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ビビりのワタル? うん、そう、オレのこと。  作者: 伊藤宏


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19/37

何とかペチーノなんて目じゃないぜ、てか「やっほーワタ君」って言われるとなんかペースつかまれちゃう相変わらずのオレ。 by 柿本亘

不登校になった美野里を気遣っているうちに、いつの間にか自分がターゲットになってしまったワタル。

ある日、ワタルは、西園茜から呼び出しを受けた。

目的は何なのか。訝しさを胸にデート気分を味わうワタルだったが…。


 藤木と検見川がいなくなって学年の勢力図はリセットされた。蹴落とされたのがふたりってのは間違いないけど、じゃあ誰がのし上がったのかっていうと、謎だ。

 まあ、オレにとって楽園じゃないってことだけは確かだけどね。


 オレはたぶん、カーストがひとつ落ちた。

 理由は明確。美野里んちに通ってるからだ。

 一応は学校のお使いだし、家近いからってことで言い訳は立つんだけど、イヤだったら断わりゃいいんだからさ、それが一部の連中には面白くないってわけ。


 帰りに遊びに誘っても誰も付き合ってくれなくなったし、なんか違うとこでグループができてて、オレには何の情報も回ってこない。

 いいけどね。

 最初っから下層階級の人間だしさ、なんたってビビりのワタルだし。


 でもなぜか今日は、茜っちに呼び出された。

 嬉しいけど、ちょっと複雑。

 待ち合わせ場所がなんと、日曜日の巣鴨だぜ。通称、おばあちゃんの原宿。

 何で? て誰でも思うよね。

 でもオレには「そうかっ」て閃くもんがあるわけさ。

 なんたって今のオレは、親しく話してっとこ見られただけで面倒なことんなる。今のオレってそういう存在だ。


 でも確かにね、ここなら安全だ。ふだん渋谷で遊んでる連中なら、まず、来ねぇ。


 でもな。

 茜っちから、一緒にいるとこ見られたくないって思われんのはやっぱちょっと……。

 寂し。

 でもまぁ、デートだって思い込んで気を取り直す。


 茜が指定したのは小論美亜(コロンビア)っていう、昔の暴走族みたいな名前の地下一階の店。その店がさ、すっごいレトロなの。

 テーブルなんてあれさ、テレビゲームが埋め込まれてるあれ、テーブルゲームっての? あれがあんだよ。まさか現役のにお目にかかれるとは思わなんだ。

 しかしね、こんなん使ってて純喫茶って名乗っていいのかね。

 だってゲームが目的だったらコーヒーの味なんてどうでもよくね? 何が純なんだろね。

 にしてもなぁ、古めかしい椅子といい、貼りっぱなしのロックなポスターといい、この店ってもう遺跡だよ、遺跡。



 四時の約束に三時にきちゃったオレは、コーラ飲み終わっちゃったんで、チョコレートパフェを注文してぺろぺろやってた。

 控えめに言って、これ最高だ。

 悪いけど、何とかペチーノなんて目じゃないぜ。


 カランカランってこれまたレトロな音がして、あの声が店内に響いた。

