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ビビりのワタル? うん、そう、オレのこと。  作者: 伊藤宏


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藤木嫌えだよ、すぐ殴るし、ムチャ言うし。もうムリ! ぜってえ死んでやる。はぁ~、でもまじ、どうすりゃいいんだ、オレ。 by 柿本亘

ワタルは茜の指示に従って、電話でルリーG作戦の仲間集めを行なったが、結果は思うように出ていない。

登校したワタルは、正門に藤木一派が待ち伏せしているのを見て、裏口に回ったのだが……。

 「よお、ワタル」

 ひえ~~~~。

 後ろから声をかけられた瞬間、心臓がばくんってなって歯がイイ~ってなった。

 吸った息が吐き出せない。

 このまま死ぬかもって思ったけどビビったくらいじゃ人間死なない。

 死ぬのってけっこう難しいのだ。


 「お前のことだからぜってぇ裏口からくると思ってたよ。分かりやすいなお前」と言って足下の砂利をオレに向かって蹴った。

 ちょっとムカつく。でも

 「なんすか、藤木さん」

 って、どうしても敬語になっちゃう情けないオレ。

 「なんすかってお前、やってくれてんじゃねえか」

 「なんのことっこっとっ」

 やべ、舌が回んね。

 「ビビりのワタルにしちゃあよお」

 ここで藤木のやつ、オレの両肩をがしっと掴んだ。

 やばい、この流れ。頭突きだ。

 亀みたく首を引っ込めて目を瞑ってたら藤木が言った。

 「珍しく根性見せてんじゃねえか。で、どんくらい集まったよ」

 「へ」

 「へじゃねえよ、検見川美貴を追い込もうって企んでんだろお前」

 どうしよう。完全にばれてる。てかそう思ったから裏口に回ったんだけど、その作戦すら見破られてるぞ。


 でも。


 今更やめるわけにはいかないんだ。もう始めちゃってるんだから。

 「首謀者は誰だ。西園茜か」

 言うもんか。

 「それとも美野里ちゃんか」

 ……え。

 何、ちゃん付け? 

 二度見するだろ、そりゃ。

 「そうかぁ、やっぱり美野里ちゃんなんだ」 

 しまった。目が心にもないこと言っちまったみたいだ。

 「なんてウツクシイんだ。身の危険も省みず親友の茜を助けようなんて。清いなあやっぱ」

 何だ何だ、この遠くを見る目は。

 ん? しかも今、目のなかに花びらが舞ったような気がするが。

 んなわけないよな。

 だってこいつ、検見川と付き合ってんだろ。


 ……。

 え、違うの?


 「うん、そうか。今朝の美野里ちゃんってさ、なんかいつもと違ったんだよ、神々しいってかさ、分かんだろワタル」

 とりあえず、うんうんと首を振っておく。

 「その美しい美野里たんの、男子組サポートなんだよなぁお前!」

 おいおい、今、美野里たんって言わなかったか? 気のせいだよな、ぜったいそうだ。

 「なあおい、そ う な ん だ よ な!」

 胸ぐらを掴まれた。

 苦しいって藤木。それじゃ何にも言えねえじゃんか。

 目をパシパシして訴えたら今度はいきなり地面に落とされた。

 「そう……、だ よ」

 潰されかけた気道のせいで声が掠れた。

 「うん。で、どうよ、何人くらい集まったよ、誰と誰だよ、ここで全員の名前、言ってみろ」

 それだけは言えん、と心に決めた瞬間、鳩尾にボディーブローを喰らった。

 微妙に外れてるのは手加減のつもりか。

 でも、やっぱ苦しい。もう一発くらったら吐いちゃうかも。

 頼む、お願いだからもう止めて。

 「心配すんな、お前をどうこうするつもりはねえよ。なんなら男子は全員、美野里ちゃんについて西園を守る」

 へ。

 「いいんすか、検見川さんに逆らっちゃって」

 「るせいな、美貴のことはいいんだよ。だからちゃんと情勢を語れっつってんだろ、今、誰と誰が仲間に加わってる」

 なんだよ、だったら何で殴ったんだよ、必要ねえじゃん、て思ったけどここでまた怒らせてもしょうがないから情勢を丁寧に説明した。

 検見川包囲作戦と、そのシンボルがルリーGだってとこから。

 女子はうまくいっても半分くらいしか味方にできなさそうっていう見通し。

 だから作戦の勝敗は男子にかかってるってこと。それがルリーB作戦だってこと。

 でもって明け方の三時まで電話かけまくって結局味方に付けたのがたったの三人っていう情けない結果まで。

 「情けねえな」

 だから分かってるって言ってんだろ。

 あ、言ってねえか。


 「このままじゃ負けるぞ」

 「まだそうって決まったわけじゃ」

 「亜由美が美野里ちゃんを脅した」

 「へ」

 「知ってんだろ亜由美のこと。さっきこの目で確認した」

 「はぁ」

 「はぁじゃねえだろ、あのクソヤンキーが美野里ちゃんを脅してお前らの作戦妨害し始めたっつってんだよ。たぶん他でもやってる」

 「まじ?」

 「おお、確かに見たんだよ、体育器具室でな。かわいそうに美野里ちゃん、友情に熱い、心優しいか弱い女の子なのに」

 微妙に、ていうかかなり違うと思う。あいつは小学校んとき無視されたり教科書破られたりした時期があったけど、不登校んなるどころか無言の威嚇で乗り切った。今でも怖ぇくらいに強ぇ、とオレは思う。


 長い沈黙があった。

 で、ちょっと怖くなって、

 「勝算はあんすか」って訊いたらいきなり頭をはたかれた。

 やめろっておい、漫才じゃねえんだから。

 「勝算もクソもねえだろ、やるんだよ。いいか、男子は俺がまとめる」

 「へ」

 ありがたい、と言いたいとこだけど、茜っちに頼まれてんのオレなんですけど。

 「今日はお前が働け。俺にはやることができた。明日は逆転させっから、今日はお前ひとりでなんとかしろ」

 「へ」

 「へえへえってさっきから何なんだお前。いいからやるんだよ。明日来て腰抜かすんじゃねえぞ、男子全員ルリーGだ」

 え、藤木さん、男子だったらルリーBだって。それにやれって何。オレ何すればいいの。

 「今日一日、美貴たちを美野里ちゃんに近付けんな。踏んずけられてもひん剥かれてもお前が食い止めろ、いいな!」

 「え、えええええ」

 一難去ってまた一難、てか何でオレってこんな損な役回りばっか。

 もうぜってえ死んでやる!

 誰も止めたって無駄だぜ。ぜったいだ。


 あれ。

 違うんじゃね?

 危ないの茜っちじゃね?

 いやいやそうだよ、美野里なんかよりぜんぜんやばいって。反検見川の急先鋒だってのに味方いないじゃん。


 やっぱ盾か、オレは。

 オレのせいだもんな。

 生ける盾んなるか、茜っちのために。


 はあ、でもな、やだなぁ女にやられんのって。なんか屈辱。ってこういう感情もジェンダーなんとかで差別になんの? 

 でもそんなん理不尽だろ。

 だってオレが女子殴ってみ。百パー悪いのオレだぜ、好感度ゼロだよゼロ。

 そんじゃあって、黙って殴られたらどうよ、「サイッテー」とか言われてさ。

 みっともないことこのうえない。

 もう明るいとこ歩けないし、再起不能じゃね。

 ああああ、やだやだ。

 どうしたらいいのこういうときって。

 誰か教えてくれえええええ!

ワタル……。

いつもババを引いてばかりですがやる気だけは人一倍。憎めないやつです。

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