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ビビりのワタル? うん、そう、オレのこと。  作者: 伊藤宏


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うち来るなって美野里は言うけどさ、やっぱそういうわけにはいかねって、ほっとけないよ。 by 柿本亘

どうしても美野里のことが心配なワタル(柿本亘)

ワタルは、完全に引きこもった美野里と、何とかして接点を持とうと試みる。

 久々に写真のライブラリーを眺めてた。

 美野里のだ。

 まあ確かに後ろ姿が多いんだけどさ、ほんとはそうじゃないんだよね。狙いがちょっと違うんだ。


 あいつ、横顔がいいんだよ。

 それも無防備っつうか、何にもしてないときの横顔。それと、そっから弾ける笑顔ね。

 これ多分、あいつ自身気付いてない。てか横顔なんて自分じゃ見れねっか、そりゃそうだ。


 えっとねぇ、どこがいいかってのは、うまく言えないんだけど。

 鼻筋の線とかかな。あと、そっから顎に落ちるとことか。

 それにあいつ、前髪垂らしてっけど、ぜったい額は出した方がいいと思うんだよな。したら上から下まで横顔パーフェクトだもん。後ろ頭も形いいしさ。


 あれ?

 これ……。

 ロングショットだから気付かなかったけど、美野里、カメラ目線だ。

 てことは何。

 気が付いてたってこと?

 バカみてえじゃん、オレ。

 

 そっかぁ、知ってたのか藤木にバラされる前から。

 はぁ~、美野里って何か、存在でけえなあ。

 やっぱぜんぜん適わねえや。



 あ、それより電話だ。

 そうだよそうそう。

 勉強机から電話掛けようと思っててスマホいじってるうちにこうなったんだよ。


 よし!

 オレはスマホを握ったままベッドに身を投げた。んで、勢いで美野里の名前をタップして運命に身を任せた。

 ていうほど大げさな話じゃないけどね。


 でも美野里は出ない。

 へ、そこは想定内だよ。

 十回コールまで待って一回切って、で、も一回掛け直すと。

 どうだ?

 ほぉら二コール目で出た。こういうとこあいつの性格なんだよ、ちょっとひねくれてんだ、はは。



 「おーい」

 呼びかけても返事はない。

 物音もしない。

 呼吸音も聞こえない。

 ほんとに繋がってんのかな、とディスプレーを見たら通話時間はしっかりカウントアップされてた。

 ちょっと動揺する。

 こんなことってなかったからね。


 で、結局オレの方が耐えらんなくなって、「生きてっか」と静かに問いかけたら、即答で「死んでる」って返ってきた。

 よしよし。


 「怪我どうよ。(あと)、残んないって?」

 再び沈黙。

 「骨とかはだいじょぶだったんだろ」

 怪我の経過はおばさんから聞いてるんだけどね、一応はさ。やっぱ本人から聞きたいじゃん。

 「やめなよ!」

 けっこう厳しい声だ。

 いつもなら突っかかってく流れだけど、今日は静かに「何を?」と返す。

 「何って、うちに来んの」

 「なんでよ」

 「なんでって、ワタルまで標的にされるよ」

 「だいじょぶ、男子、結束堅いし」

 「舐めない方がいいと思う」

 あらら、美野里、マインドやられちまったかな。弱気なんて見したことないのに。


 「知ってっか? 検見川、ガッコ来てないぜ」

 「……そうなんだ」

 「おお、なんか親父さん逮捕だって。その関係じゃねえかな」

 「じゃあ、たぶん」

 「ん?」

 「今まとめてんの、たぶん亜由美じゃないの?」

 亜由美。

 寺澤亜由美。

 裏ヤンキーって噂の?

 でもなんかな、イメージ涌かねえわ。

 「なあ美野里、そういう情報ってどっから入んの」

 「入るわけないじゃんそんなの。あたしが感じるんだよ。ここんとこ、わりと近くで接してたから」

 「じゃあ、お前に怪我さしたのも、亜由美か」

 「違う」

 「じゃあ誰だよ」

 沈黙。そして、

 「ひとりで転んだの」

 はぁ~、こりゃ重傷だ。

 「お前な、オレにはほんとのこと言えよ」

 「だって、ほんとなんだもん」

 はぁ~。

 「まあいいや。じゃあ大丈夫なんだな」

 「ねえ」

 「何」

 「ほんとやめなよ、うち来るの」

 「オレが好きでやってんだからほっとけ。それに先生からも頼まれてっし」

 「浦賀なんてどうでもいいじゃん」

 「確かにそうだな、浦賀はどうでもいいな」

 スマホの向こうでふっと笑ったような気がした。

 

 これで打ち解けて、さして重要でもないことを少しだけしゃべった。

 ウケる動画のサイトとか、最近読んだ漫画の話とか。ぎこちなさは否めないけど。


 きっと他人から見たら何ごともないみたいに見えんだろうな。

 でも。

 オレらは慎重に学校の話題を避けてた。


 それにしても、ちゃんと話すんなんて久し振りな気がする。表面上だとしてもだよ。


 ようやく、そろそろ寝ようって話になったとき、美野里が黙った。

 

 分かってる。

 茜のことだよね。

 気にしてんの、分かるよ。これだけ話しててひと言も触れないっての不自然だもん。

 でも話せることはまだ何もない。彼氏昇格も宙ぶらりんだしさ。でも、まだなんか、時期じゃないような気がする。


 「また掛けっから」

 「うん」

 じゃ、とオレは電話を切った。通話時間十二分四十二秒。初日にしちゃまあまあじゃん。


 ノートを入れた封筒に、手紙を入れといたけど、気が付いたかな。

 メモだけど。

 [味方だから いちおうな byビビりの亘]ってね。

 笑ってくれたかな。

ワタルってビビりだけど、優しいやつなんです。

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