計画性は必要です①
結局、昼も夜もマリーに付き合わせられるのは勘弁してくれ、こっちは仕事で疲れているんだ、とジフに言われ、マリーは、渋々1週間後のランチの約束で引き下がった。
ジフとの約束までの1週間、マリーは部屋の片付け、そして、次の部屋探しに明け暮れた。
なんといっても、現在の住まいは、役場の女子寮。辞めたら最後、住めるはずがない。
たまに、近くの部屋の人がもの珍しいげに見てくるが、声をかけて来るものはいなかった。
「3年近く住んでいるのに…まぁ、仲良くなる人はできなかったわね…別にいいけど…」
マリーはそう呟きながら手を動かした。
◇
「ちょっと、ジフ、どうしよう!」
約束のランチで席に着くなりマリーはそうジフに泣きついた。
ちなみに先週と同じカフェだ。
席はいくつか空いていたが、端の方に案内されたのは多分、偶然だ。
「はいはい、まず、注文な」
やってきた店員に、マリーもサンドイッチと紅茶でいいんだよな、と確認しながらジフは注文した。
「で?」
注文を終えたジフがそう聞くと、マリーは彼女らしくなく、小さな声になった。
「どうしよう、住むところもみつからない…」
「はぁ…」
落ち込むマリーを見ながらジフは大きくため息をついた。
運ばれてきたサンドイッチをそれぞれ口に運んだ。
「まぁ、無職の人間に貸そうって思わないよな」
「まだ、無職じゃないわ」
「でも、もう数週間すれば、無職だろ」
「しゅ、就農するんだから、無職じゃないわ」
言い返すマリーの言葉に、いつものような勢いはない。
「じゃあ、どこで始めるか決めたんだ?」
ジフがニヤリと笑いながらそう言うと、マリーは力無く首を横に振った。
「何で農業始める場所も決めないで、住むところをさがしてるの?」
「だ、だって…辞めたら今のところ出て行かなきゃならないじゃない」
「友人とこにでも転がり込んだらいいだろ」
「じゃあ、ジフのとこに泊めてくれる?」
縋るような目でみつめられて、ジフは思わず天を仰いだ。
「俺の部屋は男子寮だ!マリーを泊められるわけがないだろ。いや、そうじゃなくても…うん、だめだろ」
がっくりとマリーは肩を落とした。
「マリー、友人いないのかよ」
「ジフがいるわ」
「おう、俺、マリーの友人だったんだな」
知らんかったわ、とジフは言いながら憐れみの目でマリーを見た。
「つまり、俺以外に友人はいない、と」
「じ、地元にはいるわ」
真っ赤になってそう言うマリーを見て、ジフはそれ以上何か言うのをやめた。
「まぁ、とにかくだ」
ジフは気を取り直して話を続けた。
「どこでマリーが農業を始めるか、で住む場所もちがうんじゃないの?」
「そ、そうね。この近くに住むことしか考えていなかったわ」
ジフは大切な昼休憩に勤務中以上の疲労感を感じ、またため息をつきそうになり、マリーの顔を見て、慌てて抑え込んだ。
すっかり落ち込んだ様子のマリーは、でも、全く知らない場所も嫌だわ、などブツブツ呟いていた。
ジフは時間を確認すると、立ち上がった。
「もう、時間だ」
「ま、まだ、どうしたらいいか結論は出てないわ」
「仕事に戻らなきゃならないんだ」
わかるだろ、そう言ってジフはマリーに背を向けた。
「じゃあ、またら」
来週にでもな、と言いかけて、ジフは考え直した。
「また、明日な」
「待ってるわ」
マリーの言葉に軽く手をあげると、ジフは去って行った。