住まいがないっ!
急いで王様に会うと言っても、お金がないから、賄賂も付け届けも無理だしなあ。
第一、ドレスだって、宝石だってない。
飾って誤魔化す花もここにはないし。
そんなことを考えているハルモニアに、コルヌが言う。
「優先的に王の寝所にはべれるよう、手筈を整えて差し上げてもよろしいのですが。
それには、やはり、それなりの身支度を整えていただかないと」
――やっぱりそうなのか。
「と言いますか。
あなたを王のもとに送るのはできるだけ後にしたかったのですが」
おい、使者……。
「そんな私情を挟まないで申し上げるならば。
シルクのドレスは必須です。
そして、宝石などの装身具で、その艶やかな髪や肌を色鮮やかに、そして、上品に飾っていただかねば」
「鮮やかな鳥の羽根とか拾って差したのでは駄目でしょうかね」
「鳥臭くなるでしょう」
「……側室妃にもなれそうにないな、この娘」
とクレインにも言われる。
コルヌは溜息をついて言った。
「私には、そのような物は用意して差し上げられませんしね。
そういえば、到着して二、三日は仮の宿舎のようなものがあるのですが。
大抵の方はすぐに出て行かれますよ」
みな、自由に過ごしたいらしく。
自分で豪奢な屋敷を用意し、移り住んでいくらしい。
「宿舎には、二、三日しかいられないということですか?」
「まあ、それ以上、いらっしゃる方はいないですね」
野宿かっ。
野宿しかないのかっ。
ハルモニアはチラと酒場を見た。
いや、酒場で働いたりしたら、王様に目通りが叶う日は永遠に来ない気がする。
「まあ、ハルモニア様でしたら、焦らずとも、いずれ側室妃にはなられるでしょうから。
それまでのことだとは思いますが」
この国では王に捧げられた娘はとりあえず、側室に振り分けられる。
そして、王のご寵愛があると、側室妃と呼ばれ、その中から正妃が選ばれるらしい。
正妃まではいかずとも、側室妃ともなれば、住まいの心配などはいらないようだった。
どうしたもんだろうかな、とハルモニアは悩む。
王様にお会いして、側室妃に取り立ててもらわねば、住まいがないのに。
お金がないので、王様に会うための支度ができないというこの矛盾っ。
「うちに泊まっていただいてもいいのですが。
ハルモニア様の滞在地がうちのような身分のあまり高くない貴族の家では、ハルモニア様の格が下がってしまいますしね」
いや、野宿よりはいい気がするのですが……。
というか、私だけでなく、数は少ないですが、ついてきた従者たちもみな、野宿になってしまうのですが。
かと言って、コルヌに迷惑をかけるのも悪い気がする、とハルモニアはまた悩む。
「まあ、仕方ありませんね。
とりあえず、身支度を整えるために必要な物を熟知している宝石商がいますので。
ご紹介いたしましょう」
そうコルヌは言ってくれた。