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ビビりのワタル? うん、そう、オレのこと。  作者: 伊藤宏


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ごめん茜! あたしとんでもないことしちゃったよ。だってさ……。ほんとごめん、でもダメなんだあたし、暴力って怖いんだよ。 by 中島美野里

“仲間を作って反乱” などという芸当は、やはり中島美野里には無理だった。

しかし動き出した作戦はもう止めようがなかった。

 教室はぱっと見だといつもと変わんないけど、なんか異様な緊張感が漂ってる。

 ああやだ、嫌いだよこういうのって。


 今んとこみんな、腹の内を探り合ってるって感じだ。

 はぁ~、ほんとヤだ。


 「茜のやつ、攻めてんじゃん」

 穏健派の優衣ちゃんが肘で突っついてから指さした先は、茜の席だ。

 分かってる。痛いくらいに目立ってるもん。

 机の上にルリーGのペンケースと、ロゴシールを貼っつけたノートを並べて、着てんのは背中にでっかいロゴがプリントされてる黄色いTシャツ。ご丁寧にスニーカーもだよ。

 ま、本人だもんね。こんくらい覚悟見せないと誰もついてこないもん……。それは分かる。


 でも。


 ごめん茜! あたし裏切っちゃったよ。

 藤木のチェックはわりと簡単にスルーできたんだけど、あのあと亜由美に体育器具室に連れてかれたんだ。で、言われた。

 「あのさ、茜を締めるってのはもう決まってんだよ、分かってんだろうな」って。

 持ってたルリーGグッズ、全部捨てさせられて検見川さんの仲間にさせられちゃった……。


 本気の亜由美って怖いんだよ。

 知らなかったよ。

 標準服正しく着てるし、髪の毛黒だし。裏ではヤンキーだなんて、噂だと思ってた。でもほんとだったんだ。


 暴力ってトラウマなんだ。

 強く出られると声出なくなっちゃうんだよ。心臓がせり上がる感じで呼吸も浅くなって、逆らえなくなるんだ。

 ごめん茜。


 でももしかすると、そういうのって、あたしだけじゃないのかもしれない。だって今、教室でルリーGを見せてる子、茜以外にいないもん。

 電話では「わかった」って言ってた子も。

 「やろうよ」って熱く(ちぎ)ってくれた子もみんな、ルリーG出してない。


 亜由美に先回りさせられたのかな。


 きっとあたしが一番怪しかったから亜由美、自分から近付いたんだ。

 待ち伏せしてたんだ。

 でなきゃ亜由美からあたしに声かけるなんて、ありえないもん。

 そうだ……。

 きっとそうだ。

 で。

 その結果。



 茜はひとりだ。



 やばいよこの状況。

 完全に作戦失敗だ。

 どうしよう。

 今からでも体育器具室に行って取ってくるか。でもって茜とふたりで戦うか。


 でもな、イジメなんて先生に訴えたってまともに聞いてくれないし。発覚したって検見川さんの親がぜったいもみ消すし、その前にみんな、うまくやるもん、ばれないようにさ。


 しかも今回、あたしが反検見川さんで多数派工作してたの、バレバレだ。みんな知ってる。

 どうしよう、あたし最下層決定?

 したら、やだよ。

 また始まるなんて。

 やだ。

 何してもイジられる日々。

 逃げ回る日々。

 黙って耐えるしかない日々……。

 光の届かない世界。闇。


 考えてるだけで教室から色が消えてく。音が遠くなってく。

 やんなきゃよかった、こんなこと。

 

 あ、茜がこっち見た。

 どうしよ。

 あたしってば目ぇ逸らしちゃったよ。これじゃ後ろめたいの見え見えじゃん。

 ああもう、だめだ。もう視線戻せない。でも茜はきっと、まだ見てる。あたしのこと睨んでる。そうに決まってる。



 あ、そうだ、ワタル。

 あいつどうしたかな。

 茜命でがんばったかな。

 男子の半分でも反検見川さんでまとまったらどうなるか分かんない。そうしたらあたしも勇気出せるかも。

 けどな、藤木のやつ朝から張り切ってたから。もし中途半端な反乱起こしたら、ワタル、ぼこぼこにされちゃう。


 もう一度、男子を見渡す。

 形勢は女子と似たようなもんだ。てゆうか全然いつもと変わんない。普通。

 ちゃんと調略したのかな。

 だいたいワタル、こんな大事なときにどこにいんのよ。

 きょろきょろしてたら予鈴が鳴った。

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