それぞれの手紙
「この技術を使い、正式な貨幣を作るといいと思います。
それと、この偽の通貨を作るよう指示した人物が気になるので、追ってみます。
最後になりますが」
ハルモニア様っ。
ここで印象深い愛のお言葉をっ、とハンナは祈るように手を合わせる。
「ちゃんと元正妃様のことも調べていますので、ご心配なく」
いや、そこも大事だけど、そうじゃなくてっ。
「王様、みなさまもお元気で。
ハンナにも元気にやっているので、安心してくださいとお伝えください」
いや、ありがたいんですけど。
不安しかないんですけどっ?
ジェラルドはガサガサ無言で、コルヌからの書状の方を開け始めた。
それもついでに読んでくれる。
ひとりで読む勇気がなかったのかもしれない。
「ハルモニア様が偽の通貨を生産している場所を突き止めました。
なんと、コインをハンマー打ちでなく、水車の力を使って製造していました。
ハルモニア様は、偽金の生産量が多いので、今までより良い技術が使われているのではと見越していらしたみたいで。
ここを乗っ取りましょう! とおっしゃり。
実行に移されました。
悪貨が良貨を駆逐するのなら、悪貨も自分で作ったらよい、とも申されていました。
というわけで、新しい造幣局を手に入れました。
――何故!?
お前ら、何しに行った!?」
最後にジェラルドの本音がだだもれた。
ジェラルドはもう疲れたように、デュモンからの書状を開ける。
「ジェラルド。
離縁しろ」
デュモンからの書状は至ってシンプルだった。
「この側室妃は嵐を呼び込む」
ふう、と溜息をつき、ジェラルドは書状を閉じた。
だが、書状を持ってきた使者が、ジェラルドに、
「あと、これはハルモニア様から王様にです」
と白い花を捧げた。
道端に咲いてそうな小さな花だが、可憐で可愛らしい。
「旅の記念に。
王様にも一緒に旅をしているような気持ちになっていただきたくて、だそうです」
その一言でジェラルドの顔が輝いた。
「そうかそうか」
と大事そうにその花を受け取り、眺めている。
彼のために馬車から降り、道端の花を摘んでいるハルモニアを想像しているのかもしれない。
ジェラルドは、やがてハンナにそれを渡し、決して枯らさぬように命じた。
なんだかんだで、愛ある夫婦だな、と思いながら、ハンナはその花を小さな花瓶に飾り、常にジェラルドの目の届く場所に置いた。




