不安しかない
不安しかないメンツだが、大丈夫だろうか。
いっそ、ゼリウスに金を払ってついて行ってもらえばよかった、とジェラルドが思っているころ、一向は呑気に美味しいものを食べていた。
屋台で買ったナッツやドライフルーツが入った揚げ菓子だ。
シナモンなどの香りがいいアクセントになっている。
それを食べながら、元王妃が洞穴に入っていったという土地を訪れる。
「すごい、岩ばかりですね。
同じ王国なのに、広いとこんなに眺めが違う場所があるものなのですね」
海と緑に囲まれた王都を思い出しながら、ハルモニアは呟く。
王族と知られない方が動きやすいので。
ハルモニアは村娘のような、可愛らしいがシンプルな服を着、屋根のない馬車に荒くれ者たちとともに詰め込まれていた。
「ハルモニア様の国も砂漠地帯などもございますよね」
とコルヌが微笑んで言う。
「そうですね。
でも、このような岩山の多い場所は初めてなので、珍しいです。
来るときには通りませんでしたし」
砂埃にハルモニアがむせたので、コルヌが頭からショールを被せてくれた。
「それにしても、美味しいですね、これ」
ハルモニアはまだ大事にさっきの揚げ菓子を食べていた。
後ろにいた男たちが言う。
「ありがとうございます、ハルモニア様。
我々にまで買ってくださるなんて」
「こんな珍しい物を食べたら、もう牢屋には戻れませんね」
出てきたばかりなのに、あそこが恋しくなって、もう戻ろうかと思ってたところなんですよ、とまだ若い男が笑って言う。
薄汚れた格好をしているが、整った顔をしていて、誠実そうな感じだった。
「牢の方が居心地がいいようではいけませんね。
国に不満があるのなら、どしどし、王様にご意見をおっしゃってください」
「お前にじゃなくてか」
荒くれ者たちから距離をとろうとするように、隅の方で剣を抱えて小さくなっているデュモンが言う。
「私はただの側室妃。
政治に口を出すつもりはありません」
「おのれの像を国中に造れとか言うやつがよく言うな」
とデュモンは、すかさず嫌味をかましてくる。
「いやいや。
別に私の像じゃなくていいんですよ。
私が国中に造ったらいいと言ったのは、街灯です。
今の女神像みたいに巨大なのより、小さな街灯があちこちにある方が便利だし。
夜間の犯罪が減るのではないかと思いまして。
……ところで、さっきお釣りにもらったお金なんですけど。
なんだか、王都で使っているものと違いませんか?」
ハルモニアはその硬貨を昼の日差しに翳してみる。
御者のおじさんが言った。
「あ~、この辺りの硬貨は質が悪いんだよね」
「……えっ?
場所によって違いがあるんですか?」
「いや、あるわけないだろう」
とデュモンは手を伸ばし、ハルモニアの手からその硬貨を受け取る。
先代の王の顔が彫ってある硬貨だ。
「顔がちょっと柔和だし、偽物かな?」
「ええっ?
屋台に戻りましょうかっ」
「いや、大丈夫」
と御者は言う。
「その金、偽物とわかってても、流通してるから」
ええ~?
「そもそも、こんな田舎に貨幣はあまり入ってこないから、物々交換のところもまだあるんだよ。
だから、地方の貨幣みたいな感じで使われているんだ。
でもまあ、本物の貨幣と似ているからね。
街でそのまま使ってしまう者もいるようだが」
「聞いたことがあるな。
偽の貨幣の話は」
とデュランが言う。
「街に大量に入ってくると困りますね。
……ちなみに、本物の貨幣は入ってこないけど、これなら入ってくるんですよね」
「そうさなあ。
質が悪いから、大量に作れるのだろうねえ」
ハルモニアはその硬貨を眺めながら、
「うーん。
もしかしたら、大量に作れる理由は、それだけじゃないかもしれませんよね。
調べてみましょうか」
と言って、
「なにいきなり脱線してるんだ」
とデュモンに言われる。
話に積極的に加わってこないジャスランもハルモニアからそれをひとつ受け取り、眺めていた。




