帰ってきましたっ
「ハルモニアから手紙が来ぬが」
「き、昨日届いたばかりですよ、王様」
ジェラルドは、呼び出したハンナに、そんなふうに諌められていた。
そのとき、
「ハルモニア様ご一向が王宮の門を通過されたようですっ」
と慌てたように衛兵がやってきた。
そうかっ、とジェラルドは急いで門に向かう。
王宮の一番外側の門だ。
その辺りは業者なども入るので、馬車で入ってもよいことになっている。
お付きの者や衛兵たちを引き連れ、ジェラルドは門の前の広場に出た。
屋根のない馬車がゆっくりこちらに向かってくるのが見える。
馬車は砂埃舞う荒れ地を走ってきたことを窺わせる、汚れ方をしていた。
「王様っ」
とハルモニアが身を乗り出し、手を振ってくる。
――おおっ。
我が愛しき妃、ハルモニアよっ。
離れていたせいか、より愛らしく見えるなっ。
お前の後ろにいる荒くれ者たちが、出かけたときより増えている気がするのが、ちょっと気になるが。
ハルモニアは、こちらに戻ってくる間にも立ち寄った食堂などで仲間を増やしていた。
「ジェラルドッ」
うわっ、とジェラルドは声を上げた。
「この小娘とは離縁なさいっ」
頭から無地の茶色い布を被った女が止まった馬車の上で立ち上がる。
顔は見えずとも、その声で誰だかわかった。
幼きころから、ついこの間まで、自分を怒鳴りつけていた声だ。
――何故、元正妃を連れて帰ってくるっ!?
そう惑う間もなく、元正妃、ドリシアは昔の勢いのまま叫び出す。
「この娘は戦を呼びますっ。
今すぐ離縁するのですっ」
「嫌ですっ」
ジェラルドは、初めて、この形式上の母親に逆らった。
「私はもうハルモニアなしでは生きてはいけないのですっ」
ハルモニアを振り返り、ドリシアが訊く。
「なにか怪しい薬でも飲ませたのか、ハルモニア?
この浮いた噂のひとつもないつまらぬ男がお前にメロメロではないか」
「何故、普通に私にメロメロだとは思わないのです」
……仲良しだな。
二人で結託して私を倒しにこないだろうかとジェラルドは不安に思う。
「ジェラルド!
黒髪の美しく、猛々しい男が来ただろう。
自分はハルモニアの夫だと言って!」
そう言うドリシアにみな、顔を見合わせる。
「……いいえ」
それを聞いたドリシアがハルモニアに言っていた。
「もしや、お前をとられると思って、すでにジェラルドが始末したのでは?」
「王様はおやさしいから、そんなことなさいませんよ~」
とハルモニアは笑っている。
だから、仲良いな、お前たち……。
実は、ハルモニアたちの進みが早く、その怪しいハルモニアの夫を追い越してしまっていたのだ。