 「やっほーワタ君、待たせちゃったかなぁ、てあたし遅れてないよね、あ、何食べてんの」ってしゃべりながらまっすぐオレんとこに歩いてきた。

 なんか久しぶりに声聞いた感じ。うん、いいな。

 今日はデニムのショーパンにだぼっとした白のロゴTときたか。相変わらずキュートだぜ。


 すみませ~んって、店の人が注文取りに来る前にカウンターに声を掛けて「アイスコーヒーお願いしまぁす」って茜っちの方から先にオーダー。

 これも、らしい。


 「それ何」

 「チョコパフェ」

 「へえ、ワタ君、甘いもの好きなんだ」

 「うん、オレって意外とペチーノマニアなんだよね」

 「ペチーノ? あああれ。カロリー爆弾じゃん」

 「そうなの? でもあれよっかぜんぜんこっちの方が美味いんだよ」

 「いいなあ、あたしなんてすぐ太っちゃうからさ」

 「へえ、西園さんでも気にするんだ。別に太ってないじゃん」

 名前呼びは一旦引っ込めた。だって彼氏昇格試験の結果、はっきり聞いてないし。

 「女の子はみんな体重気にするんだよワタ君」

 「あ、じゃあもしかしてこれ、目の毒だった?」

 「平気平気、遠慮なく食べちゃって」

 そう言うと茜っちはテーブルに両肘を着いて、でもって左右の手の平でちゃっちゃい顔を支えて、オレの口元をじっと見つめにきた。


 おいおい、そんな間近で見つめられちゃ食べらんねえじゃん。

 てか、まじ照れるし。

 んで、「あ、ビビってるぅ」とか言うし。

 「ビ、ビビってねえわ」

 茜っち、もしかしてアイスコーヒー来るまでずっとこうしてる気?

 「ウソ、ごめん」

 よかった、解放してくれた。

 「あたしだって食べるよ、食べるときは。こういうお店はね、プリンアラモードが美味しいんだよ、知ってた?」

 「へえ、西園さんってこういうとこ詳しいんだ」

 「うん、喫茶って今けっこうトレンドだからね

ー。……あ、もしかしてワタ君、あたしが人目を避けるためにここ選んだって思った?」

 オレは図星を突かれて勢いよく首を左右に振る。

 やばい。オレってなんで心を隠せねえんだろ。

 やんなっちまう。

 茜っち、笑ってるし。 

 恥ずかし……。

 「違うよワタ君、昔から好きなんだ、このお店。おばあちゃんに連れられてよく来てたの。アイスコーヒーは最初からお砂糖が入っててね、香りもちょっと違うんだよ。あとね、チェーン店のと違って濃いぃの」

 「ほおー」

 って完全にごまかしの返しをしつつ、オレはパフェグラスの底に残ってたチョコをスプーンでかき混ぜた。

 

 アイスコーヒーはグラスじゃなくて、持ち手の付いた金属のカップに入ってた。

 銅製かな。

 茜っちは銀のミルクピッチャーに入ってたクリームをとぽって全部入れて太めのストローでからからってかき混ぜて、んでもってごくごくって二口飲んで「ふぅ~」。

 おっさんみたいだけど、不思議とかわいい。


 「やっぱあれよね、お砂糖とクリームが入らないアイスコーヒーなんてさ、美野里がいない学校みたいなもんね」

 「へ」

 いきなりその話題?

