあの女神像を疎ましく思っていたので、兵は出動しなかった。
だが、王はハルモニア会いたさに、
『ドラゴンがやってきたという非常事態』を盾に会議を中断し、街へと急いだ。
「王様ーっ」
「ハルモニアッ」
愛しのハルモニアが駆け寄ってくるので、走り寄り、抱きしめようとしたが、ハルモニアは言った。
「王様っ。
砂漠の向こうの民、サマーンが攻め入ってこようとしていますっ」
「なにっ?」
「ちなみに、ルーガリアとメカリヤの軍もこちらに向かってくるらしいです」
「何故、突然、周辺国から包囲されてるんだっ」
「いやいやいや、ルーガリアとメカリヤの軍は味方です、たぶん」
「たぶんっ!?」
そこに将軍が飛んできて言う。
「わかりました、王よっ。
近くの山裾にザラス王子が待機させていたメカリヤの軍が潜んでいたせいで、我が国を偵察していたサマーンは、メカリヤが我が国に攻め込むと思い込み、
その機に乗じて、自分たちも攻め込もうと軍を派遣した模様です」
「ザラス~っ!」
「……まずいですね。
ザラス様に軍を動かさないように言わなければ」
「そもそも何故、ザラスはメカリヤ軍を潜ませていたのだっ」
将軍が言う。
「兵に聞いてきたところによりますと、ハルモニア姫を取り返すのに、なにが起こるかわからないからと」
「……巡り巡って、お前のせいか~。
ほんとうにお前は嵐を呼ぶな」
そうジェラルトが言うと、ハルモニアは、
「ほんとですねー。
すみません。
どうされます?
離縁されます?」
としれっと訊いてくる。
「お前は私と離縁していいのかっ」
ハルモニアは小首をかしげて言う。
「改めて、そう問われると、よくわからないですね……。
国のためにここまで来ましたけど。
今となっては、積極的に帰りたいわけでもないような」
「それは私を愛しているということか、ハルモニアッ」
「すみません、王様っ。
愛を確かめ合うのは、後にしてくださいっ。
あとそれ、ほんとうに愛なんですかねっ?
のちのち、よくご確認をっ」
と妻のことで苦労している将軍は、この騒ぎの中でも忠告しつつ叫ぶ。




