ハルモニアの願い事
「クレイン!」
クレインはすぐに牢を出され、王宮に連れてこられた。
「ハルモニア、お前の仕業か。
別に出してくれなくてもよかったのだぞ。
牢での暮らしも、なかなか快適だったから」
「久しぶりだな、クレイン」
とジェラルドが相変わらずなクレインに呆れ顔で挨拶していた。
「何故、お前だけ、牢から出してもらえなかった。
というか、私の名を出せば、すぐに出られただろうに」
「看守に反抗的だから出られなかったのでは?
ああでも、私も脱獄してるみたいなものなので、出所したことにしてくださると助かります」
ついでのようにハルモニアがそう言うと、
「……もうお前たちの所業については触れない方がよいな」
どんどんボロが出て、側室妃ですらいられなくなるだろう、とジェラルドは言う。
出してくれなくてよかった、などと言っていたクレインだったが。
王宮の食堂で、香草たっぷりのチキンなど、たらふく宮廷料理を食べたあとには、
「やっぱり、外に出てよかったな」
と呟いていた。
「まあ、酒は牢獄の方が美味いが」
「待て。
酒は支給していないはずだが」
「奥で作ってる密造酒がありますよ。
あ、摘発しないでくださいね」
そうハルモニアが言うと、
「……もうお前たちと、牢の話はすまい」
と言って、心の広い王はそれで話を終わらせてくれた。
「まあ、出してくれてありがとう。
ジェラルド、おっと、王様。
それに、ハルモニア」
「いや、私はお前が投獄されてるのも知らなかったから。
礼を言うのは、ハルモニアだけでいいぞ」
「ありがとう、ハルモニア」
横で聞いていたらデュモンが、
「いや、その娘に恩義を感じる必要があるか?
その娘が扇動した騒ぎのせいで、お前、捕まったんじゃないのか?」
と呟いていた。
年はあまり変わらないようだが。
クレインはジェラルドたちの幼少期に絵などを教えていたらしく、それで顔馴染みであるようだった。
クレインがやさぐれて仕事をしなくなってからは、あまり接点がないようだったが。
「そうか。
あの像のヒビが気になっていたのか、ハルモニア。
言ってくれればよかったではないか」
クレインに話を聞いたジェラルドが言う。
「はあ、でも、みなが崇めている像にヒビが入ってるとか言って、無礼だと殺されてもあれなので」
三人は顔をしかめた。
「別に崇めているわけではない」
とジェラルドが口を開く。
「だが、崇めているフリをしなければならないし。
あれを壊すことは私にもできない」
「何故ですか?」
「王の力が一番強いとは限らないからだ、ハルモニア」
とデュモンが言う。