 「ワタ君さ、聞きたいんだけど」

 「うん」

 「美野里って今、どういう状態なの」

 そっか、今日はそういうことか。

 「どうって、そんなの電話すりゃいいじゃん」

 「出ないから聞いてんじゃない」

 「え、そうなの」

 「もお」

 茜っちが頬を膨らました。

 目がマジだ。

 これは覚悟してかからんと。


 「最近は部屋に入れてくれるときもあってさ」

 「ちゃんと会ってんだ」

 「うん、リビングんときもあるけど、部屋んときも。なんとなく気分で分けてんだけど」

 「じゃあいろんな話、してるよね」

 「あ、うん、でも西園さんの話はあんま、してなくってさ」

 うそ吐いた。

 「そんなことないでしょ」

 「うん……。元気? って聞かれた」

 「で、何て」

 「元気だよって」

 「ワタ君」

 茜っち、オレのこと、じっと見つめてる。

 ……怖い。


 「ワタ君うそ吐いてるよねえ~」

 「はい」

 一秒で陥落。

 「言って!」

 「あのさ……、とんでもないことしちゃったって」

 茜っちはアイスコーヒーをひと口含み、苦そうな顔でごくりと飲み込んだ。

 「そうなんだ」

 「うん、あとね」

 「何?」

 「許してもらえるとは思ってないって」

 はあ~って小さなため息。

 「そっかぁ。じゃあ、寝返ったのはほんとだってわけだ」

 「美野里はさ、亜由美に脅されてたんだよ」

 茜っちは何それって顔でオレを見た。

 あれ? 知らなかったのかな。

 「亜由美って普通に見えっけどマジ本のヤンキーでさ」

 「知ってるよぉ、そんなの有名だもん」

 「じゃあさ、美野里の気持ちも」

 「あのねワタ君」

 いきなりおっきな声で被してきたんでちょっとビクったけど、オレが話を聞く態度をみせたら少し落ち着いてくれた。

 「あたしね、ほんとのこと言うと、ワタ君が助けてくれるまで怖かった。卒業までこの地獄が続くんだって想像したら、まじ暗かったもん」

 「うん」

 そんなふうに言ってもらえるのは嬉しいけど、今日は単純に喜べない。

 だって。

 ていうことはさ。

 やっぱ美野里を赦せないってことになんね?


 「美野里、西園さんが電話しても出ないの?」

 「うん、裏切ったんなら裏切ったで、本人から聞きたいんだよね」

 裏切ったって言い方がちょっと生々しい。

 「聞いてどうすんの」

 「分かんない。聞いてみないと」

 「あのさ、西園さん」

 「え」

 「ビビりのオレが言うのもなんだけどさ」

 「うん」

 「美野里って、オレが思ってるほど強くなかったのかもしんない」

 「どういうこと」

 「オレ、西園さんみたく強いって思ってたからさ、でも」

 あ、どうしよ。鋭い目がまっすぐオレに向いてる。

 「ワタ君。ワタ君は恩人だから一回だけは赦すよ。でもね、それ、最低」

 「へ」

 「女に向かってお前は強いとか」

 お前なんて言ってない。

 「強い人なんていないよ。男だってそうでしょ、男は強いの? 無敵? それが当たり前? もしそうだったらさ、ビビりのワタ君なんて最初っから軽蔑してるし」

 何も言い返せなかった。

 どうしよう。茜っち、目がちょっと潤んでる。

 「……ごめん」

 

 それから、会話が止まった。

 茜っちと顔合わせてて沈黙なんて、ちょっと重い。重過ぎる。



 パフェグラスはもう空だ。

 どうしよ。

 あ、そうだ。プリンアラモードっての、頼んじゃおうかな。

 いや違うか。この状況でプリン食ったらお前は宇宙人かって話だ。


 お代わりの水をもらってちびちびやってるオレの目の前で、茜っちはアイスコーヒーを飲み終えた。

 やばい。

 このまま黙ってバイバイなんて耐えらんない。それにさっき言われた「最低」ってフレーズも。

 

 「西園さん」

 茜っちはオレの問いかけには答えず、俯いたまま、目だけでオレを見上げた。

 「あのさ、西園さんはやっぱ、美野里のことは、赦せない?」

 茜っちは答えようがないって感じで顔を左右に振って伝票を取り上げた。

 待って!

 「美野里はさ、裏切ったってわけじゃないと思うよ」

 だめだ、財布を開けて小銭を数え始めた。

 で、テーブルに百円玉を並べながら言った。

 「あのさ」

 「うん」

 「美野里に伝えといて」

 「へ」

 「あたしが、電話待ってるって」

 「うん、わかった」

 「やっぱ直に話したい。ぜったいだよ!」

 そう言って茜っちは席を立った。

 

 そして、ドアの手前で振り返ると「ごめんねワタ君」って言い残して店を出ていった。


 ごめんって何だよ。

 呼び出しといてこんな話ってこと? それとも、もう会わないってことかな。

 だとしたら彼氏昇格案件は白紙ってことなるのか。


 まあ、しょうがねっか。

 なんたって最低、だもんな、オレ。

 でもさすがにちょっと、落ち込むわ。

 

 でもおもしれえ。

 死んじゃおうかなって、ちょっと前のオレならすぐ考えたんだろうけどさ。

 なんか今、そんな気んなれね。

 何でかな。

小論美亜。

巣鴨をご存知の方なら「あれ、もしかしてあの店?」と思われたかもしれません。

小論美亜は、このあと何度か登場しますが、店名もメニューもフィクションです。

お店がどこか気になる方は、ぜひ巣鴨地蔵通り商店街をご訪問ください。すぐ分かると思いますよ。


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