私の野望
「いいえ、気を引くつもりはありません」
案の定、ハルモニアはそう言った。
「気は引きません。
私は身を引きます」
引くなっ、とジェラルドは思う。
「お二人の愛の前に、私の野望など太刀打ちならない気がするからです」
お二人の愛ってなんだっ!?
あとお前の野望とはなんなんだっ?
「デュモン様、どうぞ、王様との愛を貫いてください。
私は仮の正妃でいいです」
正妃にはなるつもりなのか……。
「待て、ハルモニア」
もう喋ってしまったのでいいかとジェラルドはハルモニアに問うことにした。
「お前は何故、そこまでして正妃になりたい」
何故、そこまでして正妃になりたい、と問われたハルモニアは真実を告げるか迷っていた。
この街を守るように立っている女神像。
迂闊に触れることすら許されないその像にヒビが入っていることは、みなもわかっているだろう。
なのに、今まで、誰もなにも言わず、なにもしないのは。
あれが倒れるかもとか言ったら無礼だと言われて、成敗されたりするからなのかもしれない。
そうハルモニアは考えた。
「じ、実はその。
あの、正妃様になったら、新しい女神像になれるかもしれないと伺いまして」
ほう、という顔をジェラルドはする。
どういう意味での、ほう、なのかはわからなかったが――。
「何故、お前は女神像になりたいのだ?」
と問われる。
「すべての民たちの生活を何処までも。
高い場所から見下ろせるような、正妃になりたいからです」
民の暮らしの隅々までも見守れるような正妃になりたい、という意味でハルモニアは言った。
先ほどまで剣を向けようとしていたはずのデュモンがジェラルドに耳打ちをする。
「王よ。
この娘、民たちを何処までも見下したいと言っております」
言ってません。
言ってませんよ、デュモン様。
私、一応、あなたの味方なんですけどね……。
自分を王の元から引き離そうとするデュモンの扱いにハルモニアは困る。
「そもそも、この娘は、つい、この間まで投獄されていた罪人ですよっ」
「まあ、その件に関しては、我が国にも落ち度がある」
と渋い顔をしながらも、ジェラルドはかばってくれた。
「なにをしようとも、他国からやって来た姫君を投獄するとか。
あってはならないことなのだが」
そこで、ジェラルドは、こちらを見て、
「……お前、ほんとうになにをやったんだ」
と訊いてくる。
だから、おかしな予言をしては、民衆を惑わしてたんですよ。
偉大なる予言者となり、あの像が危ないと言えば、撤去してもらえるかと思って――。