誰のせいかと問われたら……
「ジャスラン、何故、ここに」
コルヌは小声でジャスランに問う。
「いや、せっかくシャバに出たから、普通の居酒屋に来てみようかと思って。
その辺にいたおばさんに何処がいいか訊いたら、ここが一番美味いと店の前まで案内してくれた」
……そりゃ、この男前に訊かれたら、店の前まで連れてくるかもな、とコルヌは思った。
そんなジャスランを見て鷹揚な口調でザラスが言う。
「お前も王宮の人間だな。
見ればわかる」
いや、牢獄の人間ですけど。
「なにやら品があるからな。
お前は何者だ」
「私は参謀だ」
「王のか」
いや、牢名主のです、と思ったが、舐められないよう、二人とも言わなかった。
まあ、牢名主の参謀の方がなにげにすごい気もするのだが。
「ザラス王子よ。
お前がハルモニアの夫というのは、ほんとうなのか」
「間違いない。
ここに契約書もある」
……契約書?
婚姻届ではなく?
とコルヌとジャスランは身を乗り出した。
二人とも、メカリヤの言葉が読めた。
「あ~……」
と声にならない声を上げる。
翌朝、コルヌは王のもとを訪ねていた。
「王様、王様。
ハルモニア様と熱い夜を過ごされたところ、申し訳ございません」
「……余計なことを言いながら、来なくてよい。
入れ」
ジェラルドもハルモニアもすでに身支度を整え、バルコニーに出て、二人静かに朝食を食べていたようだ。
大食堂の方にはドリシアたちがいたようなので、それでかもしれないが。
「ハルモニア様の夫、メカリヤ王国のザラス第二王子をお連れしました」
「なんだとっ?」
「王宮に連れてきた途端、ドリシア様が聞きつけていらっしゃって、大食堂に連れていってしまわれましたよ。
もうあの方に押し付けたらどうですか? ザラス王子」
「いやいやいやっ。
そもそも、何故、そいつを王宮に連れてくるっ!?」
「失礼」
とそこにジャスランも現れた。
今日は王宮に来たせいか、ちゃんとした貴族っぽい格好をしている。
そうしていると、確かに、王族にも見劣りしない雰囲気があった。
ま、牢名主の参謀なのだが……。
というか、牢にいた以上、なんらかの犯罪者なのだが。
「王よ。
あの男は間違いなく、ハルモニアの夫なのだ。
ハルモニア、お前の父親、メカリヤ語はわかるのか」
「わ、私はわかりますけど。
父はあまり……」
まさか、と察しのいいハルモニアが慌てる。
そう。
なにもかも掠め取られる人の良いハルモニアの父は、娘も掠め取られていたのだ。




