ドラゴンの提案
「なんか、みんなカンターメンに攻め入ろうとしてますけど、ハルモニア様」
とコルヌがハルモニアに呼びかける。
ハルモニアは首を捻り、
「でも、運ぶの大変そうねえ」
と呟いていた。
「いや、簡単なことではないか、ハルモニア」
今度は、何処から声がした? とみなは周囲を見回す。
「私が運べば良いのだよ」
声を発していたのは、ドラゴンだった。
巨大なドラゴンが上から話しかけていたのだ。
「でも――」
とハルモニアはちょっと困り顔だ。
「そうだな。
三回私の力を使ったら――。
約束だぞ、ハルモニア」
「すごいイケメン声だな、このドラゴン」
と上を見上げ、ジャスランは呟く。
「このドラゴンは喋れるのか」
とハルモニアにジャスランが訊くと、
「はあ。
このドラゴン、私がお世話してたんですけどね。
カンターメンに行くことになり、世話するものがいなくなるので、心配していたのですが。
いいから、とりあえず行けと、みなに押し切られてしまって」
と困ったようにハルモニアは言う。
「お前の小さな弟は世話が下手だ。
だからお前を追ってきたのだ」
ああ、とコルヌが呟いた。
「あのとき、ハルモニア様が心配してらしたのは、このドラゴンのことだったのですね」
そこでコルヌは小首をかしげ、
「でも、こんなモノを飼ってらしたのなら、これを売れば、ハルモニア様が嫁に行かれなくてもよかったのでは?」
と王に殴られそうなことを言う。
いや、コルヌに殴りかかりそうなのは、ジェラルド王だけではなかった。
「無礼な。
私はあの国の守り神だぞ」
ボッ、とドラゴンは小さく炎を吐いて見せ、ひっとコルヌが逃げる。
「ハルモニアよ。
お前があの国にこだわるのが、女神像のせいなら。
こやつらの力を借りるまでもない。
私が行って、ボキッともいで持ってこよう」
果実かなにかをとってくるかのように簡単にドラゴンは言う。
「それは助かるんですけど。
でもあの……」
ハルモニアがまだ話しているうちに、ドラゴンは上空へ飛び上がっていた。
そのまま遠くを見ていたようだが。
「おや?
カンターメンに攻め入ろうとしている一団がいるぞ」
と教えてくる。
「えっ?」
まだ我々は出発していないが、とみなは顔を見合わせていた。
「西の砂漠の向こうの民族だな、あれは。
カンターメンの王都は、まだ気づいていないようで、みな、のんびりしているように見える」
コルヌが、
「しまったっ。
あの辺りの国々は最近、友好的だったから。
罠だったのかっ」
と悔しがる。
「王にお知らせせねばっ」
「さて、間に合うかな、人間の足で。
ハルモニア」
と決断を促すように、ドラゴンはハルモニアの名を呼んだ。
ハルモニアは少し考え、
「わかりました。
では、女神像をもいで来てください」
とドラゴンに命じた。
ドラゴンは笑い、
「相変わらず、お前は賢いな」
とハルモニアに言った。
「王に知らせを送ることと、女神像を持ってくること。
二つも願いごとを言うと、さっき、山火事を消したこととで、三つになってしまうからな。
そうだな。
私が行き、女神像をとって来ようとするだけで、カンターメンの軍は出動するだろう。
王にわざわざ、敵襲を知らせずとも。
軍が街中に出ていれば、到着した敵は、待ち構えていたのかと警戒するだろうよ。
よし。
お前の知恵に免じて、おまけだ。
ハルモニア。
お前をカンターメンまで連れていってやろう」
と言うや否や、ドラゴンは舞い降り、ハルモニアを背に乗せると、カンターメンに向かって飛んでいってしまった。
「ハルモニアーッ!」
と愛する娘を連れ去られたスタンが叫ぶ。
ジャスランも急いで言った。
「兄者っ。
兵をカンターメンにっ」
「わかったっ。
ハルモニアを取り戻して守るのだなっ」
「あの娘は、大抵の場合、放っておいても大丈夫ですっ。
今こそ、カンターメンに手を貸し、こちらに有利な条件で、国交を結ぶのですっ」
「むむむ。
仕方がないですね。
では、こちらへ」
とコルヌが誘導しようとしたときには、ザラス王子はもう出発してしまっていた。
「一番乗りは我が国だーっ!
そして、ハルモニアを手に入れるのは、私だっ!」
「おのれ、ザラス王子めっ。
皆のものっ、ザラスを追えっ!」
とジャスラン率いるルーガリアの軍も怒涛の進軍を見せる。




