ザラス王子の諸事情
ハルモニアたちはみんなで、ザラスのいる大食堂に向かった。
廊下を歩いていると、ザラスがドリシアに向かい、話しているのが聞こえてくる。
ハリのあるよく通る声だからだろう。
国民の前に立ち、話すことが多いからか。
王族の人間は、こういう発声の人が多い気がする、とハルモニアは思った。
「そうなのですよ、ドリシア様。
そろそろしかるべき家から姫をもらい結婚しろと言われて、鬱陶しかったので。
それならとりあえず、結婚しようと思いまして。
そこで思い出したわけです。
おおそうだ。
あの契約があったと!」
……お前、忘れられていたのか、という顔をジェラルドがし、
そのまま忘れていてくださればよかったのに、という顔をハルモニアがした。
父王は、特産品とともに、娘をメカリヤ王国に捧げる契約をしていた。
まあ、特産品のついでに並んでいたので、誰も気づかなかったのかもしれないが。
お父様も前の宰相様も、確認、ザルだからな、とハルモニアは渋い顔をする。
「ですが、今、ハルモニア姫がこちらの国で幸せにやっているのなら、私は諦めてもいいかなと思っているのです」
えっ? とハルモニアはジェラルドと二人、顔を見合わせる。
「ハルモニア姫は国が貧乏なので、大国カンターメンに売り払われたと聞いたので。
それなら、私が助けて差し上げようと思っていたのもあるのです。
ですから、その必要がないのなら、このお話、なしにしてもいいかと」
なんだ、ただのいい人ではないか、と二人は、ホッとしていた。
「そもそも、ハルモニア姫が私の好みかどうかもわかりませんしね。
肖像画はお国にありましたが。
小さいときのしかないのも不思議ですし」
それは絵師に描かせるお金がなかったからですよ。
「小さなとき、愛らしかったからと言って、今どうかはわかりませんし。
肖像画なら、どのようにでも描けますしね。
ここはひとつ、カンターメンに恩を売って帰るとしましょうか」
「ザラス様、王とハルモニア姫が――」
好みの男前を前にご機嫌のドリシアと話していたザラスは、コルヌの呼びかけにこちらを振り向いた。
立ち上がり、ハルモニアたちの許にやってくる。
ザラスはジェラルドに軽く挨拶をし、ハルモニアの前に跪いた。
ハルモニアの手をとり、その甲に口づけて言う。
「麗しのハルモニア姫。
わかりました。
私がカンターメンの王に恩を売られましょう」
……はい?
立ち上がったザラスはジェラルドに宣言した。
「契約通り、ハルモニア姫は私がもらい受けましょう。
ジェラルド王には代わりになにか貢ぎ物を」
「待て待てっ」
お前、さっき言ってたことと、全然違うじゃないか、とジェラルドが慌てる。




