何処までもキャベツ
「ちょっと腰掛けぬか」
「あ、はい」
ハルモニアはなんの抵抗もなく、ともにベッドに腰掛ける。
……ほんとうになにも考えておらぬのだろうなと思いながら、ジェラルドは、キャベツ畑のおかみさんの話をした。
「デュモン様がそのようなことを」
と笑うハルモニアに、
「いや、お前も似たようなものだろう」
と言ったが。
「いえ、さすがに私もそれは信じられません」
そうハルモニアは言う。
ほう、と思っていると、
「我が国の砂漠地帯などでは、キャベツが育ちません。
ああいうところでは、赤子ができないことになってしまうではないですか」
とハルモニアは答えた。
「……お前は、ぼんやりしているのか、賢いのか、よくわからぬな。
それにしても、何故、みな赤子と言えば、キャベツなのだろうかな?
あの葉に包まれる感じがそうイメージさせるのだろうか」
キャベツの柔らかい葉は、おくるみを連想させるし。
葉のしずくに月光を受けて輝くキャベツなど、ぼんやり光って見え、荘厳な感じがする。
それでだろうか? などと考えていたジェラルドにハルモニアが言った。
「でも、まあ、そのお話が作り話なら、できたのは最近ですね」
「何故だ」
「もともとキャベツは結球する野菜ではなかったからです。
あれは人類が改良してそうなったのですよ」
なんとっ、そうであったのかっ。
ただただ美味いと思い、食べていたっ、とジェラルドは驚愕する。
「私は物知らずだな」
「いいえ、王様は他にたくさんのことをご存知ですから。
人の頭の容量はおそらく決まっております。
花や野菜のことは私が知っておりますから、王様は覚えておられなくとも大丈夫ですよ」
「ハルモニア……」
ジェラルドはベッドに置かれているハルモニアの手におのれの手を重ねた。
「それは、ずっと私の側にいてくれるということか?」
そうですね、とハルモニアは小首をかしげながら言う。
「王様に厄介払いされて、何処かに下げ渡されない限りは」
「……だから、お前はどうしてそう妙なところで冷静なのだ。
そこは、はい、と頷いてくれれば私は満足なのだが」
「そうなのですか?
では、『はい』」
「情緒がないな」
と呆れたように言いながら、ちょっと可笑しくなってくる。
思い描いていた自分が妃を迎える図と、まるで違っていたからだ。
誰を選んでも、よく知らない娘だ。
政略結婚のようなものだから、そこに愛があるとは思っていなかった。
おそらく、淡々とした儀式のようなものになると――。
ジェラルドは一人俯いて笑ったあとで言う。
「……思っていたより、愛がある」
は? とハルモニアは間抜けな顔でこちらを見ていた。