微笑ましきは王様
「ハルモニア様からの書状を携えた早馬が参りましたっ」
その知らせに王、ジェラルドがソワソワしはじめるのが見えた。
ハルモニアの侍女、ハンナは、まあ、お可愛らしい、と思い、その様子を眺める。
ちょうど、ジェラルドに呼ばれ、
「ハルモニアはどうしているだろうか。
私が手紙を書くと、急かしているようで恥ずかしいから。
お前、なにか困っていることはないかと手紙を書け、早馬を走らせるから」
と言われたところだった。
ハルモニア様が朝早く出発されて、まだ日も暮れていないのに。
そんなに変わったことがあるわけもないでしょうに。
王様ったら、ハルモニア様が恋しくて仕方がないのですね。
ふふ、とハンナは微笑ましく笑った。
ところで、
「荒くれ者ばかりの旅だから、ハンナは残った方がいいわ」
とハルモニアに言われ、うっかり頷いてしまったのだが。
よく考えたら、その荒くれ者の中に、姫様をひとりにするというのはどうなんだろうな、と今になって思っていた。
なんというか。
ハルモニア様と向かい合うと、絶対的な安心感があるから。
あの方に、こうすればよい、と言われると、さようでございますね、と無条件に頷いてしまう。
さすが王族はなにかが違うわ、と思っていたが。
王宮勤めなので、ハルモニアとジェラルド以外の王族だと、そうでもないことも知っていた。
「うん?
三通あるな。
ハルモニアとコルヌとデュモンからか。
まあ、それぞれからの状況がよく見えてよいが。
まず、ハルモニアからにするか」
ジェラルドは、いそいそと開けながら、
「……ただの報告だけだったら、どうしようかな」
などと呟いている。
ハルモニア様が王様に深く愛されているようで、ほんとうによかった、とハンナはホッとする。
よく考えたら、ハルモニアとは、つい、この間会ったばかりなのだが。
なんとなく、ずっと見守ってきた姫様を嫁に出したような気持ちになっていた。
にこにこと書状を広げたジェラルドだったが、すぐに表情が険しくなる。
まさか、ハルモニア様の身になにかっ?
ああっ、私もついて行くべきだった。
足手まといになると思ったけど、この身を挺してもお守りすべきでしたっ。
こちらが心配しているのに気づいてか、ジェラルドが手紙を読み上げてくれる。
「王様、お元気でらっしゃいますか。
王様と離れて、ちょっと寂しい心地がいたします」
まあ、ハルモニア様。
そうですよ。
そういう素直な気持ちをぶつけることも大切ですよ、と母のような姉のような気持ちで思う。
「こちらでは、質の悪い偽の通貨が出回っています」
突然、深刻な話になったな。
さっきの愛ある言葉は、ただの前置きだったようだ……。
実際、通貨の話の方が長かった。
「――というわけで、王都に偽の通貨が出回ってはいけないと思い、みんなで出所を探しました。
いや、なにしに言ったのだ、お前は」
と読み上げているジェラルドの感想まで混ざってくる。
「すぐに偽の通貨を作っている場所は判明し、制圧致しました」
制圧!?
どうやってっ?




