第9話 野宿する魔女
朝、恐る恐る天幕から外を覗くと、山猫はいなかった。眠れなかった夜を記憶から締め出し、私は天幕を片付けた。山猫がどこに行ったか知らないが、山猫が居ない間に、この場を離れたかった。
牧場に行こう。番犬をもらってこよう。空間魔法を展開し、中に少々雑にものを放り込む。急いで歩いて、山猫が居ない間に、できるだけ遠くに行こう。眠気を無視して、私は足をすすめた。
一日歩いたところで、女の足だ。遠くにはいけない。仕方なく森にまた、天幕を張る。泊めてくれる村がなかった。危害を加えられなければ、魔女が危害を加えることもないのだが、言ってわからない人もいる。疑り深い人は、平気で魔女に濡れ衣を着せるから、関わるなというのが魔女の教えだ。泊めてくれようとしない村には、関わってはいけない。
幸いなことに、天気も悪くない。魔女を拒否する村から、十分に離れていないことが、気になった。シロを連れていたころは、一人でも気にならなかった。話しかける相手も、旅の仲間も、番犬も、シロ一匹で足りた。
天幕を張るにはコツがいる。力のバランスを間違えて、天幕の支柱が傾き、倒れそうになったときだった。支柱の傾きが止まった。
「危ないな」
声が出なかった