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ビビりのワタル? うん、そう、オレのこと。  作者: 伊藤宏


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やっぱ死ぬっきゃねえのかな、しょうがねえか。それなのにさ、オレ。「やっほーワタ君」って言われると、すぐしっぽ振っちゃうし……。バカだねほんと。 by柿本亘

茜っち(西園茜)に会って、一度は死ぬのをやめたワタル。

でも大好きな茜に盗撮疑惑を抱かれて希望をなくし、やっぱりもう一度、今度こそ確実に死のうと心を決めたワタルだったが……。


 やっぱオレの場合、人が大勢いるとこはだめかもしんね。どうしたって邪魔が入る。

 死ぬには集中力が必要なんだって。

 やったことない奴には分かんねえだろうけどさ。

 ん? 

 ていうとあれか。オレって自殺未遂ってこと? 経験者? あ、でも実行はしてないから覚悟だけか。

 覚悟経験者。あは、聞いたことないな、こんなの。


 はあ、しかしなあ。

 確かに茜っちのこともちょこっとは撮ってたんだけど、やばいよな。やめときゃよかった。

 でもさ。

 無理だべ。いつも美野里と一緒にいるんだもん。そりゃ写っちまうって。

 

 あぁあ、でも最悪だ。

 美野里はいいよ、見下されたってさ。あんなのは別にいいんだけど。

 でも茜はさぁ……。

 一瞬、いけると思ったんだけどなぁ。

 いい感じだったのに。


 ああリアル茜っち! 写真で見るよかぜんぜんかわいい。

 でももうだめだ。

 オレなんか相手にされないよ。オレってきっと、一生カノジョなんてできないんだ。


 あそっか。

 だったら美野里はキープしとくって手もあったのか。

 でももう遅い。

 ほんとに遅い。遅すぎる。


 でも、面白いよな。

 美野里の場合あれなんだよ、なんか色気がないっつうか? ある意味女じゃないんだよね。

 それがさ、最近の美野里ってレンズ通して見っと不思議となんかちょっと……、神秘的?。

 何だろね女の子って。


 まあいいや、前途真っ暗なオレだもん、生きてたってしょうがねえ。なくなっちまえばどんな闇だって消えちまうんだし、死ぬのなんて一瞬だから。


 よし!


 飛び込みは止めて飛び降りだ。これならひとりだし、邪魔は入んないでしょ。


 でもってどっから飛び降りようか。

 一番センセーショナルなのは学校の屋上だろうな。

 でも昼間はだめだ。みんな見てるし、オレ止められたら多分ビビっちゃう。

 

 夜。

 やっぱ夜だ。

 入れるかな、学校。

 

 うぅん、不安しかないな。

 やっぱ下見とかしといた方がいいかな。

 今から行くか、善は急げだ。善かどうかわかんねぇえけど。


 決意してがばっとベッドから起きあがったところでぶ~ん、ぶ~んっとスマホが振動した。

 机の上だ。

 真っ暗なオレの部屋、そこだけ光が明滅してる。

 誰だよ、こんな時間に。

 てかまだ十時だけど。


 090×8××78××

 知らねえ番号。誰だこんな時間に。ってかまだ十時だけど。あ、これさっきやったか。

 

 しかし最近、営業電話って多いよな。しつこいってか熱心ってか。

 電気代を安くしてみませんか? とか、屋根の()き替え安くしときます、とかさ、何でオレに言うかね。

 あ、そういえばこの前、墓地買いませんかってのがあったな。

 ……あぁ、あれは聞いとけばよかった。死ぬんだったら。


 ありゃりゃ、切れちゃった。

 どうしよう大事な電話だったら。って、いつも後悔してばっかのオレ。

 だめだなやっぱ。

 生きててもぜったい成功しないタイプだわ。



 死についてチンシモッコーしてたら、またスマホが振動した。

 もしかしたらこれは好運の兆しではないだろうか。

 根拠ないけど。

 でもそういうことってなくない? あとから振り返ってさ、幸運はあそこから始まった、みたいな。

 なんかわくわくしてたら通話マークをタップしてた。


 「やっほー、ワタ君もう寝てた? お子ちゃまだもんね、おネムの時間かな? 起こしちゃって悪いんだけどさ、でも普通の高校生ならこれからって時間よぉ、てか朝まで起きてたって普通っしょ?」

 なんだこれは、どういうことだ。

 「ちょっちょっちょ、どゆこと? 西園さんだよね」

 「でぇ~す! 西園茜、十七歳、女子、健康、元気ぃ」

 「なんでオレの番号」

 「ワタ君の幼なじみに教えてもらった」

 美野里か。

 「え、なに、迷惑だった? てこういう、さりげなく相手の心を慮るなんてことがあたしにもできるんだなぁって、今自分でもちょっと発見」

 「いや、別に迷惑じゃないんだけど」

 「けど何」

 「え、いや、てゆっか、どっちかって言うとその……、嬉しい」

 電話の向こうでひゃあっていう声が聞こえて、こっちもなんか楽しくなる。

 何舞い上がってんだろオレ。

 ん? ちょっと待てよ。

 「ねえ西園さん。そっちって、他に誰かいんの」

 「やだなぁワタ君、彼氏候補に電話すんのにひとりに決まってんじゃん」

 そっか。


 え?


