何か予想もしてなかった展開だけど、これだって戦いだ。それに一応はオレも関わってるしさ。ちょっと妙ちきりんだけど、ま、悪くないんじゃない? うん。 by 柿本亘
ワタル(柿本亘)は藤木の指示にしたがって、一日、美野里を見守っていたが、特に何ごともなかった。
それよりも、いよいよルリーG作戦が始まる。
何としても成功させなくてはならない。
昨日は一日、それとなく美野里を見てたけど、別に変わったようすはなかった。
まあ、あいつにしては元気がなかったな。睡眠不足かもな。
ま、そこんとこはちょっと心配だけど。
それよっか茜っちだ。
明らかに孤立してた。
文字通りの孤軍奮闘。
こんなとき何もできないって悲しいよ。
まあ、そんな状態だったからね、美野里を守れっていう藤木の命令は何もしなくても果たせたわけだけど、夕べ佐伯がバイクで来てうちに置いてったこの小さな段ボール。
こいつが問題だ。
入ってたのは全部、ルリーGのグッズ。BじゃなくってG。つまり女ものってこと。
どうしろってんだよこんなの! て確かめたかったんだけど佐伯はあっという間に走ってっちまった。
ほんとマジ、これぜんぶ身に着けて学校行ったら、バカじゃん。
しかも新品一個もねえってどういうこと?
使用感ありありじゃん、って思わず匂い嗅いじゃうオレって、変態かな。
でもこの飾りの付いた髪ゴム。
まじでいい匂いする。
チンチンの根本に巻いたらちょっとかわいいかも。
……。
いやいや! 朝からバカなこと考えてる場合じゃないや。使用感ありってことは、あいつら買い集めるんじゃなくってカツアゲしたんだ。それに多分、よその学校だ。だってうちらの女子から集めたんじゃ動きがバレちまうもんな。
しかしそう考えると一層すげえな。
これ全部、昨日のうちにやったんだ。
どんだけ~!
まったく。
この行動力を慈善事業とかに活かしたら、世界はきっと救われる。
エネルギーの浪費だ。世界の損失だ。
けど感心してる場合じゃないな。
改めて、一緒に入ってた藤木のメッセージを読む。
「届いたのは全部身につけてこい。検見川に対向する俺たちの畑印だ」
旗印だろ! ってもう一回突っ込んでみたけど、もう笑えねえ。
始まるんだ。
戦いが。
今日こそ。
それにしも。
昨日の茜っちはほんっとかわいそうだった。
ぽつねんってあのことだよ。
教室移動んときもひとりで黙って……。
あの元気印がだよ。
近くに検見川親衛隊の高野ゆかりと新村早紀がいておっかねえ目ぇして女子達に睨み利かせてんだもんな。あれじゃ、ほんとは声かけたい女子だって近寄れねえ。
それでも茜っち、ルリーGのアクセ外さねぇんだもん。
勇ましいけど、見ててツラい。
無理してんのが見え見えだよ。
ほんとごめんよ茜っち、昨日は力になれなくて。
でも今日は大丈夫だよ。
男子が全員味方だから。
ま、これってオレの力じゃないけど。
でも誇ってもいいよな、オレだってちったぁ関わってたわけだしさ。
だってあれだよあれ、あの藤井八冠だって、将棋で勝負決めるときは歩一枚だって大切にすんべ。ぎりぎりの戦いにはさ、歩の一手だって欠けたらだめだべ。
だからオレっちは歩よ、歩。
勝利のためになくてはならない一枚の歩。
あれ。
オレ今、すんげえいいこと言ってねえか?
かっこよくない?
あとほら。
歩とかってさ、敵陣深く切り込んでくと金に成んじゃん。そうなったらオレだって、茜っちに「王手ぇ!」
「ワタルぅ! あんたいつまで寝てんの、学校遅れるよ」
やめてくれよおかん、今、妄想絶好調なのに。
「るせえな、起きてるよ」
「玉子どうすんの、目玉焼きでいい?」
卵焼きぃ、と返してベッドから飛び起きた。
今日は戦争だ。
☆
予想通りとはいえ教室は異様だった。
やんちゃ男子も、オタクっぽいやつもイケメンもお坊ちゃんも。
みんながみんな、女ものを身につけてんだよ、まあオレもだけど。
ロン毛の武史は後ろに束ねてでっかいピンクのヘアクリップ。
坊主頭の翔太はなんと、耳にキンキラのピアス。てかあいつピアス開けてたんだ。知らなかった。でもってそっから薄い貝殻みたいのじゃらじゃらぶら下げてっから目立つ目立つ。
あとほとんどのやつがスクールバッグに、もろ女もんのキャラクターくっつけてる。
あ、文斗が腕に巻いてんの、あの黄色いのってシュシュだべ。んでもって顔メイクしてやんの。やるねー♪
しかしこうなるとなんだな。もうルリーGもへったくれもねえや、単なる女装集団だ。
でもさすがにスカートは……、て思ったらいた。
なんといたよ。
それも優等生の健太だ。
お気の毒に。
おいたわしや。
なにしろ一方的に送りつけといて「ぜってえ着てこい」だもんな、あれに当たったら、まあ罰ゲームだと思って覚悟決めるしかないわな。よかったよオレはまだ。サマーベストで。
しかし健太のやつ、せっかくのスカートなのにズボンの上からってのが潔くないよ。こういうのはさ、中途半端に着るとかえって恥ずかしいんだ。
オレだったら百均かどっかで女もののパンツ買ってさ、生足で普通に履いてやるね。んなもん、まくられてナンボだろがぁ!
にしてもほんと、不気味だよ、この光景は。
あ、オレ?
アクセはまあみんなと一緒だけど、オレの罰ゲームはベストね。ピンク色の、胸にルリーGのロゴがカワイくプリントされてるやつ。
でもそれをただ着ないのが、金に成る志を抱いた歩の、偉大なところよ。
お胸の位置の裏側に靴下を埋め込んでおっぱい作ってあんだ。控えめだけどさ。芸細かいべ。
先生が入ってきた。
「きりぃ~つ!」
武史め、しな作って裏声で言いやがったから爆笑だ。おいしいとこ持ってく。
「何だお前ら」
担任であり、また数学の教師である浦賀先生はぼそっと呟いて、それから教室を舐めるように見渡した。
その顔には欠片の笑みもない。
うちの学校は服装自由だから駄目とはいえないけど、これはさすがに……、先生を絶句させたみたいだ。
翔太が精一杯の高い声で言った。
「目覚めちゃったんですぅ」
笑いがさざ波のように広がるが男たちの目は真剣だ。おふざけの目ではない。
オレだって。
だってこれは、茜っちを救う戦争なんだ。
最初、茜っちに「男子束ねて戦争」って言われたときはまじビビったけど。だってオレ喧嘩したことないし。
でもこういう戦争ならいいな。
ちょっと楽しい。
お、ワタルにしては調子いい……、ていうかちょっと、調子づいてる? ^^
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