その人は誰なんですか
「私の夫とはどのような方なのですか?」
そうハルモニアはドリシアに問うた。
「お前の事なのに知らぬのか」
「はあ、ジェラルド様以外の夫に心当たりはありませんが」
「そうか。
では、妄想癖のある男だったのやもしれぬな」
と小首を傾げながら、ドリシアは言う。
「だが、妄想癖のあるおかしな男にしては、やけに堂々としていたな。
素晴らしい長身で、立派な体躯をした黒髪の男だ。
私がもうちょっと若ければ私の伴侶に選んでいたところだ」
「いや、まだ今からでも充分いけますよ」
「いやいや、お前、口が上手いのう。
ジェラルドにはもったいない嫁だ」
「いやいや、そんな」
「……なんなんだ、こいつら」
とジャスランが後ろで呟いていた。
「それにしても、ドリシア様。
ここは変わった街ですね」
振り返り、穴だらけの街を見下ろして、ハルモニアは言う。
「うむ。
だが、洞窟の中は快適だ。
この土地に適した住まいとなっておる。
このような洞窟型の住まいは他にもあちこちあるらしいぞ。
そこから流れ着いた者たちがここに洞窟の家を作ったのか。
こういう地形に合わせると、何処もこんな感じの家になるのかはわからぬが。
地下にも穴が広がり、都市があるが。
そちらの方はもともと遥か昔の征服者が作ったものらしい。
――まあ、我々も征服者なのだが」
「そうでしたね」
小高い岩山から街を見下ろし、ドリシアは言う。
「そうだ。
ここにも我が女神像を作ろうではないか。
像を崇拝させ、人心をひとつにするのだ」
「おやめください。
王都の女神像、ヒビが入って大変なんです」
「なんだと?
誰だ、材料費をケチったのはっ。
たっぷり予算はとったはずなのにっ。
すぐに犯人を突き止めよっ。
そして、私の像を造り直すのだっ」
ハルモニアは少し考えたあとで、
「あの~、それ、小さく分裂して、街中に置いたのでもいいですか?」
大きいのじゃなくて、と言った。
だが、街中にたくさんのドリシアの像があるところを想像したらしいみんなから不満の声が上がる。
「やめてください、何か怖い」
とコルヌが言い、
「あちこちで見張られているようで、落ち着かなく。
悪さができなくなります」
と盗賊たちが言った。
いや、それはそれでいいのでは……とハルモニアは思っていた。




