コルヌ、居酒屋にて
ようやく帰れたな~。
まあ、ハルモニア様との旅は面白いが、いろいろハードだから。
そんなことを思いながら、コルヌは馴染みの居酒屋に来ていた。
宮廷もいいが、ここは落ち着く。
居酒屋の中では、貴族も平民もない。
みんな仕事の憂さを晴らそうとするように、陽気に呑んでいた。
一杯呑んで、ふう、と息をついたとき、片隅で静かに呑んでいる一団に気がついた。
一番奥に座っている男に見覚えがある気がする。
見覚え……。
違うな。
『何処かで聞いたようなような男』なのだ。
ジャスランくらいの髪の長さで、デュモンのような巻き髪の。
座っていてもわかる素晴らしい長身で、立派な体躯をした黒髪の男。
……そして、高貴な顔立ちをしている。
「あっ」
思わず、コルヌは声を上げていた。
その男と側にいた男がこちらを見る。
慌てて視線をそらした。
あれはもしや、ハルモニア様が追い抜いてしまった、ハルモニア様の夫とやらの一団ではっ?
男は、すっと立ち上がり、こちらに来た。
自分のテーブルの前に立たれても知らぬフリをしようとしたが、圧がすごく無理だった。
「お前は王宮の人間か?」
ジェラルドと同じ人種だとわかる、人の上に立つ者特有のよく通る声。
だが、コルヌは思わず、
「えっ? はっ?」
と訊き返していた。
聞き取れなかったのではない。
何故、自分が王宮の人間だとわかるのだ、と思ったのだ。
こんな居酒屋にそれらしい物など身につけてきてはいないはずなのに。
「お前は身のこなしが周りの者と違ったので、入ったときから目をつけていた」
すごい観察眼だな……。
「あとこちらを窺い、まずいものを見たという顔をしただろう。
もう話がこちらまで届いているのだな」
話が届いてるっていうか。
ハルモニア様自ら、その話と話をしていた人物を届けてきたんですけどね。
そう思いながら黙っているコルヌのテーブルに手を置き、男はいう。
「私はメカリヤ王国のザラス第二王子だ」
ひっ、メカリヤの王族っ。
メカリヤは砂漠地帯の近くにある、交易と戦闘で、近年力を増している国だ。
そういえば、マントの袖からは大きな緑の宝石のついた金の腕輪が覗いている。
「我が妻、ハルモニアがこの国に連れ去られたと聞いたので、追いかけてきたのだ。
長い道のりだった」
ハルモニア様は御者を褒美の酒で、馬を餌で釣りながら、道なき道を走らせて、一瞬で着いてましたけどね……。
「今から、ハルモニア姫を奪還しに城に行こうと思うのだが。
お前、案内せよ」
そんな案内したら、殺されますけどっ?
と思ったとき、ぽん、と後ろから肩を叩いたものがいた。
ジャスランだった。
藁にもすがる思いで、ジャスランを見つめる。




