とりあえず、いただこうっ!
「ともかく、ハルモニア姫は私がいただこうっ」
ザラスはハルモニアをひょいと腕に抱えると、そのまま庭に駆け出していった。
「待てっ。
追えっ、皆の者っ」
慌ててジェラルドは衛兵達と眩しい庭に出る。
その瞬間、きゃあああっ、とハルモニアのものらしき悲鳴が花咲き乱れる庭園に響き渡った。
「ハルモニアーッ!」
とザラスの声が聞こえてくる。
薔薇の茂みの向こうから、ザラスが駆け戻ってきた。
「ハルモニア姫がさらわれたーっ!」
「いや、お前、今、連れて出てったばかりだろーっ!」
とジェラルドは叫ぶ。
「っていうか、ハルモニアが連れ去られるとかあるか?」
と遅れて現れたデュモンが疑問を呈す。
その横ではドリシアが、
「自作自演なのでは?」
と呟いていた。
「いやっ、庭に出た私たちの上に、大きな影が被さってきたんだっ。
上を見上げる間もなく、巨大なドラゴンが空から舞い降りっ。
尖った爪のある脚でハルモニアをガッとつかむと、そのまま飛んでいってしまったんだっ!」
えっ?
ドラゴン……?
唐突なドラゴンの出現に、みな、ぼんやり空を見上げていた。
「ほんとうにいるのか、ドラゴンって……」
とジェラルドが呟くと、
「そういえば、何処かの山の中で見たとゼリウスが言ってたな」
とジャスランが言い、
「……海賊なのに?」
とコルヌが突っ込んでいた。
いや、海賊だって、山にも行くだろうよ、とジェラルドは思う。
「ともかく、追いましょうか」
「いや、どうやって」
と揉めている男たちに、イラッと来たらしいドリシアが叫ぶ。
「今すぐ、近隣の国々に、空飛ぶ巨大な影を見た者は報告しろと命じよっ。
なんのために、普段、諸外国に睨みを効かせておるのだ、ジェラルドッ!」
「す、すみません、義母上……」
とジェラルドは謝ったあとで、
「突然のドラゴンについていけなかったのと。
……なんかハルモニアだと大丈夫そうだな、と思ってしまって」
と本音を吐露する。
ドリシアは渋い顔をしながらも、
「まあ、そうやもしれぬな」
と認めた。
「とりあえず、私の像の上に見張りがいるだろう。
ドラゴンがどちらに飛んでいったか、報告させよ。
ジェラルド。
王たる者、常に行動は的確に素早くだ。
お前がふぬけだと評判が立って、カンターメンに何処かの国が攻め入ってきたりしたら、私の優雅な隠遁生活がおじゃんになるではないかっ」
いや、あなた、まったく隠遁してないじゃないですか……とは、さすがにそこでは突っ込まなかった。




