そこに気づいてしまったか
兄たちはそれぞれの母に似て、みな美しい。
そんな美丈夫な兄のひとり、スタンには、今まで浮いた噂のひとつもなかったのだが。
困ったことに、あのハルモニアに熱を上げているようだった。
今まで生真面目に生きてきたから、女性に免疫がなく、より熱くなってしまっているのだろうかな。
そう冷静に分析しながら、ジャスランは騒ぐ兄を眺めていた。
だが、兄の主張は思ったより、冷静だった。
「私はハルモニアに惹かれているがっ。
それ以上に国民がハルモニアに惹かれているっ。
誰かがハルモニアと結婚して、彼女をこの国に引き止めなければ、国民はみな、ハルモニアについて、カンターメンにいってしまうかもしれないっ」
「何処かの国の笛吹きみたいですね……」
とジャスランの横で、コルヌが呟く。
「ハルモニアよっ。
私と結婚せぬのなら、カンターメンの街に攻め入ろうぞっ」
「いや、それはちょっと……」
とハルモニアは苦笑いしている。
「なんだ、その半笑いは。
信じぬのかっ。
私は今すぐ、街に攻め入り、破壊してくるぞっ」
だが、そこで、ハルモニアは、はっとした顔をした。
「わかりましたっ。
今すぐカンターメンの王都に攻め入ってくださいっ」
「なにっ?」
「そして、あの街の象徴である女神像を破壊してください。
バラバラになったら、女神像であったかわからなくなりますので、なにひとつ欠けることなく、そーっと女神像を台座から外し、持ち上げて、この安全な山の中まで運んできてください」
「いやそれ、破壊じゃなくて、解体だろ」
なに、うちの兄貴をいいように使おうとしてるんだ、
とジャスランは言った。
カンターメンの者があの像を撤去すると、確かに厄介なことになりそうだが。
他国の者が持ち去るのなら、国内的には問題ない。
……が、外交的には大問題だろっ。
「わかったっ、ハルモニアッ。
女神像を運んでくればよいのだなっ」
「待て、兄者っ。
兄者はハルモニアにいいように使われているだけだっ」
「ああでも」
とコルヌが口を挟んだ。
「ハルモニア様はあの女神像を撤去したくて、王の正妃になろうとしていたのですよね?
女神像が無事撤去されれば、王の妃でいる必要はないのでは?」
なに余計なことに気づいてるんだ、と思ったときには、兄は決意を新たに叫んでいた。
「わかったっ。
女神像を持ってくるっ」
だが、そこに、もうひとつの声が割り込んできた。
「待てっ。
王都に攻め入り、女神像を奪ってくるのは私だっ。
ハルモニア姫の真の夫は私だからなっ」
「……来たのか」
めんどくさい奴が来た、とジャスランはザラス王子を見る。