 「何、候補?」

 「だってワタ君、こないだ告ったじゃん、あたしに」

 よかった電話で。今、間違いなくオレ、顔赤くなってる。

 「聞いてるワタ君」

 「聞いてる」

 「よし、じゃあ彼氏昇格試験、受けてみる?」

 「うん、受ける受ける」

 何で二回も言うかな、これじゃ餌を目の前にした犬だぞ。おいオレ、男子としての誇りを持て!

 「はい、じゃあエントリー完了ねぇ。でも言っとくけど、西園茜にクーリング・オフ制度はないから。分かってるよね」

 「うんうん」

 やばい、これじゃほんとに犬だ。今手のひらを見せられたら迷わずグーを乗っけちゃう。


 「ワタ君は男の子だよね」

 「うん」

 「あたしのためなら何でもやるよね」

 「うん」

 犬ながら一抹の不安が……。

 「藤木に刃向かうことなんてへっちゃらだよね」

 「うん」

 え?

 「ワタ君、あたしを助けるためなら男子束ねて戦争できるよね」

 「え、えええええええ!」

 「おっとぉ、クーリング・オフはできないってさっき言ったよ」

 「ちょ、ちょ、どういうこと」

 

 それから茜っちは、いつになく冷静に、順を追って説明してくれた。


 自分がはぶられそうんなってること。

 その首謀者が検見川美貴だってこと。

 それなら全員で検見川に反抗しちゃおうっていう作戦を美野里と開始したってこと。

 でも彼氏の藤木が検見川サイドに付く可能性百パーだから、そうなると男子が茜っちをイジメにかかるし、女子の結束も乱れちまう。

 そうならないように男子の多数派工作が必要だから、それをオレにやって欲しいってことらしい。

 茜っちは、そういう入り組んだ事情を淀みなくきちんと、順序立ててきれいに説明してくれた。

 ほんと、びっくりするくらい理路整然。

 普段、美野里のハチャメチャな日本語に慣れてるせいか、なんか女子アナと話してるみたいだ。


 そうか……。

 茜っちって頭いいんだ。

 でもって元気印で、出るとこ出てて顔ちっさいって、めっちゃいいじゃん。

 いやいや、んなこと考えてる場合じゃない。エラい状況じゃねえか、これって。

 

 「できるよね、今からだよ。オネムとか言っている場合じゃないからねワタ君、健全な高校生は二時まで起きてるから。ちゃんとできてなかったらお仕置きよ」

 お仕置きってなんか甘い響きだけどこの状況でこのワードって、なんかリアルすぎてオソロシイ。

 「分かった、ま、やってみる」

 「さっすがぁ、やっぱワタ君、男の子だよねぇ、ちんちん付いてるもんねぇ」

 これってどう答えればいいの?


 「あのさ、ルリーGってさ、女の子のブランドじゃん。だったら男子の場合、旗印ってか、象徴みたいのにはならないんじゃないの」

 「あれ、ワタ君そんなことも知らないんだ。ルリーGには男の子バージョンがあって、それがルリーB。あとステーショナリーもかわいいのあるから探せばけっこう、男の子でも使えるのあるよ」

 知らなかった。

 茜っちはオレが無知なのを知って説明を続けた。

 「まあ、バズってるったってほどほどだしショップじゃ売ってないからね。MUSTYって会員制のサイトでしか売ってないの。だからちょいプレミアム感ありぃのプチメジャー」

 「分かった、勉強してみる」

 「うぅん、でもワタ君、勉強はいいけど早く動いた方がいいと思うよ。向こうも今、拡散してるとこだからさ」

 「分かった」

 「じゃ切るね、頼むね、頼んだぞオヌシ、じゃあねえ」

 最後にチュってきこえたのはキスの音ではないだろーか。

 柔らかい唇の感じが全身を巡る。と同時に全身がブルルって震えた。

 男ってバカだ。てかオレか、バカは。

 ともかく、どこから切り崩そうか、説得しやすそうな友達を思い浮かべた。

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