居酒屋 ゼリウス
結局、みんなに言われて、ジャスランは渋々、牢獄を出た。
「……よく考えたら、刑期を終えた者を国の予算で養っていたわけだよな」
「ジャスラン様は独房にいらっしゃるだけで、労働はなさいませんしね。
でもまあ、牢名主様の片腕として、牢屋内を上手くまとめあげてらっしゃいましたよ」
だから、独房とは……?
と独房の意味を見失い、ジェラルドは呟いていた。
牢を出たあと、全員で、大海賊、ゼリウスの店に来ていた。
洞窟のような個室に通される。
「なんだ、ハルモニア、側室妃になったのか。
王宮より、船の方が気楽でいいだろうに」
あの船は今後も好きに使え、とゼリウスは豪快に言って言う。
「王様、ハルモニアを頼むよ」
バン、とジェラルドの背を叩き、行ってしまった。
「……王宮は海賊の船より快適でない、か」
まあ、ある意味当たってる、とヒリヒリする背中を手でさすりながらジェラルドは言った。
「しかし、ハルモニア。
像を壊すのはいいが、あれは灯台や街灯の役目も果たしているので、似たものが必要になるぞ」
とジェラルドが言う。
そうですね~、とハルモニアは考え、言った。
「まあ、ある程度の大きさは必要でしょうが。
あまり大きいとまた今の像の二の舞になりかねないので。
そうだ。
たくさんの小さな私の像にランプを持たせて街中に置いたら、夜道も明るいですよね」
「待て。
お前、元正妃様より、自分を増やしているぞ」
とデュモンは言うが、
「それに火をつけて歩く仕事の人を雇えば、失業対策になりますし」
とハルモニアは言った。
「そいつは昼間、なにやってるんだ……」
「いや、別の仕事をやってもらえばいいんじゃないですかね?」
「うむ。
ここの肉は美味いな」
とジャスランが呟いた。
香辛料がたっぷりすり込んである羊の肉だ。
肉の臭みがまったくない。
「うち独自のスパイスだ。
王宮にもない、うちだけのルートで手に入れてる香辛料をふんだんに使ってる。
ほら、みんな、野菜も食え」
どん、とゼリウスは大きな木の器にパリパリの新鮮な野菜を山盛り持ってきた。
ジャスランはまだ衝撃を受けている。
「シャバはすごいなっ。
牢の肉料理とは全然違うっ。
あそこは質より量だから!」
「牢も酒は上質ですけどねえ」
と輸入物のワインで一杯やりながら、ハルモニアは言った。




